第5話 頂点捕食者同士が争うと何が起きるか

登場人物

―ルリム・シャイコース…妖艶なる白蛆の魔王、肥えた大蛇のごとき麗人、己の領界ドメインの支配者。

―レベル5の異常重力体…自我を持つ邪悪なブラックホール、星々を渡り歩くコズミック・エンティティ。



『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


詳細不明(リニア時間線的観点では恐らくコロニー襲撃事件以前):魔王の領界ドメイン


 オサダゴワーの名で知られるズヴィルポグア卿の父神であるサソグア卿を信仰する、黒い粘液じみた生命体達の地下深くにある都市で、退行した宇宙航行種族であった何か――人喰いの大蛇じみた異形――が捕らえられていた。罪も無い粘液達の同胞を何人も捕食し、じっくりと時間を掛けて消化してきた化け物じみたその生き物は、しかし人々の努力と信仰に敗れたと見てよかった。己らを創造した不定形の原形質じみた神々とは異なる異星神であるサソグア卿を、己ら本来の神々の中に組み込んで崇敬する勇猛な騎士団の活躍により、鼻持ちならぬグロテスク極まる怪物は、その厭わしい悪臭を放つ口を拘束具で閉じられ、光無き暗闇に閉ざされた粘液種族の壮麗な都市の広間にて、今か今かとその処刑の時を大勢の観衆から待望されている始末であった。気色の悪い脈動と共に身をよじるも、しかし凝固強酸性プラスチックのワイヤーで縛り上げられ、あたかも祭神に捧げられる贄のごとき様ですらあった。

 隆盛なるケイレン帝国の甲殻を持つ蛸達には最高級の食材として狩られているこの化け物が果たしていかなる傲慢さの責任を問われ、いかなる実体の怒りを買ったのか、あるいはそもそもそれ以外の理由であったのかも知れないが、ともあれ何かしらの要因によって星間文明を築ける地位から転落し、卑しき人肉嗜好の魔獣として銀河で恐れられるようになった起源は定かではなかった。まあ、問題は結局のところそのような脅威が有効なままか、それとも無効化されたかどうかであった。

 その点現状においては勇者達の犠牲と献身とで偉業が成し遂げられ、ひきがえるじみた巨躯のサソグア卿は己の名の元に行われた英雄譚に対して物憂げな表情をその美貌に浮かべて満足し、原形質じみたこの種族本来の神々もまた、サソグア卿の冬の宮殿で卿と五次元的なボードゲームの類いに興じている不定形のザーデロン卿を始めとして、人間が聞けば腐敗して死ぬ美しき声で歓喜している程であった。

 そのようなある種の微笑ましき様があったが故に、まさかいきなり、この捕らえられた怪物が黯黒都市の無光の中で藻掻き苦しみながら死に、その吐き気を催す様から我先に逃げようとした粘液達が狂乱の中で死傷者を出したが故に、それを歴史に書き記さねばならなくなったのは、まさにどう解釈すればよいのか迷う事態であった。

 言うまでもなく妖艶なる白蛆の魔王ルリム・シャイコースが己の次元に侵入したレベル5の異常重力体と交戦した事による余波や巻き添え被害であり、宇宙の残酷さを不本意に物語り、それ故にその意味合いにおいては例によってエッジレス・ノヴァへの賛美であった。

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