第八話 剣と猫
祭壇のある部屋を出てからは、道がかなり平坦だった。もしかしたら、地上が近いのかもしれない。
広めの洞窟のような通路のような場所を、俺たちは進む。
人型に擬態して、剣を装備したスズネが前を歩く。二本のしっぽがフラフラしてるのが可愛い。
もう普通に会話できるんだよな……な、何か話そう……!
⦅なぁ……あの竜姫と男性はあそこで何をしていたのだろうな。スズネは声も聞こえてたんだろ? 何かわかるか?⦆
「うーん……声と言っても、大きな声や小さな声がたくさん重なってグルグルしながら聞こえたミュ。聞き取れないことも多かったミュ」
⦅そうかぁ⦆
教会や神殿のような特別な雰囲気の部屋だったし……何かすごい儀式でもしていたのかな?
ぼんやり考えながら歩いていると、急に地響きがしてきた。でも今回は、前と違って地面の揺れが大きい。
「ミュア……」
咄嗟に、スズネが頭を抑えながらしゃがみこむ。
何か落ちてきそうな気配は無いが……念の為、俺はスズネの頭上に飛び乗った。もし何か落ちてきたら、ガードしなきゃ。
「ミュ〜」
しばらくして揺れが収まると、少し不服そうにスズネうなる。そして俺を掴むと、顔の前に持ち上げた。
⦅な……なんだよ?⦆
「……そういう危ないの、よくないミュ……」
やや仏頂面で、スズネは答える。
あれ? 俺何かダメなことした?
そんなこと言っても、何か落ちてきたら守らないと思ったんだよ。俺はスライムだから、多少の物は弾いたり吸収したり出来るしな。
「……でも、助けてくれてありがとミュ」
しばしのにらめっこの後、俺は地上に降ろされた。別に、本気で怒っているわけではないみたいだな。
⦅そんなに地震苦手だったっけ? スズネ⦆
「よ……余計なこと、気にしなくていいミュッ」
プイッと顔をそらして、スズネは先に歩みはじめた。あいつ今、ちょっと照れてたな。なんで仏頂面になって照れてるんだよ……。
⦅なぁ〜スズネ〜。どうしたんだよー? 俺なんかしたー?⦆
「ミュッ……」
⦅スズ……⦆
「――何かいるミュッ」
急に立ち止まったかと思うと、スズネは剣を構えた。
進行方向には、何やら人影のようなものが見える。ようやく異世界人との対面か!? でも俺スライムだし、仲良くできるかな……。
人影は徐々に近づいてくる。そしてそれは人でなく、何かドロのようなものが盛り上がっているものだった。
⦅ひっ……⦆
ドロのようなものは、ところどころに目や歯のようなものが見える。もしかして、ゾンビとかそういう類のものなのか……。
「あなた、大丈夫ミュ?」
⦅え……あ、あぁ……⦆
見た目のおぞましさに引いてしまったが、問題は倒せるかどうかだ。
⦅どんな魔物かわからない、ここは慎重に――⦆
「この剣の人が大丈夫って言ってるミュ! あなた、私の後に着いてくるミュ!」
⦅少しジャブを入れ――って、スズネさん!?⦆
スズネは魔物に向かって、一直線に走り出す。ものすごいスピードで、あっという間に置いていかれてしまった。
魔物との距離を詰めたスズネが、剣を振るう太刀筋が光る。花のような閃光が、幾重にも浮かんでは消えていく。
そして俺は、それを追いかけるだけで精一杯だ。
⦅待ってくれよスズネ〜⦆
ぷるぷるボディで飛び跳ねながら、ようやく最初に倒されたであろう魔物のところにたどり着く。
魔物はうぞうぞと、一箇所に集まろうとしてるみたいだ。もしかして、再生しようとしてる?
《黄泉送り を 発動しますか?》
そのスキル、魔物にも使えるの? というか、見た目通りアンデッド系なのか。
再生されると面倒だし、スキル使うぜ!
