第三話 魔素だまり

 よーし、大漁大漁~!


「ミュ~ア~♪」


 食後のお休みタイムを終えて、俺たちは再び洞窟を上り始めた。

 洞窟の中の大きな水たまりからは、魚の魔物がときどき襲ってくる。そんなに強くないので、問題無く対処できた。

 俺が捕縛した後、すぐ食べない分は体内に保存している。スズネの様子を見るに、ここの魚は結構美味しいらしい。


《魔魚 マトゥダ

 高級魚

 食用として流通している》


 体内に魚を貯えるようになってからわかったんだけど、保存すると天の声さんが簡単な説明をしてくれる。

 保存したものは、異空間に収納されるみたいだ。外部から保存してる様子は見えないし、破損や劣化の心配がない。

 結構便利なシステムなのだよ。この辺も、ゲームっぽいよな。

 それに食用として流通してるってことは、この世界に人や町も存在してるということだ。後々の換金用にも、貯めておいて損はないだろう。


「ミュッ! ミュ〜ァ〜?」


 しばらく進むと、不思議な光の柱を見つけた。少し霧がかっている。

 ゲームのセーブポイントや回復エリアみたいな感じだな。


《魔素だまり 青》

《魔物 に 様々な力 を 与える》


 天の声さん、説明ありがとう。

 様々な力を与えるか……スポット型の経験値とかかな。危険なものじゃ無さそうだし、ちょっと入ってみよう。


「ミュアッ!」


 おっ、スズネちゃんも賛成なのね。

 俺たちは一緒に光の中に入った――つもりだったのだが……。

 一歩だけ早く俺が中に入ってしまい、その瞬間に光と霧が俺の中に入っていく。そして魔素の光は、すっかり消滅してしまった。


「ミュッ!? ミュアッ!?」


 あまりに一瞬の出来事で、呆然としてしまう。隣ではスズネが不安そうに、前足で俺をつっついてくる。

 ごめんごめん、ボーっとしちゃっただけだよ。心配してくれてありがとう。

 ぷるぷると体を擦り付けると、スズネは安心したのか落ち着いてくれた。


《魔素 を 吸収しました》

《スキルポイント を 獲得しました》

《進化ポイント を 獲得しました》


 なんか新しいポイントが出てきたぞ。進化って、ランクアップ的なことが出来るのか!? ブレス系のスキルも多かったし、ゆくゆくはドラゴンとかになれたりして……。


《進化 可能になりました》


 えっ!? もう進化できるの!? 早くない?


《グランスライム に 進化できます》

《ポイズンスライム に 進化できます》


 あ、しかも選べるんだ。ということは、進化の仕方で最終形態も変わってくるって事だよな。どうしよう……。

 進化後の説明が、メニュー画面のように宙へ映し出される。

 グランスライムは今の姿のまま大きくなって、力や防御力が上がるみたいだ。

 ポイズンスライムは今の大きさのまま色が変わって、毒や麻痺の状態異常付与のスキルを使えるようになるんだな。

 俺の好みで言えば、ポイズンスライムだけど……。


「ミュゥ?」


 でもスズネが俺を噛んだり触ったりして、毒状態になったらイヤだしなぁ。ここは素直に、グランスライムで強くなることにしよう。

 俺、グランスライムに進化するよ!


《グランスライム に 進化します》


 天の声さんがアナウンスすると、俺の体は魔素の霧に包まれた。外の様子は全くわからない。

 だんだん体が熱くなってきて、膨らんでいってる気がする。なんかこう……パンパンに膨らんでる感じで、破裂しないか不安になってくるな。

 霧の外からは、スズネの不安そうな鳴き声が聞こえてくる。


《進化が完了しました》


 意外に早く終わるんだな。完了のアナウンスが流れると、ゆっくりと霧が晴ていく。


「ミュアー!」


 霧が消えると一目散に、スズネがすり寄ってくる。よしよし、お待たせだよ~。

 それにしても、ずいぶんスズネが小さく見えるな。進化する前は、俺よりちょっと小さいくらいって感じだったのに。

 ステータスやスキルはどうなってるんだろう?


《スキル 変形動作 を 習得しました》


 変形動作ぁ? なんだそれ……手でも出せるのかな?

 試しにスズネを撫でてみよう。こう、身体の一部だけを出して……。

 かつての手を伸ばすイメージをすると、ぴよーんっと体の一部が伸びていく。

 うーん……これは手というより、触手?


「ミュアミュア~」


 伸びた触手でスズネの頭や首のあたりを撫でてやると、気持ちよさそうにしている。だんだん俺に体重をかけてきて、最終的には背中を向けて寝っ転がってしまった。

 なんだかこの光景、既視感あるんだよなぁ。お客さーん、肩こってるんですか~?


「ミュ~……」


 こちらの気持ちが伝わっているのかいないのか、スズネはウトウトしながら返事をした。マイペースな猫ちゃんだなぁ。

 仕方ないので、撫でてやりながらステータスも確認する。

 全体的に、進化前の十倍ぐらいの数値になっているな。進化はかなり大幅な戦力アップになるのか。

 今のところ進化ポイントは、魔素だまりに入って獲得するしかない。次に魔素だまりを見つけたら、スズネに入ってもらおう。

 成長して強くなったら、生存率も上がるしな。


「ミュ? ミュ~ゥゥゥ~」


 そろそろ出発しようと撫でるのをやめると、スズネが恨めしそうに唸り始めた。

 もう十分休んだでしょ? ちゃんと歩きなさい!


「ミュッ!!」


 何やら抗議のような鳴き声をあげ、スズネは俺の体をよじ登る。そして頂上に到達すると、腹を上にして寝っ転がった。

 俺は今、猫をダメにするソファになっているのか?

 もう!いい加減にしなさい!!


「ミュアッ!?」


 ちょっと腹を立てたのに体が反応したのか、スズネが俺の体内に落ちてしまった。

 スズネは慌ててバタバタと、泳ぐような動きをしている。


《ミューア(幼体) を 捕獲しました》

《消化しますか?》


 だめぇぇぇぇぇぇぇ!!!




●●●あとがき●●●


このお話が本日最後の更新です。

最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


■■■■


ヒロアキ

(出して!ペってして!!)


天の声

《……ミューア(幼体)をリリースします》


スズネ

「ケホッケホッ……ミュアッ!!」


ヒロアキ

(うわー、大丈夫かなぁ?溶けてたりしない?)


スズネ

「ミュアッ!」


ヒロアキ

(って、また上に乗るんかい!……まぁ、元気そうだで良かった)


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