第14話 険悪なブレックファースト
「ウィリアンヌの髪留めを盗み、隠した不届き者は誰だ。名乗り出さないのなら全員を解雇する」
あまりにも横暴とも言えるケネス様の発言に意見したのはユミゴール公爵から留守を預かる執事長だった。
「坊ちゃま。ご当主不在の今、勝手な真似はできませんぞ。わたくしめも見過ごすことはできません」
「これは俺と
「……申し訳ありません」
「父上には後で話す。今は黙って見届けてくれ。今後の生活がかかっている極めて重要な案件だ」
「はっ」
饒舌に言いくるめたケネス様は、改めて控える侍女とメイドを見回して、「で?」と問いかけた。
その中には当然のようにセラも含まれている。
彼女はわたしの専属侍女であり、このお屋敷の中では最も信頼している子だが、それ故に最も犯行しやすいと判断されてしまう。
わたしが庇うわけにはいかない状況だった。
「ウィリアンヌの専属ではなかったとしても、深く関わっているのは貴様たちなのだろう? 俺は犯人が一人だとは思っていないぞ」
冷酷な視線とドス黒いオーラ。
そして、底冷えする低い声で責められれば、涙目にもなるというものだ。
しかも自分の今後に関わってくる。
公爵家に仕える侍女は貴族の娘が多い。
メイドは更に下の身分の子ではあるが、格式高い公爵家に相応しくあれと厳しい教育を受け続けており、弛まぬ努力をしている姿をわたしも目撃している。
そんな彼女たちから職を奪う行為。
腰も抜かすというものだ。
意見しようにも仁王立ちするケネス様の前では声も出せないでしょう。
「お待ちください」
ふと、わたしはそんなことを口走っていた。
この場で唯一、ケネス様に意見できるという自信があったからではない。
泣き崩れてしまい、
それこそ、今後の縁談話にも支障をきたすのは簡単に想像できた。
「先ほどのケネス様のお言葉を借りるのなら、これはわたしだけの問題です。ケネス様であったとしても口出しして欲しくありません」
「一人で探し物も出来ないくせに?」
「うっ……それとこれは別問題です。この件はわたしに一任していただけないでしょうか」
「7人全員が共犯者ではないと証明できるのか」
普段のケネス様とはなかなか視線が合わない。
しかし、今は対面しているというのにわたしの目を睨み返し、やり込めようと躍起になっておられるように見てとれた。
だから、わたしはジョーカーを切ることにする。
「すでに特定しております」
ピンと糸が張ったような緊張感がダイニングルームを包み込む。
「犯人も動機もバレッタの隠し場所も全て」
ケネス様はテーブルの上に置いたバレッタを見下ろし、信じられないといった表情を浮かべた。
「わたしが到着するよりも先にケネス様が見つけてしまったのです。ケネス様、これは焼却炉の裏にありませんでしたか?」
「……その通りだ」
驚きの声が上がる。
セラを含めて、わたしがズルをしていることが知られていないからこそ取れる最終手段だ。
「この場で名乗りでなくて結構です。わたしは処罰できる権限を持ちませんので、ユミゴール公爵様がお戻り次第、報告し判断を仰ぐまでです」
侍女とメイドたちを見回すふりをして窃盗犯であるセシリーを確認する。
彼女は他の子と同程度の動揺を見せていた。物を隠すのが上手いように、表情を消すのも得意らしい。
「では、この話はこれでお終いです。朝食の続きにしましょう」
わたしが着席するとケネス様も渋々といった様子で着席され、使用人たちは空気の読み合いを続けながらもそれぞれの仕事を再開し、料理が運ばれてきた。
この場で犯人がセシリー=ブロンであると断罪してもよかった。
でも、確固たる証拠はどこにもない。
わたしはセシリーの胸中を聞いただけで、ケネス様のおっしゃる通り、共犯者がいないとは限らない。
だから、下手なことを言わずにこの場を収めるのが最適だと判断した。
と、いうのは建前で本音は違う。
本当はわたしは嫌な女になりたくないだけだ。
自分で仮面を被り直すと決めておきながらも、大勢の前で一人の少女を晒し上げるような悪女だと思われたくない。
ケネス様に軽蔑されたくない。
――嫌われたくない。
その一心だった。
結局のところ、わたしは自分のことしか考えていない性格の悪い女だった。
あーあ。せっかくの朝食が台無しだわ。
こんなに楽しめない食事は今後一切、遠慮したい。
きっとケネス様もそう思っておられるに違いないわ。
だって、さっきからこちらをチラチラ見ながらパンをかじっているのだもの。
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