第二話 海辺の洞窟
スライムに転生した俺は、外を目指して洞窟を進む。転生してすぐに出会った、白い子猫のスズネも一緒だ。
先に進むほど、上に上る坂や段差が多い。という事は、ここは縦に長い洞窟なんだな。
それにあちこちに海藻や貝、珊瑚みたいなものが転がっている。もしかしたら洞窟は海に繋がっていて、潮の満ち引きで海水が入ってくるのかもしれない。
「ミュアッミュアッミュア~♪」
スズネはご機嫌に鳴きながら、俺のあとをついてくる。まるで鼻歌でも歌ってるみたいだ。可愛い。
こんなちっちゃい魔物だけど、実際に戦うことは出来るのかな?どのくらいの強さなんだろう?
《個体名 スズネ 種族 ミューア(幼体) レベル:一》
おおっ!! いきなり頭の中に、音声案内みたいな声が響いてきた。天の声さんが存在するの!?
しかもスズネの周りに、ステータス画面のような映像が映し出される。まるでゲームの世界みたいじゃないか!
ええっと……HPが十二でMPが六……って、魔物に一発どつかれたら、死んじゃいそうなくらい弱いな。この辺の魔物って、どのくらいの強さなんだろう……?
「ミュッ!!」
何か言いたげに、スズネは俺の頭に手を置いた。すると、俺のステータスの映像も浮かび上がる。
自分のステータスも見ろってこと? スズネ、幼体(赤ちゃん)なのに頭良いじゃん。
俺のは……HPが十六でMPが二……うん、似たり寄ったりの雑魚モンスター!
お互いにレベル一で大差はないんだけど、全体的には俺の方が体力や防御力が高め。スズネは魔力や素早さが高めなんだな。
心もとないけど、俺の方がちょっとは打たれ強いみたいだ。魔物が出たらスズネのこと、守ってやるからな!
「ミュア~♪」
喉をゴロゴロならしながら、スズネは全身を擦りつけてきた。言葉もないのに、俺達って通じ合ってる?
それにしても、野生の魔物がこんなに懐いて甘えるなんてな。この世界の魔物は、みんなこんなにフレンドリーなんだろうか?
「……フッ!フッ!」
急に何かを感じたのか、ずっと甘えていたスズネが離れる。小さいながらも二本の尻尾をピンと立て、臨戦態勢だ。
視線の先には、大きな水たまりがある。あそこに何かいるのか……?
よくわからないけど、俺もスズネの横に並び立つ。敵だったら、一緒に戦うぜ!!
「ミュアッ!!」
水たまりからいくつもの水しぶきが上がり、空中に影が舞う。
宙に浮いているのは……魚の魔物か? 全部で三体……俺達と同じくらいの大きさで、結構インパクトのある見た目をしてるな。
一匹の魚の魔物が牙をむき出しにして、一直線に俺たちの方へとびかかってきた。
「ミュッ!」
俺たちはその攻撃をかわす。勢いよく地面に激突した魚は、そのままクルクルと回転しながらスライディング。
壁に激突した魚は、ピチピチと小さく跳ねている。
……あれ? 一回地面に落ちたら、浮かべないの? もしかして……結構弱い?
「ミュミュッ!!」
スズネの鳴き声に、注意が引かれる。上空からは、残りの魚が突進してきていた。
魚たちは勢いよく俺に激突して、体内へと潜り込む。
そんな……俺はこのまま、内側から食われてしまうのか!?
あー!! あー!! 俺の体の中で二匹の魚が暴れまわって――
《魔魚 マトゥダ を 捕獲しました》
……え?
《消化しますか? 保管しますか?》
もしかして食べたのは……俺の方? 二匹の魚は、すっかり動かなくなってしまった。
じゃぁ天の声さん、消化するでお願いします。
《魔魚 マトゥダ を 消化》
天の声が終わると、俺の中の魚がキラキラと消えていった。これが……俺の食事方法なのか……本当に魔物になっちゃったんだなぁ。
「ミュウ~♪」
鳴き声の方を見ると、スズネが魚を咥えて寄ってきた。最初に勢いよくスライディングした魚だ。
魚をよく見ると、首の付け根と尾びれが切り落とされている。
身を傷つけないように、急所を落としてとどめを刺したのか? スズネちゃん、すごいじゃないか!
《レベル が 上昇しました》
《スキルポイント を 獲得しました》
お、なになに? 強くなったの?
ステータスを確認しようとすると、見慣れない画面が出てきた。
これは……スキルパネルか。たくさんのスキルが並んでいる。
へー、ブレス系のスキルが多いんだな。こんなにあると、基本属性は全部あるのかな?
今あるスキルポイントで、一つ獲得できそうだ。とりあえず、火のブレスを獲っておくか。
《スキル 火のブレス を 習得しました》
おおお……これ、どうやって使うんだろう?
試しにちょっと、フッと吹いてみる。すると吹いた分だけ、ライター程度の火が出た。うん、力や息の入れ具合で火力の調整ができるみたいだ。
「ミュアッ!?」
俺が火のブレスを試しているのを見ると、スズネが魚を地面に置いた。そして魚に向かって、息を吹きかけるような動きをしてみせる。
もしかして、魚を焼いてほしいのか? 仕方ないなぁ。
「ミュ~♪ミュ~♪」
火のブレスで魚を焼いてあげると、スズネは美味しそうに食べ始めた。
それにしても、グルメな猫ちゃんだなぁ。食べ方もキレイ。
……俺なんか、スライムの体で捕縛して消化なのに。
「ミュウ……」
そんなことを考えていたら、食事の途中なのにスズネがすり寄ってきた。
よしよし、慰めてくれてるのか。本当に優しい猫ちゃんだなぁ。
ご飯を食べて一休みしたら、先に進もうな。
「ミャッ!」
スズネは残りの魚を平らげると、俺のプヨプヨボディに寄りかかって眠ってしまった。
●●●あとがき●●●
準備が出来次第、次のお話も公開します。
■■■■
スズネ
「ミュッ……ミュッ……」
ヒロアキ
(スズネ、魚の食べ方上手だな。骨に身が全然残ってない。野生の動物ってこういうものなのか?)
スズネ
「ミュアッ!」
ヒロアキ
(お、食べ終わったか。……キモは、残すんだ。そういえば、寿々音も苦手だったな……)
スズネ
「ミュアッ!」
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