月光

@pen24

(私)


月明かりの下で、絶望の影と手を繋ぐ。

へんてこな形をしたそれは、紛れもなく私の影だった。


月光には魔力がある。

私がこの影を映し出すのも、影が私に触れることができるのも、その為だ。


風が吹き、流れてきた薄雲に月が覆われるにつれて、私は暗闇と混ざり合い同化する。

すると影もみるみるうちに薄くなり、その輪郭は朧になる。


「私は絶望なのだ。もう消えてしまいたい」

影は言う。

だけど、どれほど影が傷ついていたとしても、言葉をもたない私には何も応えられない。

加えて影曰く、私は絶望なのだ。


このようなことを思った。

私が何者でも構わない。私の言葉は影のものだ。だから手を離さないまま、歩き続けている。



(影)


大きな雲が月明かりを完全に覆い尽くしたとき、遠く西の空にこぼれそうな星々が現れた。

影にはそれら全てが泣いているように見えた。

気がつくと、繋いだ手の感触が消えている。

「私はどこ?絶望はどこ?」

星空が揺れ、落ちてくる。

影はとうとう消えてしまうのだと思った。

目を閉じて、じっと耐えた。


夜が明けて陽が昇りはじめると、影は形を変えてゆく。

離れたはずの手が、いつのまにか繋ぎ直されている。

それは紛れもなく私のものだった。


陽光の下に晒された私の実体は、何もかもが鮮明だ。

しかし影はもう、私が何者であるのかを見出すことができない。

立ち尽くしたまま、ありもしない白んだ月を探している。

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