第4話 命令する者vs無視する者

登場人物

―ルリム・シャイコース…妖艶なる白蛆の魔王、肥えた大蛇のごとき麗人、己の領界ドメインの支配者。

―レベル5の異常重力体…自我を持つ邪悪なブラックホール、星々を渡り歩くコズミック・エンティティ。



『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。


詳細不明(リニア時間線的観点では恐らくコロニー襲撃事件以前):魔王の領界ドメイン


 魔王は己の領界ドメインの絶対者として対象を凍結する事を望んだ。限定された領域内での現実歪曲的な作用が働き、現実そのものがその形を改竄されていった。重力に関する自然法則は指定範囲内で慄然たる死刑宣告と共に全て停止し、故にレベル5の異常重力体は永久停止し、この領域における壁の染みや汚れとなんら変わらない些細なものへと成り果てるはずであった。

 しかし実際にはそうならなかったのだ。尋常ならざるブラックホールそのものの怪物は嘲笑っていた。甲殻類と軟体動物の中間じみたラーン=テゴス卿の美貌を誤って直視してしまった哀れな犠牲者が半ば狂乱した様子で視界に映る全てを笑い物にするかのごとく、相手が高位の悪魔であろうとお構い無しであるらしかった。魔王級の悪魔が持つ領界ドメイン内での絶対性すら無視した様子で漆黒の力場はげらげらと笑い続け、全く影響を受けた様子も無しに、一切の遠慮もせずに天空を踏み荒らしては歩き回っていた。このような種類の邪悪にとっては、相手が己と同じようなコズミック・エンティティであろうとそれは全く問題ではないのだ。そのような実体が相手であろうと、わざわざ『相手の庭が荒れるかも知れない』などと配慮する理由などないのだ。

 絶対者は別の絶対者を心配する義務などない――と考える者がいるが故に、星界の巨神同士が時折激突する事となる。

 邪悪な愉悦に浸るブラックホールは、これまで多くの契約者を搾取して破滅させてきた地獄めいた悪魔を小馬鹿にするという行為を楽しんでいる可能性はあった。相手がどの程度の実力であるかを承知した上で侵略した可能性は考えられた。結局のところ強者はしたいようにする事ができると考えており、凍結を無視して振る舞う異常事象アノマリーは、相手が『そう望まなければそうはならない』という法則で支配されたこの地において、信じられないような冒瀆的ですらある重力作用をあちこちに発生させ始めた。

 緻密な計算と美意識とで作り上げられた雄大な雪被りの山脈へと突如形成した中性子星を落下させ、大地や山々が星間文明の使う大量破壊兵器から生じるようなこの世の終わりじみた轟音――及びそれに見合った終末的な破壊効果――でぶち壊しにされる様を楽しんでいた。事実上魔王その人の血肉ですらある、自由自在に捏ねて加工可能な領域そのものを蹂躙していた。

 それが可能なのは並みの力量ではなかった。神々の王とて魔王の本拠での戦いを避けるはずであった。あるいはタイフォン卿やハスター卿のような武神でさえもそうするはずであった。だが、この悍しい怪物は例外であるらしかった。あるいはそれら神々よりも更に強いのかも知れなかった。

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