第十一話 人間との出会い

 洞窟を出ると、外は木々の生い茂る森の中だった。


「ミュア~! ネットで見た原生林みたいミュ~」

 

 都会で見る雑木林と違って、足場がボコボコ。枝もあちこち伸びていて、空が見えない。

 動きにくいし、方角もよくわからないし……おまけにやたらと強そうな敵がウロウロしている。

 ドラゴンゾンビを倒せたのも、竜姫の補助魔法があったからなんだよな。今の俺たちじゃ、全然太刀打ちできない。

 ここから、あてもなく移動するのは危険そうだ。


⦅まぁ、幸い食料は大量にあるし。休息も大事だよな⦆

「ミュ~!」


 結局、俺たちは洞窟の出入り口付近にしばらく滞在している。

 明け方の魔物の動きが鈍いうちに洞窟周辺を探索し、昼前には洞窟に入って休む。

 洞窟には森の魔物は入ってこないみたいで、安全なんだよな。スズネも猫の姿で、お腹広げて寝てるし。

 ステータスやスキルパネル・進化ツリーを眺めながら過ごす時間は、完全に家でゲームしながらゴロゴロしているそれである。

 やばーい、お腹プルプルになっちゃーう。


「ミュ……」


 突然スズネは起き上がり、擬態した。


「人の声がするミュ……」

⦅人の声? 何も聞こえないぞ⦆


 目をつむり耳をピクピクさせ、スズネは音を探っている。

 こんな危険な森に、入ってくる人かぁ。やっぱり、冒険者とかなのかな?


「ミュ……かなり近いミュ。ちょっと外に出たら、見えるかもミュ」


 そういうと、スズネは外に出ていく。俺も後を追った。

 洞窟を出てすぐの茂みの陰に、スズネはしゃがみ込む。


「いるミュ……」


 俺も体を伸ばして覗き込むと、少し離れたところに小柄な人が見えた。大きな犬のような動物を連れている。


「どうするミュ? 声、かけてみるミュ?」

⦅えぇ……言葉通じるかな?⦆


 言葉が通じなくて、揉め事になったら嫌だしな。何より、危険だ。


「……言葉は、大丈夫だと思うミュ。ワンちゃんに話しかけてるの、聞こえるミュ。捜し物してるみたいミュ」

⦅そうか……でも……⦆


 言葉以上の問題が、この姿である。はたしてこの世界の人は、魔物に対して好意的だろうか?


⦅俺たち、魔物じゃないか。話聞いてもらえるか?⦆

「ミュ……私の擬態スキル、上げてみるミュ」


 今の擬態、最大レベルじゃないんだ。

 少し間を開けて、スズネの顔がみるみる変化していく。ケモ耳は残ってるけど、それ以外はほぼ人間だな。


「どうミュ?」

⦅もう、ほぼ人間。ケモ耳隠せる?⦆

「こうミュ?」


 スズネはパタンと耳を閉じて、手櫛で綺麗に髪の毛の中に隠す。ケモ耳って、そんな器用に動くんだ……。


⦅完璧⦆

「ミュ! じゃあ、話しかけてみるミュ!」

⦅あぁ、頼んだぞ。スズネ!⦆

「ミュッ!」


 意を決して、スズネが立ち上がる。

 ん……? そういえば顔がすっかり人間になってるけど――。


「すみませんミュー! お聞きしたいことがありますミュー!」


 茂みから歩み出したスズネは、ほぼ裸の姿だった。一応、マイクロビキニみたいに大事なところは体毛残ってるけど……それはもう、隠してる毛なのか隠せてない毛なのか分からないよ!?


「え……子ども……?」


 スズネの声に気づいて、犬を連れた人も振り向く。

 いやー!! ダメー!! 子どもの姿とはいえ、人様に妻の裸を見せるなんて!! 俺の心が耐えられないー!!

 俺は必死に、スズネの大事なところを隠すようにまとわりついた。とりあえず、胸とおしり!! あと適当!!


「ミュ?」


 重みで動けなくなったのか、スズネが立ち止まる。ふぅ……な、なんとか間に合ったぜ。

 裸で歩き出すなんて、うっかりさん過ぎるだろ。


「いやぁぁっ!? どうなってるの!?」


 女性の声が大きく響き渡った。横では荒々しく吠える犬のような動物。

 あ……これって、まずい状況?


「今助けるわっ! このっ! この子から離れなさい!!」


 ひいぃぃっ!? 痛い、痛いって!!

 前からは女性に力いっぱい引っ張られ、後ろは犬に噛みつかれている。

 でも、それでも!! たとえこの身が引き裂けようとも、妻の貞操を守らなければ!!


「止めてミュッ! この人は私の夫ミュッ!」

「人!? 夫!? そんな……もう脳まで侵食されているの……? だ、大丈夫よ。街に行けば、なんとかなるかも! しっかりして!!」

「ミュミューッ!?」


 とんだ修羅場になってしまった……。スズネも動揺して、もはやケモ耳を隠せていない。

 なんとか収拾をつけなくては……。


⦅すみません、お姉さん⦆


 俺が念話で話しかけると、お姉さんは身を引いて構えた。とりあえず、距離は取れたな。

 

「くっ……このスライム、洗脳の技を使うの……?」

⦅あの、そういうのじゃなくて……俺たち、本当に夫婦なんです⦆


 女性は何かに抗うような、苦しそうな動きをしている。だから俺、そういう淫魔的な技使わないって……。

 まぁいいや、続けよう。


⦅その、お願いがあって――⦆

「うぅっ……そんな手には……」

⦅妻……この子、今、裸なんです……⦆

「はっ……?」

⦅なのでその……何か……羽織るものを、お借りできませんか?⦆

「……はぇ?」


 気が抜けたのか、女性はへたりこんでしまった。


「はぁ……酷い目にあったミュ。だから、夫婦だって言ったミュ!」


 女性から解放されて、ようやく文句を言い始めたスズネ。お前も、裸で歩き出したのが悪いんだぞ。

 あと後ろのワンちゃん、そろそろ噛むの止めて……。




●●●あとがき●●●


お読みいただき、ありがとうございます!

本日夜に、もう一話更新予定です。


■■■■


ヒロアキ

⦅スズネ、スキルポイントがかなり貯まってるな。何か使わないのか?⦆


スズネ

「ミュ……今のままでも十分戦えるミュ。必要なスキルが出てきたとき、覚えるミュ」


ヒロアキ

⦅そうか……俺なんか、すぐ新しい技覚えちゃうけどな⦆


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