刺激強すぎかも

「爺さん、いる?久しぶりに来たんだけど」

土を固めただけのちょっとしたスペースには、使い古されているスニーカーがある。

「出かけてるわけじゃない?」

季節の割にはひんやりとした床を靴下に感じながら、経年で削れた少しでこぼこした廊下を歩く。懐かしい雰囲気に包まれた。突き当りにはふすまで囲まれた和室がある、よく爺さんにジュースとお菓子をもらってたあの部屋が。

「爺さん、ここにいるの?」

ふすまに手をかけて、すごくゆっくり横にひく。ちょっとだけ開けた瞬間、甘いようで寂しい線香の匂いが鼻に入った。

「噓だろ、そんなまさか。」

ふいに当分流れてない澄んだ涙が流れた。四年前に来た時は、爺さんは生きてた。この前来たとき店先には、恵奈ちゃんが出てた。恐る恐る仏壇の遺影を見る。見覚えのある顔、爺さんだ。きめの細かいしわに、梅干しの種みたいな大きさのシミ、ニカッと笑ったその顔が日焼けした写真に写ってる。

「おい坊主、何辛気臭い顔してる。泣き顔は男にゃ似合わねぇぞ。笑え笑え。」

爺さんの声が聞こえる。泣きじゃくってた僕に、あの爺さんが言ってくれた言葉。どこかの数学者みたいな名前のタバコをくわえて、泣き止まなければ顔に煙をかけて、人が咳込むのを豪快に笑いながら。

「ガハハハッ!坊主!ほれ、ジュースやるよ。飲め飲め。」

「冷たッ!!」

タバコの臭いと共に首筋に刺さるような冷たさが当たる。刺さるような冷たさが当たるッ⁉いやいや何が何でも思い出で匂いがするのは聞いたことはあるけど、冷たいって...

「そんなわけあるかァ!」

「坊主!人を無視したまま何叫んどるんじゃ。」

後ろを振り向いた。しわくちゃの顔が遺影から出てきたみたいに笑ってる。

「出たぁ!お化けェ!南無三!忍び込んですみませんでしたァ!もうしませんから、もう二度とこんなことしませんからァ」

線香とい草のにおいが混じった畳に頭をこすりつける。顔を上げたら呪われる、ハブ酒ならぬヤマ酒にされちゃう。

「おい坊主、勝手に人を殺すんじゃない。ただでさえ老い先短いってのに」

「へッ?」

顔を上げると爺さんが腰を曲げて立っている、ふっと身体がいうことを聞かなくなった。

「刺激強すぎたかも...」

「おい坊主⁉大丈夫か!坊主!」

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