刺激が欲しいとは言ったけど

ほんのりと温かい感触がつむじの下あたりに当たる。陽の温かさか、淡い光に照らされたようにぼんやりと見えてくる。

「だいじょうぶですか?」

はっきりとは見えずともわかる。百合の花を連想させる頬辺りの輪郭に、ラムネ瓶の様に透き通った碧い眼

「天使様?あっ僕死んだのか。あぁ...そっか」

「坊主ッ!天国にいけるわけないだろうが。何かの手違いで天国に行こうがお前にゃ白い鳩で十分だわっ」

「矢間ちゃん!そう簡単に死なないで!そうだよ、矢間ちゃんなんかに天使なんてもったいないって」

「なんだ違うのかよ。面白くない。よっこらしょ」

横になった体勢から立ち上がろうとしてそこら辺をつかむ。丁度いい大きさののくぼみに指がすっぽりと入る。

「ひゃっ!」

「なにしよるやエロわっぱ!はよ手どかしいや!」

爺さんの歳の割に強いローキック、僕の脇腹へ身体が某テレビ局のバナナみたいになった。

ゴキッ

鈍い音と途端に崩れ落ちる爺さん。あーあれだ、明らかなギックリ腰って奴だろう。のそのそと腰を上げながら爺さんに近づく、座布団を片手にちょっと引きずりながら。

「爺さん、大丈夫?歳のこと気にせずはしゃぐからだよ」

「坊主、元はと言えばお前が、恵菜の、恵菜の体をまさぐりまわそうとしたんだろうに」

「恵菜ちゃん?なんで恵菜ちゃんが出てくるのさ。いくら何でもボケるの早いよ?」

「矢間ちゃん?後ろーをごーらーん」

言われて後ろに振り返る。目に入るのはすりガラスを通した陽の光に照らされた、百合の花を...(以下略)

「・・・」

息をゆっくりと吸い込む。酸素とともにさっきまでの状況が体に入ってきた。さっき僕が触ったくぼみは、くぼみは

「私気にしてないですから、私がすぐに離れなかったのが悪いんですし、私の触ったこととか気にしてないですからぁ」

恵菜ちゃんが熟れ気味の桃みたいに頬を赤らめて部屋を出て行った。古い廊下がもう限界といわんばかりの悲鳴を上げながら。なんてこった、あのくぼみは恵菜ちゃんの神秘のカルデラ湖ってわけだ(ドヤァ)。

「矢間ちゃんなにやってんのさ。全く羨まs...けしからん!全くもってけしからん!」

「坊主!お前のせいで恵菜も出ていく、ぎっくり腰になるわで散々だ。何しにきよった。店はしまっとったろうに」

「爺さん、そうだそうだ。店、立ち退きって本当?」

「んあぁ?立ち退き?ほんとほんと、八月末で畳むんだよ。こんなボロ酒屋、何の思い入れもねぇしな」

そうやっていつもの見慣れたタバコを、小刻みに震える骨ばった手でふかす。夏場とは言え、日が暮れて薄暗くなって爺さんが影絵みたいになった。タバコの灰が淡く寂しげに燃えていた。

「それがどうした。冷やかしにでも来たか」

「そんなわけないだろ、僕たちは心配してきてんのに」

「心配しに来た?その割には不法侵入するわ、ギックリ腰になるわ。厄介事持ち込みやがって、畳む前に店潰す気だろ」

爺さんが言うことがびっくりするくらい図星でぐうの音も出ない。

「ごめん...なさい。」

「この腰であと一か月どうせいってんだ...」

爺さんが見たことないくらい深刻そうな顔をする。薄いオレンジ色に染まる畳と空気に同化してた香田が口を開いた。

「矢間ちゃん手伝ったら?店」

「坊主じゃないほうの坊主、それだ!夏休みの間、ここで働け」

「え?なんでそうなるの?」

「いいじゃん矢間ちゃん、頑張って」

「なにいってんだ、お前もに決まってんだろ」

「えっ?」

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これが僕の刺激的な夏休みの始まりだ。

炭酸水みたいな刺激が欲しい、ただそう願うだけ。抜け行く炭酸は泡のように静かに消えるのか、音を立てて耳の奥に残るのか。

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