第41話 能力開花!
王城の裏にある小高い丘の上に演習場がある。この演習場では日夜、戦士や法使いが魔物と戦うための訓練を行なっている。
本日は特別演習。適材士から訓練を受けたリオンハールが初めて、技術を披露する日。
戦士と魔法使い連合の指揮官は、元戦士ブランドン。
ブランドンが選抜した最強戦士三十名と、ヨルンが選抜した一流二流魔法使い二十名。合わせて五十名が、リオンハールを負かすべく隊列を成している。
「相手は一人だからと油断するな! まずはプランAじゃ!」
ブランドンが指示を飛ばす。
プランAとは、戦士が前線に立ち、魔法使いが後方支援をするというもの。
演習場の端にポツンと立つリオンハール目がけて、戦士たちは剣を振りかざし、魔法使いらは能力増長の魔法を戦士にかける。
魔法がかかった戦士たちの筋肉が増長され、走る速度と剣を振る速度が増した。
「リオンハール、手加減せぬぞ! 覚悟しろっ!」
「うん! ボクも頑張る‼︎」
雄叫びをあげる戦士隊長に、リオンハールはニコニコ顔で答える。
リオンハールの後方にいるソトニオが、指示を飛ばす。
「リオンハール。まずは彼らの隊列を崩してみて」
「はい、先生!」
リオンハールは右手を前に突き出し、真横に手を滑らせた。すると手のひらから黒い炎が放たれ、炎は地面を真横に走った。
リオンハールと戦士たちの間に黒炎の境界線が張られる。
勢い良く燃え上がる黒炎に、戦士たちは動揺し、足を止めた。
「これではヤツに近づけない! 魔法使い、炎を消してくれ!」
「わかりました!」
戦士隊長の求めに、魔法使いたちは杖を振る。赤、ピンク、黄、紫、白……魔法の色が放出され、黒炎が消される。
だが黒い炎が消えたと同時に、リオンハールが放った氷の塊が無作為に戦士と魔法使いを襲う。
「うわーっ‼︎」
戦士たちは剣を振るって氷の塊を砕くが、数が多すぎる。四方八方から襲ってくる氷の塊に、防御するだけで手一杯。リオンハールを攻撃するどころではない。
いつの間にか隊列が乱れてしまった。
ソトニオが、ブランドンに話しかける。
「おじいちゃん、どうですか? 隊列を崩しました」
「うぬぬ! おい、おまえらっ! 次はプランBじゃ! 戦士が中央、魔法使いが左右から攻撃するのじゃ‼︎」
「リオンハール。次は、彼らの攻撃を無効化してごらん」
「はい、先生!」
リオンハールは両手を前に突き出した。すると右手から黒い霧がうねうねと伸びて、戦士たちの剣を包む。すると剣が飴のようにぐにゃっと溶けてしまった。
左手からは黒煙がくねくねと伸び、魔法使いたちが放った魔法の光とぶつかる。黒煙は魔法使いらの色鮮やかな魔法の光を吸収して、跡形もなく消し去ってしまった。
戦士と魔法使いたちの間に動揺が広がる。
「どうしたらいいんだ⁉︎」
「勝てる気がしねぇ!」
「リオンハール。強すぎるだろうがっ!」
ブランドンが檄を飛ばす。
「相手は一人、おまえらは五十人。数で対抗するのじゃ! 次はプランC。みんなで一斉に襲えっ! 肉弾戦じゃ‼︎」
「リオンハール。誰一人傷つけることなく、追い払ってみて」
「はい、先生!」
百戦錬磨の戦士と、プライドだけは人一倍高い魔法使い。おめおめと撤退するわけにはいかない。
総攻撃を仕掛けようとする戦士と魔法使いを前にして、リオンハールは考える。
「えぇと、傷つけずに追い払う。どうしようかな? ボクの分身を使って、驚かせてみる?」
イメージが固まって、リオンハールはニヤリと笑った。
