第四話 空からの襲来
俺の体内に落ちてしまったスズネは、なんとか無事に吐き出すことが出来た。
全く……天の声さんもなんであのタイミングだけ、消化する一択だったんだよ。
「ミュアッ! ミュミュー!」
そしてこちらは、スライムに喰われかけたのに全く気にしてない猫ちゃん。何かを見つけたのか、こっちに伝えようとしている。
視線の先を追うと、横穴の先に大きな光が見える。あれは……外なのか?
俺たちは光の方へ向かって進んだ。
「ミュ―!」
おおお! 海だ!
横穴は外へと繋がっていて、その先には広く綺麗な海が広がっている。
出口はちょっと開けた場所になっているが、険しい崖の上で残念ながらここから外に移動することは出来なさそう。
崖から身を乗り出して下を見ると、結構な高さだ。上はどうかというと……まだまだあるな。
洞窟の全容がわからないからなんとも言えないが、高さ的には中間ぐらいの位置か。
これは外にでるまで、まだまだかかりそうだ。
「ミュッ、ミュッ!」
前足で俺をつついて、スズネが火を吹くポーズのマネをする。魚を出して、焼いてくれというサインだ。
まだお腹が空くタイミングじゃないんだけどな。もしかして、景色が良いからご飯が食べたくなっちゃったのか?
俺もその意見には賛成なんだが……そうもいかなそうだ。
「ミュ?」
スライムの体の一部を伸ばして、上空を指し示す。そこには、たくさんの大きな鳥が群がっている。
あの鳥たち、俺らがこの崖の上に出てきてから急に現れたんだ。それにどんどん近づいて、あきらかにこちらの様子をうかがってる。
こんなところで魚を焼いても、すぐに鳥たちに盗られてしまうだろう。
そろそろ危険そうだし、洞窟の中に戻った方がよさそうだ。
「ギュエェェェ!!」
洞窟の中に入ろうとすると、一羽の鳥が急降下して俺の体を掠めた。
痛っ!! 今、頭のところすごく痛かったんだけど!?
俺を掠めた鳥は崖の出っ張りにとまり、口から何かを吐き出した。ボテッと落ちてきたのは、スライム……俺の体の一部じゃないか。
お前!? 人の体を食べといて吐き出すなよ! ちゃんと最後まで食べろよな!!
「ミュアッ!? ミュアーッ!!」
異常な鳴き声に振り向くと、一羽の鳥がスズネを鷲掴みにして飛び上がる瞬間だった。
ああっ!? スズネ――!!
触手を伸ばして鳥を捕まえようとするも、上空に逃げられてしまった。鳥は一気に舞い上がり、あっという間に黒い点になる。他の鳥たちも、後を追うように高く舞い上がった。
はるか上空で黒い点が群がり、中央を起点に伸縮を繰り返している。
そんな……あの中心で、スズネが鳥たちに……喰われているのか……? ああ……俺のスズネ……。
どうすることも出来ず呆然とその様子を眺めていると、ボトリと何か物体が落ちてきた。
恐る恐る近寄ってみると――それは首をキレイに切断された、鳥の魔物。
「ギュエェェェ!! ギュエェェェ!!」
「ミュア~……ミュミュンッ!!」
「ギュィッ」
「ギッ……」
いつの間にか上空の黒い点は、鳥の形がわかるほどに下降してきている。そしてその中央では、白い光が飛び回っていた。
あれってもしかして……ス、スズネさん?
ボトボトボトボトと、次から次へと首の落ちた鳥が落ちてくる。わぉ……軽くホラー……。
「ミュンッ!!」
とうとうスズネは、最後の一羽にとどめを刺す。
「ミュッ?」
そして足場の鳥はいなくなった。
「ミュ――――――!!」
風に煽られながら、最後の鳥と共にスズネが落下してくる。小さい体を広げて、ムササビみたいになってるぞ。
でも落下速度はあまり落ちてないんじゃないか? それに海の方に煽られてる。
このままじゃ、海に落ちてしまう!
俺はスズネに向かって、全身を伸ばした。お願いだ、届いてくれ――!!
「ミュッ」
触手の先で、スズネを受け止めた感覚がある。でも最大限に伸びたから、もう限界だ……。
スズネを海に落とさないようにと、触手を上に巻き上げる。
「ミュ? ミュ――――――!?」
反動でスズネが触手を、ウォータースライダーみたいに滑り落ちてくる。あれ……普通に落ちてる時より、スピード上がってる?
そのままスズネは、俺の中にダイブした。
《ミューア(幼体) を 捕獲しました》
《消化しますか?》
出して! ペってして!
もう……天の声さん、このくだり好きすぎるでしょ。
「ミュッ! ミュッ!」
そしてこちらの猫ちゃんは、自分の獲物の自慢が止まりません。すごいよ〜、魔鳥の群れを一匹で倒しちゃったね〜。
俺の体にグイグイ押し付けて、鳥を入れていく。あの、俺は道具袋じゃないんですが……。
「ミュァ!」
最後の一羽は、きれいに皮を剥いで口にくわえている。本当に器用な子。
鳥肉を咥えたままスズネは洞窟の中に入り、焼いてくれのポーズをとっている。まったく、グルメさんなんだから。
「ミュウミュウ〜♪」
肉を焼いてやると、スズネは半分に切って分けてくれた。しっぽ……しっぽが刃物みたいになるんだ……。
それにしても野生の魔物って、こんなに仲間意識があるものなのか? あの鳥たちは群れてたくせに、獲物をめぐって争ってたし……。
「ミュア?」
心配そうにスズネがこちらを覗き込んでくる。
大丈夫だよ。美味しいよ!
「ミュッ!」
今日はお手柄だったな、スズネ。魚に加えて、鳥肉もたくさん手に入った。しばらく食料には困らないぞ。
そういえば、昔にもこんなことあったな。
鎌倉に遊びに行ったとき、海辺の近くにクッキーの自販機があって。寿々音が珍しいからって買って食べようとしたら、そこらじゅうにトンビが飛んできてさ。
電柱や電線の上がトンビだらけで、もうクッキーどころじゃなくなっ――
「ミ?」
あれ……俺、泣いてるのか? はは……スライムって、涙……出るんだ……。
情けないな……ちょっと昔のこと……思い出しただけなのに……。
「ミュッ」
スズネが急によじ登ってきた。いや、抱きしめてくれてるのか?
「ミュアミュア!」
何言ってるか分からないけど、たぶん慰めてくれてるんだな。優しい声……。
前世のことを気にしてても、どうにもならないか。今はスズネと一緒に、ここから出ることを考えよう。
俺たちは肉を食べ終えて、さらに上を目指した。
●●●あとがき●●●
■■■■
ヒロアキ
(寿々音はあの後、どうなったんだろう?俺と一緒に足場の下敷きになったなら、助かってないか……)
スズネ
「ミュア〜?」
ヒロアキ
(この世界に転生して……いや……生まれ変わっても一緒になれるなんて、自惚れすぎか……)
スズネ
「ミュゥ……」
ヒロアキ
(それに今の俺はスライムだ。たとえ再会できたとしても、以前と同じ関係になれるとは……)
スズネ
「ミュッ!」
ヒロアキ
(うわっ!!もう……急に飛びかからないでくれよ、スズネ。ビックリして、また食べちゃうかもしれないだろ)
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