第7話

 ふっと沈んで、目が覚めた。


 体中が痛くて、思うように動かすことができない。人工的な白い照明が、男を照ら していた。頭を少し動かすと、自分の身体から伸びる管が見える。ああ、自分は病院にいるんだなと、男は勘付いた。


「おい、目を覚ましたぞ」


 隣から突然声が聞こえてきて、男はそちらを見た。そこには、スーツにコートを羽織った中年の男と、若い男が二人で座っていた。


「御子柴徹さんですね?」

「ああ……はい」


 若い男が、御子柴に確認した。そうだよな。俺は御子柴だよな。なぜか今まで自分の名前を忘れていたような気がする。名前を忘れるなんてことがあるはずはないのだが。


「お目覚めのところ申し訳ないのですが、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか」


 若い男は、慇懃な態度だ。中年男の方は、腕を組んで御子柴の目を見つめている。


「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。自己紹介がまだでしたね。失礼しました。こういう者です」


 若い男が、何やら自慢げに警察手帳を広げた。


「私が斉藤で、こっちが──」

「武田です」


 若い方が斉藤で、中年の方は武田というらしい。というか、刑事? なぜこんなところに?


「刑事さん?」

「ええ。単刀直入に言います。あなたに、強盗致死傷罪で逮捕状が出ています。そのことで、色々尋ねたいことが」


 その瞬間、思い出した。俺は──。


「昨日の午後四時三十分頃、あなたは真藤勝さん、幸子さんの家に侵入し、通帳を窃盗した上、偶然買い物から帰ってきた幸子さんを包丁で刺殺。そのまま逃走し、飛び出し行為をして交通事故にあった──間違いないですね?」

「──はい」


 そうだ。俺は、空き巣をした。そして、突然誰かが帰ってきて、取り乱して──その先は、もう思い出したくない。


 俺は、金に困っていた。と言っても、別に父親がギャンブル狂いだとか、母親がホストに溺れたとかそういうわけじゃなく、ただ単に自分がクズなだけだ。仕事もせず、パチンコに入り浸り、金が無くなれば借金をする。その上犯罪に走って、人を殺す──か。


 自分が情けない。御子柴は、諦めたように目を閉じた。すると、瞼の裏に、『幸子』という文字が見えた。幸子? どこかで見たことがあるような──。


「おい、それは何だ?」


 武田が、ベッドの掛け布団から少しはみでた、赤い布に目をとめた。そのままその布を抜き取る。それは、マフラーだった。

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