手のひらから、黒炎を迸しらせる。黒炎は立ち昇って、黒ドラゴンへと姿を変えた。
「ひょおおおおおおーーーーっ‼︎」
地を揺るがす不気味な声でいななく、黒ドラゴン。黒炎が爆ぜ、パチパチと音をたてる。炎は渦巻き、ドラゴンの姿を巨大に膨らませる。
五メートルもの高みから、ドラゴンの紫紺色の瞳が戦士と魔法使いを見下ろす。
戦士と魔法使いたちは初めて目にするドラゴンに慄き、声が出せない。
ドラゴンは鏃のような鋭い尻尾を地面に叩きつけた。砂が焼け、焦げたにおいが風に乗って辺り一面に広がる。
尻尾はうねりながら空高く上がり、戦士と魔法使い目がけて振り落とされる。
「俺らも焼かれてしまうぞっ!」
「無理だ無理だ! 逃げろー‼︎」
「リオンハール、覚えてろっ! 次こそやっつけてやる! ひぃぃぃー‼︎」
戦士と魔法使いたちは、我先にと演習場から逃げ出してしまった。
広い演習場に残っているのはリオンハール一人。
ブランドンは広すぎる額をパチンっと叩いた。
「リオンハールくんに接近できた者が一人もいない。情けない限りじゃ!」
「おじいちゃん。僕の勝ちです」
ソトニオが、ブランドンに勝ち誇った笑みを向けた。
ソトニオが天から与えられた才能は『適材士』
人の適性を見抜き、その適性に合った働き方や生き方を提案できる能力。
ソトニオは二十三歳。魔法省の新人役人として働いていたが、このたびリオンハール専用のアドバイザーに就任した。
すべては愛する妹のため。
リオンハールのドラゴンの力をうまく活かしながら、彼が人間社会で生きていくためのサポート役を買って出たのだ。
ソトニオはすぐに、リオンハールが八流魔法使いである理由を見抜いた。
リオンハールの魔力は膨大すぎて、魔法の杖では威力を発揮できない。それは、巨木を切るのにカッターを使うようなもの。魔法の杖は、リオンハールの魔力に適した道具ではないのだ。
ソトニオの丁寧な指導のもと、リオンハールは自分の手のひらで魔力を放出させるのが一番効果的であることを学んだ。
人生初の訓練を終えたリオンハールが喜びに顔を紅潮させ、飛び跳ねるようにして二人の元にやってきた。
「先生! ボクの戦いぶり、どうでしたか⁉︎」
「うん。素晴らしい防御だったよ。完璧だ。次は、人間を傷つけない程度の攻撃力をマスターしてほしいんだけど……。下手したら相手を殺しちゃうかもしれない。どこかに最高名誉魔法使いがいて、練習相手になってくれたらいいんだけど……」
ソトニオとブランドンは、揃って観客席に顔を向ける。そこにはヨルン王太子と、応援に来ているユラシェがいる。
ヨルンはプイッと顔を背けた。
「絶対に嫌だ。死にたくない」
「大丈夫です。リオンハール様なら手加減してくださるはずです」
「ユラシェ、手加減とか言わないで。最高名誉魔法使いのプライドが傷つく」
「あっ、ごめんなさい! でも、お二人が練習しているところを見たいです」
「ユラシェ! そのことを絶対に家族に言わないで! あの人たちは、ユラシェの願いを叶えようとするから……」
「聞こえたよ。ユラシェの願いは我が一族の願い、がパパの口癖。パパに教えてあげよう。そしたら、リオンハール対ヨルン王太子の対決が実現……」
「ああ、そういえばっ‼︎ ユラシェがパンケーキを焼いてきてくれたのだった。午後のお茶会としよう」
ヨルンはすばやく立ち上がると、リオンハールとユラシェを王城の庭へと誘ったのだった。
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