第31話 八流魔法使いと元戦士VS最高名誉魔法使い

 黄金の光はバチバチと放電しながら空気を切り裂き、ヨルンに変身しているリオンハール目がけて一直線に突き進む。

 リオンハールは魔法の杖を振りかざして、水色の膜を張った。


「防御壁魔法‼︎ マクベスタ様の魔法を阻止しろっ!」


 水色に輝く防御膜は強度を鋼鉄並みの硬さにまで高め、マクベスタの魔法を阻止するための壁となる。

 しかし筆頭魔法使いとして十年もの間頂点に立ってきたマクベスタを、八流魔法使いレベルが防げるものではない。

 高圧の電気を帯びた黄金の光は防御壁をあっけなく突き破ると、その勢いのままにリオンハールの右肩を直撃した。


「熱っ‼︎」


 脳天を貫くような痛みがリオンハールを襲う。肩部分の服が焼け焦げ、露呈した肌は火傷で真っ赤になる。

 リオンハールは膝を崩し、芝生に片手をついた。肩を上下して、荒い呼吸を繰り返す。

 マクベスタは嘲りの笑いをあげた。


「ハハっ! 軟弱な防御壁だ‼︎ 自分の魔法に対抗できるのは、本物のヨルン様だけ。ユラシェ様、いいことを教えてあげましょう。こいつはヨルン様ではないのです。ヨルン様に変身した、能なし魔法使いリオンハール。ヨルン様のお情けで雇ってもらっただけの、気味の悪い髪と目の色をした男なのです。こんなヤツ、いなくなったほうが清々するというものです」

「やめてっ! リオンハール様にひどいことをしないで!」

「ハハっ! 能なし魔法使いに、様をつける必要などない」


 マクベスタが魔法の杖を振る。すると芝生が伸びて、リオンハールの手足に絡みつく。


「わあああーーっ‼︎」

「自分とヨルン様は魔法使いの頂点に立つ、最高名誉魔法使い。八流魔法使いごときが歯向かうなど、不愉快極まりない。自分に対抗できるのはヨルン様だけ。喜ばしくもあり、憎くもある……。ヨルン様は、ユラシェ様への贈り物である眠りの魔法を妨害した。長年研究してようやく完成させた眠りの魔法。貴女様の笑顔を、清らかな美貌を、独り占めするための魔法。貴女様を永遠の眠りに導き、透明の棺に入れて差しあげたかっった。自分だけの宝物として、眺めたかったのに……。それなのにヨルン様は、目覚めの魔法をかけて妨害した。ひどいお方だっ‼︎」



 一年前。

 マクベスタは、ヨルン王太子とのお茶会を終えたユラシェを王城の庭に誘い出した。ブランドンが薔薇の絡まるガゼボで待っていると嘘をついて。

 そうして一人になったユラシェに、眠りの魔法をかけた。

 だが、不審を感じ取ったヨルンが後をつけてきていた。マクベスタの眠りの魔法に被せるようにして、ヨルンは目覚めの魔法をかけた。


「マクベスタ! あなたのしていることは犯罪だ‼︎ 魔法は、人々を助けるためのもの。自己本位な欲求を叶えるためにあるのではない!」


 ヨルン王太子はマクベスタの心に届くよう、心を込めて諭した。


「あなたの背中に追いつきたくて、寝る間も惜しんで努力してきた。二年前。ようやくあなたと同じ、最高名誉魔法使いになれた。これから二人で国を盛り立てていこうと、そう約束したではないか! アジュナール王国に多大な貢献をしてきたあなたを、牢屋に入れたくはない。どうか、これ以上失望させないでくれ! 私はユラシェに目覚めの魔法をかけた。運命の男性のみ、ユラシェを目覚めさせることのできる魔法だ。ユラシェを目覚めさせたら、その者が赤い糸で結ばれた相手。目覚めさせることができなかったら、どんなにユラシェを深く想っていても、運命の相手ではないということだ。あなたが触れてもユラシェが目覚めなかったら、潔く諦めてほしい。マクベスタ、積み上げてきた功績と名誉を無駄にするな!」

 


 マクベスタは意識を一年前から今に戻すと、仄暗く笑った。


「自分が欲しいのは、功績でも名誉でもない。完璧なまでに美しいユラシェ様を、独り占めすること」


 愛する女性を手に入れる方法は簡単。邪魔な者を排除し、ユラシェを奪い、閉じ込めればいい。

 マクベスタは、憎々しげにリオンハールを見た。


「ユラシェ様を目覚めさせた運命の男が能なし魔法使いなど、絶対にあってはならない。不愉快だ! ユラシェ様の運命の相手は、このマクベスタだ‼︎」


 マクベスタが魔法の杖を一振りすると、放たれた黄金の光が花壇の上を流れていく。すると花壇の土が盛りあがり、土人形のゴーレムを誕生させた。

 マクベスタがさらに杖を一振りすると、ゴーレムの額に【ブランドンとカリオスを襲え】との文字が刻まれる。

 背丈二メートルほどの大きさをしたゴーレムは、ブランドンとカリオスを襲うべく駆けだした。


「なぜじゃ⁉︎ マクベスタに気づかれないよう、背後からこっそりと近づいていたのに!」

「もしかして、空にあるあの光が⁉︎」


 マクベスタが、魔法の杖を左右に四回振ったとき。黄金の光が四本放たれた。

 一本目は大樹の枝を動かして、ユラシェの手首を拘束した。

 二本目は電気を帯びた光となって、リオンハールを襲った。

 そして三本目は、空を旋回している。


「空を旋回している黄金の光は、見張り役なのだ! マクベスタの目が届かないところにいても、見張り役の光が居場所を知らせる仕組みなのだろう。マクベスタは魔法の杖を四回振っただけで、動きも役割も違う四本の黄金の光を発動させた。さすが、魔物との戦いで名を上げてきただけのことはある!」

「うおおぉぉーーっ! わしが相手になってやるわいっ‼︎」


 ブランドンは、五年前に戦士を引退した。だが、熱い闘志は一向に衰えていない。

 襲いくるゴーレムの腹に、先制パンチを食らわす。

 土でできたゴーレムの腹に、いとも簡単に穴が開いた。腹の部分の土がポロポロと崩れる。だが磁石に引きつけられるかのように、崩れた土が戻ってすぐに穴を塞ぐ。

 ブランドンは舌打ちをした。


「チッ! やはり、額の呪文を消すしかないようじゃ!」


 しかし身長百四十五センチのブランドンと、二メートルのゴーレムでは差がありすぎる。

 ブランドンはゴーレムの足を掴み、転ばせ、頭ごと粉々に壊す作戦にでる。

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