第3話 牽制合戦
登場人物
―ルリム・シャイコース…妖艶なる白蛆の魔王、肥えた大蛇のごとき麗人、己の
―レベル5の異常重力体…自我を持つ邪悪なブラックホール、星々を渡り歩くコズミック・エンティティ。
『名状しがたい』注意報――この話は冒頭から文体がけばけばしく、改行が極端に少ない。
詳細不明(リニア時間線的観点では恐らくコロニー襲撃事件以前):魔王の
妖艶なる白蛆の魔王ルリム・シャイコースは侵入者が思った以上の強敵である事に内心驚いていた。わざわざ意図的に魔王その人の巣へと出向き、愚かにも戦争を仕掛けるのであれば、確かにその程度の強さがあって然るべきなのであろうが、それにしてもここまでとは予想していなかった。ドメインのあちこちで降雪現象――魔王その人がそう『振る舞うべし』と制定したもの――が死に始めており、時間が遡行し、空間が朽ち、機能しないよう打ち切られた重力の法則が怯えるのを尻目に、自我を持つ邪悪な異常重力体はげらげらと笑いながら己自身に典拠した重力の諸現象を発生させ続けた。
魔王クラスの
「ここまでのご客人とは思っていませんでしたが、それなら趣向を変えるとしましょうかねぇ」
絶対者が御自らの声を通して意志表明した事によって周囲が華氏三〇万度の凍てつく高温の冷気に埋め尽くされ、氷点下を遥かに下回る溶岩流が暗い空を駆け巡って渦巻いた。その尋常ならざる様は魔王の居城から下級の悪魔どもを逃亡寸前まで追い詰め、強靭な精神を持つはずの者どもが精神を蝕まれて苦しむ悲鳴があちこちで木霊し、ある種の地獄めいた合唱会であると言えた。あえて記録を残したい者とていないと思われる凄まじい惨劇が起こる中で、それらの下劣な様を見ては面白がって侮蔑する渦巻く邪悪の七次元的な腐敗の声色が太陽光のごとく降り注いだ。
魔王は異次元的な作用が己に襲い掛かるのを傍観し、それが己を一切揺るがせぬ事実には満足しつつも、しかし冷気であれ溶岩流であれ、貪欲極まるブラックホールの作用によって飲み込まれ、飲み干される様にはどうにも釈然とせぬものがあった。
趣向を変えようとは思ったが、しかしその実思い留まった己の気紛れを僅かに後悔すると、妖艶なる白蛆の魔王は周囲の人工的自然環境の氷河を形成する氷を大量に引き剥がし、それらを粉々に分解しながら身振りで軽く指示した。『ロキの時間線観察記録』の、ジャカルタの地下奥深くに封印されたウルドゥー語写本の後ろの方のページに書き込まれた乱雑な英文メモに、これまで引き起こした過去の様々な契約的惨劇を畏れ多くも記録されているルリム・シャイコースは、そのような稚拙な記録がいかに無意味であるかを証明し続けながら、この次元の支配者としての矜持と共に天を睨め付けて攻撃を仕掛けた。
小競り合いは終わり、攻撃の意図を持ったれっきとした攻撃が放たれ、その作用によって自我を持つブラックホールは重力の全ての作用や法則を凍結され、一切『動かなく』なるはずであった。というのも、この地の支配者が当然の権利としてそのように望んだからであった。
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