第十二話 進化と亜人
⦅すみません、ありがとうございます⦆
「助かったミュ〜」
「…………」
女性は大きめの布――布団代わりの防寒布を貸してくれた。スズネはとりあえず、その布にくるまって体を隠している。
俺もスズネから離れ、地面に降りた。
「グランスライムに……獣人? いえ……ミューアかしら……こんなに言葉を理解している下級モンスター、初めて見た……」
信じられないという顔で、女性はぶつぶつ呟いている。まぁ、確かに魔物や動物がベラベラ話したら変か。
かくいう俺たちも、ついこの間まで鳴き声と念話(無自覚)でコミュニケーションとってたしな。
⦅あの、俺ヒロアキっていいます⦆
「私はスズネっていいますミュ」
「え……あっ……」
俺たちが自己紹介をすると、彼女は少しおどろいた様子だ。
「わ……私はプラム。この子はソルダム、ソルって呼んでるわ」
「バフゥッ!!」
返答に悩んでいる様子だったが、まずは自己紹介をしてくれた。
女性がプラムさん、ワンちゃんみたいな子がソル君か。
見た感じだと、プラムさんは高校生ぐらいの年頃かな? 遠目には大人に見えたけど、まだ幼げの残る顔をしている。
時おり、周囲を見回して念話を送っているみたいだ。さっきは気づかなかったけど、木の上に鳥と猿みたいな動物がいる。
二匹はそれぞれ周囲と、俺たちの様子をうかがっているな。まぁ、警戒するのは当然か。
「あなた達、とても人馴れしているけど迷子? 飼い主や契約者は近くにいないの?」
⦅飼い主? 契約者?⦆
「私達、近くの洞窟で生まれたミュ」
「や……野生種ってこと……?」
どんどん青ざめていくプラムさん。俺たち、そんなにレアなんだ……。
でも魔物に対して飼い主や契約者が存在するってことは、町でも共存してるってことなのか?
「プラムさんは何してたミュ? 探し物してたみたいミュ」
「えぇ……私は、普通に仕事よ。いくつか薬草を集めていて」
⦅お一人で、ですか?⦆
「いいえ、この子達と一緒よ」
そう言いながら、プラムさんはソル君を撫でた。ソル君も、嬉しそうに尻尾をバタバタする。
彼女たちの信頼関係が感じられるな。
「この子達……ミュ? 他にもいるミュ?」
「え……えぇ、まぁ……」
ものすごくキョドりながら、プラムさんの視線が見張りの動物の方にチラチラ向く。
この子、嘘とか絶対つけないだろう……。スズネも何かを察したように、俺の方を見てくる。
「あなた達も私に……人間に声をかけるなんて、何が目的なの?」
⦅目的か……具体的に聞かれると、困るな……人がいたから、色々話を聞きたいと思ったんだけど……⦆
人の町に行きたいというのはあったけど……プラムさんとの出会いの混乱から見るに、もしかして危険なのでは?
安全な場所で暮らしたいというのであれば、不便ではあるけど今の洞窟でもいいわけだし。
「ミュッ! 私はこの剣を、ある人から託されたミュ。持ち主は、家族に謝りたいって言ってたミュ。私はその家族を探しに行きたいミュ」
俺があれこれ悩んでいると、スズネが先に話し始めた。
そうだそうだ! 恋人さんを見送って、すっかり終わったと思ってた。まだご家族への連絡があるんだよな。
たしかにこれも、俺たちがやらなきゃいけないことだ。
「あとは安全な場所で子ども産んで、平和に暮らしたいミュ~」
⦅えっ……それ、人様に言っちゃう? いやぁ、お恥ずかしい……⦆
「…………なるほど……」
さっきまでちょっと混乱気味だったプラムさんが、急に真剣な顔つきになる。
あれ……俺たちがのろけたのが、ダメだったのかな……?
「あなた方を邪気なき魔物と信頼して、お話します」
これは、真剣に聞かなきゃいけない内容なんだ。
緊張する空気に、スズネの耳や尻尾がピンと立っている。
「まず安全な場所ですが、現状はここが一番安全だと思います」
「ミュ……どういうことミュ?」
「ここはあまり人が立ち入りません。あなた方にとって一番の脅威は――人間です」
まっすぐな言葉が、心に突き刺さる。
そうだよ。俺たち今、魔物なんだよな……。
⦅やっぱり、魔物は人間に倒されちゃうのか?⦆
「……もっと悲惨かもしれません。あなた方はあまりにも、商品価値がありすぎます」
「しょ……商品ミュ……?」
スズネが怯えて、俺に引っ付く。触れた体は、震えている。
おれはなだめるように触手を伸ばし、手を握った。
「下級モンスターで進化の余地があり、言語を操るなんて。どんなに欲しがる人がいるか……」
⦅魔物の売買というのは、一般的なのか?⦆
「ええ、まぁ……でもそれ以上に、亜人としてです」
⦅亜人?⦆
話を続けるプラムさんの表情は、とても暗い。
それでも、とても言葉を選びながら順序だてて説明してくれる。
「魔物は進化によって、亜人になることがあります。ミューア種は獣人、スライム種は魔人、といった感じに」
なるほど、魔物の種族に応じた人型の進化があるんだな。それは、そこを目指していきたいかも。
「亜人は基本的に人間と同じ扱いを受けます。人間が亜人を隷属させる事も禁じられています。でも魔物のうちに従属させ、亜人に進化した場合は――」
⦅魔物と同様に、好きに扱えるってことか⦆
「はい。あなた方は言葉も思考もしっかりしてるし……もし亜人になったら、高値で売れるでしょう」
そういうことか……人間の世界に入っていくのは、簡単ではないんだな。俺たちは狩られて、使役される側の存在なのか。
こんなことを、見ず知らずの魔物に分かりやすく説明してくれるなんて。プラムさん、優しくて良い人だな。
⦅教えてくれてありがとう、プラムさん。スズネ、大丈夫か?⦆
「ミュ……大丈夫ミュ……」
口では大丈夫と言っているが、顔が真っ青だ。
プラムさんはまだ何か言いたそうだが、スズネの様子を伺っている。もしかしたら、もっと残酷な現実があるのかもしれない。
「私はしばらく、このあたりで薬草の採集をしています。その後は町に戻ります。もし危険を承知で人の町に行きたいのであれば、案内しますよ」
俺たちを気遣ってか、プラムさんは穏やかな表情で続ける。
「それまでに、どうするかお二方で相談して下さい。私も、わかることでしたらお答えしますので」
⦅わかった。本当に助かるよ⦆
「ありがとうございますミュ」
最初に出会えた人間が、プラムさんで本当に良かった。
亜人か……俺たちがこれから、何者になってどう生きるのか……。
ちゃんとスズネと話し合わないとな。
●●●あとがき●●●
このお話が、本日最後の投稿となります。
明日から一話更新の予定です。
引続きよろしくお願いいたします。
■■■■
ヒロアキ
⦅なんで裸で飛び出したんだ?⦆
スズネ
「ミュ……全然気づかなかったんだミュ……」
ヒロアキ
⦅そういうものなのか?⦆
スズネ
「ヒロアキだって、人型になれなかったからわからないだけミュ。あのグミ人間姿も、きっと全裸ミュ!」
ヒロアキ
⦅そ……そうかも……気をつけよう……⦆
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