⦅どちら様か存じませんが、失礼します! なむなむなむなむ……⦆
冥福を祈ると、ドロのような魔物は光ながら消えていく。後には、キラキラする小さな石が落ちている。
宝石かな? とりあえず、拾っていこう。
⦅なむなむなむなむ……なんまいだーなんまいだー……なむなむなむなむ……なんまいだー……⦆
黄泉送りて魔物を浄化しては、残された石を拾ってスズネの後を追った。ようやく追いつくと、魔物は全て倒されていた。
⦅ ……そういう危ないの、よくないミュ……⦆
「ミュ……ミュァ〜、ごめんミュ」
俺はスズネのマネをして、拗ねてみる。
あんなにたくさん魔物がいるところに突っ込んでいくなんて、ヒヤヒヤしたんだぞ。
「でも、この剣が強いから楽勝だったミュ。なんか、補助魔法もかかってるみたいミュ」
⦅そう、なのか⦆
竜姫の剣なんて、すごい名前の剣だし……そんなに強いのか……。いいなぁ〜俺も使いたいなぁ〜。
……俺も擬態スキルを上げれば、使えるのかな?
⦅なぁ、俺もその剣使ってみていいか?⦆
「ミュ? 剣、持てるミュ?」
⦅あぁ、俺も擬態スキルあるからな。ちょっと試してみる⦆
スキルパネルを開いて、スキルを確認する。
擬態って、結構ポイントを使うんだな。とりあえず、二レベルは上げられそうだ。
⦅よし、擬態するぞ!⦆
「ミュッ!」
期待を込めた目で、スズネがこちらを見つめている。やだ、ちょっと緊張しちゃうっ。
《擬態スキル を 発動》
天の声と共に俺の体は変化していく。スライムの体から、薄っぺらい手足がニョキニョキと伸びて――ペタンと地面に張り付いた。
「ミュ?」
ツンツンと、スズネが俺をつつく。俺はそれに、ペタンペタンと手を上下させることしか出来ない……。
……擬態、とは?
「グミみたいミュ〜」
ちょっと嬉しそうに、スズネがツンツンし続ける。
そんな……大量にスキルポイント使ったのに、グミ人間にしかなれないなんて。ヒドイ!!
俺は失意のまま、スライムの姿に戻った。
⦅うまく擬態出来たら、俺もその剣で戦えるのにな⦆
「ミュ? そういうこと、気にしてたミュ?」
⦅そりゃぁ……⦆
男の……夫の俺が、妻を守るのは当然のことだろ。こんなの、足でまといじゃないか……。
「私も、たくさん守ってもらったミュ」
スズネが俺を、顔の前まで持ち上げる。今度はさっきと違って、優しそうな顔だ。
⦅そう……なのか?⦆
「そうミュ! お互いに、得意なことで助け合えばいいミュ!」
⦅それは、そうだけど……⦆
「戦う力だって、スキルや進化でドンドン変化するミュ! 強い方が弱い方を助ければ良いミュ! 単純なことミュ!」
⦅お、おう……!⦆
なんだか押し切られてしまった。スズネは、俺を勇気づけてくれたんだな……。
「それに――」
俺はスズネに、強く抱きしめられた。そして頭――だったと思われる部分を撫でられる。
「私たちは夫婦ミュ……そんなことで、失望したりしないミュ……」
⦅スズネ……⦆
やばい、また泣いてしまいそうだ。なんでこの世界のスライム、涙が出るんだよ……。
こんな体になっても、夫婦だって言ってくれるんだな。
「よしよしミュ」
⦅うう……そういうの、恥ずかしいよ……⦆
「誰も見てないミュ」
⦅う〜……⦆
俺を抱き抱えたまま、スズネは歩き出した。
●●●あとがき●●●
今日の更新はこれで最後です。
明日も二話更新する予定なので、どうぞよろしくお願いいたします。
■■■■
ヒロアキ
⦅スズネ、なんで喋るとき最後にミュって言うんだ?⦆
スズネ
「ミュ……なんか自然に出ちゃうミュ……」
ヒロアキ
⦅止めることって出来るのか?⦆
スズネ
「試してみ……う……ミュ」
ヒロアキ
⦅お……おう……⦆
スズネ
「ゆっくり……話せば……なんとかな……ュ……ミュ」
ヒロアキ
⦅そういう感じか〜⦆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます