第九話 一緒に魔素だまり
「ミュッ! 魔素だまりがあるミュ~」
しばらく抱きかかえられて進んでいたら、上から声をかけられた。進行方向を見ると、赤い魔素だまりがあった。
⦅どうする? スズネが入るか?⦆
「みゅぁ~……」
何か悩んでいるのか、難しそうな顔をしている。
現状は剣の性能でスズネの方が強いので、俺が入って進化してしまうというのもある。もしくはこれだけ頻繁に魔素だまりがあるなら、進化ポイントを貯めるためにスズネが入るのもありだな。
でも、スズネが考えていたのはそういうことではなかった。
「これって、一緒に入ったらどうなるミュ?」
⦅さぁ? 前に一緒に入ろうとしたときは、ちょっとの差で俺がポイント貰っちゃったからな⦆
そもそも魔素だまりって、複数体で入ることは可能なのか? 正直、触れただけで効果が発動してる気がするんだが。
変わった事やって、片方が消滅とかしたら怖い。スズネが居なくなったら、俺死んじゃう……。
「一緒に入ってみるミュ!」
⦅どうやって一緒に――ぐぁっ⦆
スズネが俺を力強く抱きしめ――というか、締め上げた。スライムの体は上下に伸び、両端ははち切れんばかりに膨らんでいる。
正直、身体がちぎれそう。
⦅ぐ……ぐるしぃ……⦆
「行くミュッ!!」
⦅うあぁぁぁっ!?⦆
その状態でスズネは走りだし、魔素の中に飛び込んだ。
苦しさと振動で、意識が飛びそうだよ……酷い乗り物酔いみたいになってる……。
《個体名 スズネ と 魔素を共有しました》
魔素を共有? 初めて聞くワードだな。
俺たちは赤い霧の中に立っていた。以前のように、急速に魔素が吸収される様子はない。
とりあえず苦しいので、俺はスズネの腕からすり抜けて地面に降りた。はぁ……生き返るぅ……。
《個体名 スズネ と スキルポイント を 分配しますか?》
《個体名 スズネ と 進化ポイント を 分配しますか?》
《個体名 スズネ と 魔素交配しますか?》
天の声が、続々と聞こえてくる。
一緒に入ったことで、魔素を分配できるのか。割合も好きに選べるみたいだな。
それに新しい単語も出て来たぞ。
「魔素交配ミュ?」
⦅お、スズネも気になったか?⦆
単体で魔素に入ったときは、出てこなかったワードだ。それに交配ということは、お互いの能力が影響するのだろう。
お互いのスキルや能力をかけあわせるとか、そういうことかな?
《魔素交配
魔素 を 媒体に 子を作ること》
今回は説明詳しいじゃん。天の声さん、ありがとう。
なるほどね、魔素を通して子どもを――子ども!?
「妊娠出来るってことミュ!?」
⦅いやいやいやいやいや!?⦆
すごい勢いで食いついてるけど、俺たちスライムと猫型モンスターよ?
異種族交配って、そんな簡単なことなのか?
「妊娠するミュ!!」
⦅待って――!!⦆
《個体名 スズネ が
幼体のため 魔素交配できません》
お……おう。それはよかった……。
頭上から響く天の声に、ほっと胸をなでおろす。
⦅スズネ……こんなどこかもわからない洞窟の中で妊娠とか、危険すぎるだろ⦆
「ミュァァ……ご…ごめんミュ……」
しょんぼりとしながら、スズネは謝った。猫の耳や尻尾があるせいで、落ち込んでいるのが一際よくわかる。
そんな姿をされると、胸が痛い。
子どもが欲しいというのは、俺たち夫婦の長年の夢だったからだ。
⦅ここは、スキルポイントと進化ポイントをもらって終わろう。それぞれ半分ずつでいいか?⦆
「……ミュ……いいミュ……」
《スキルポイント を 分配します》
《進化ポイント を 分配します》
天の声と共に、赤い光が俺とスズネの中に入っていく。ポイントが……しっかり加算されてるな。
さて、と。次は……
⦅その……大丈夫か?⦆
「ミュ……大丈夫ミュ……」
⦅そのうち、できるようになるさ……その……子ども⦆
「ミュ……大人になったら、できるミュ」
⦅そうそう、気楽にいこうぜ⦆
なんとかスズネが元気を出してくれた。まだちょっと泣くのを我慢してる声だけど、もう大丈夫そうだな。
⦅あと、こういうのはちゃんと相談してくれよな。すごく大事なことなんだぞ!⦆
「ご、ごめんミュッ」
今度はちゃんと反省してるゴメンだな。
耳や尻尾がピンと立ってるのが、なんか可愛い。
「ミュ……」
一通り話が終わると、またスズネが俺を抱き上げた。そのままギュッと、スライムボディに顔をうずめてくる。
⦅なんだよ?⦆
「……好きミュ……」
⦅……俺も⦆
て、照れるな。誰も見てないけど。
しっかりしてる割には、こういう甘えん坊なところがあってスズネ大好き。
これから、冒険も子作りもがんばろうな!
「ミュアァッ!?」
⦅また地震か!?⦆
ラブラブしてたら、また地面が揺れ始めた。今回の地震、結構大きいぞ!
俺たちはその場にしゃがみ込み、揺れが収まるのを待つ。すると通路の奥から強い風が吹き込み、低い呻き声が響いてきた。
この揺れ、もしかして――地震じゃない……!?
●●●あとがき●●●
本日、もう一話更新します。
夜に投稿する予定なので、よろしくお願いいたします。
■■■■
ヒロアキ
⦅新しく、光のブレスを覚えたぜ! ここはアンデッドが多いからな⦆
スズネ
「おおーっミュ!」
ヒロアキ
⦅試しに吹いてみるから、見てくれよ! いくぞっ⦆
スズネ
「……ミュ、ミュウ……」
ヒロアキ
⦅なっなっ? どうだ? カッコイイ!?⦆
スズネ
「ミュ……最近のテレビ演出の影響で、ゲロぶちまけてるみたいに見えるミュ……」
ヒロアキ
⦅な、なんだってー!?⦆
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