第五章 切望するお嬢様と消えた魔法使い

第30話 明らかになる真実

 ユラシェが目眩を起こして倒れ、リオンハールに介抱されている頃──。

 ブランドンとカリオスは公園の西側にある森の中を歩いていた。


「若造の正体とは……ミニドラゴンを操る能力なのじゃろう?」

「違います」

「それでは、ミニドラゴンを召喚する能力かね?」

「それも違います。リオンハール少年は……」


 カリオスは勿体ぶるように言葉を切ると、足元に転がっている小石を蹴った。


「天から、分身の能力を与えられた者です」

「分身、じゃと……?」

「はい。王城の食堂でリオンハール少年が出したという黒い生き物は、彼の分身です」


 カリオスは、知識の神から宇宙の叡智という才能を授けられている。内なる自身に問いかけると、インスピレーションという形で宇宙から答えが降ってくる。その答えに間違いはない。


 リオンハールをメディリアス家に迎え入れようと考えていたブランドンは、後頭部を金槌で殴られたような衝撃を受ける。


「分身ということは、その……若造が……ドラゴンということに、なるが……」

「はい。リオンハール少年の正体は、黒ドラゴンです」

「ドラゴンというのは、そのー、なんだ……ウサギのように、か弱い生き物じゃったかのう?」

「現実逃避しないでください! ドラゴンとは、攻撃性……ヤバいレベル。スピード……瞬殺レベル。防御力……ダイヤモンドレベル。残忍性……相手によりけり。総合……世界最強レベル。魔物の頂点に立っている、最強魔物です。我々が束になっても倒せる相手ではない。ですが、希望はあります」

「おおっ! 友好的関係を結べるんじゃな!」

「蟻が我々の前を歩いていたらうっかりと踏んでしまうが、遠くにいるならば、わざわざ踏み潰しに行ったりはしないでしょう? それと同じように、ドラゴンにとって我々は蟻。接触しなければ、攻撃されません」


 散策用に整備された森の中。小川のせせらぎを聞きながら、ブランドンは頭を抱えた。


「若造と接触しなければいいというのか!」

「私の意見としては、そうです。彼はドラゴンの世界に帰ったほうがいい」

「若造は家出してきたのか? そもそも、なんで人間の姿になっているのじゃ⁉︎」


 カリオスは足を止めた。木々の隙間から覗く青空を見上げる。


「私が知ることのできる情報は知識です。感情ではない。リオンハール少年がどのような気持ちで人間になったのかは、わかりません。ですが、これは確かです。リオンハール少年の兄が、闇魔術を使って人間に変身させた」

「闇魔術⁉︎ 危険な匂いがするが……」

「はい。代償を必要とする危険な魔術です。リオンハール少年は人間になる代わりに、記憶を失った。ですから本人はドラゴンではなく、人間だと思い込んでいます」

「ううむ……」


 混乱して唸るブランドンに、カリオスは言葉を継ぐ。


「リオンハール少年は、純粋な黒ドラゴンというものらしいです。他の魔物の血が一切入っていない純血種。ですから、黒ドラゴンとしての素晴らしい才能にあふれている。一方、兄は混血種。リオンハール少年と比べると、能力が劣る。おそらく二人は母親が違うのでしょう」

「才能を妬んだ兄が、若造を人間に変身させて人間社会に放り込んだのかもしれんな」

「私もそう思います。闇魔術を使うのに必要なエネルギーは憎悪ですから。リオンハール少年の魔法の腕前は大したものではないかもしれないが、ドラゴンとしてなら世界最強。ドラゴンの世界で暮らした方が才能を活かせる。それに、彼の両親はリオンハール少年を探しているかもしれない」

「そうかもしれんな。兄の存在が厄介じゃが、それをわしらが心配してもどうにもならん。親子の問題は向こうで解決してもらうとしよう。……カリオス、うまく若造に話すのじゃぞ」


 カリオスは目を丸くして、心外だという表情をした。


「ご冗談を。お祖父様から話してください」

「いやいや、わしは口下手じゃ。おまえが話せ」

「口下手などご冗談を。政治家として演説をしているではありませんか!」

「最近物忘れが激しくてのぅ。若造の正体はウサギだったかな? はて? そういうわけでおまえが話せ」

「都合が悪くなると、年寄りになるのをやめてください!」


 二人は歩みを進めながら、どちらがリオンハールに真実を告げるのかで言い争う。

 歩くうちに森を抜け、夏の花が咲き揃う花のゾーンにやってきた。

 一陣の風が吹き渡る。


「やや⁉︎」

「あれはっ!」


 マクベスタが、魔法の杖を左右に振っている。一振りするごとに、魔法の杖の先端にある魔法石から黄金の光が放たれる。

 計四本の黄金色の光が放たれ、それぞれがマクベスタの呪文に従って動く。


「きゃっ‼︎」


 ユラシェが甲高い悲鳴をあげた。

 四本の黄金の光のうちの一本が、ユラシェの頭上にある大樹を勢いよく駆けあがった。すると大樹の枝が意志を持った生き物のように動きだし、枝の先端がユラシェの手首を捕らえた。

 枝はユラシェの両手首を一つにまとめると、ユラシェの頭上で固定した。

 ユラシェは逃れようと暴れるが、手首に絡んだ枝の力が強くて振り解けない。


「ユラシェ! 今、助けるからっ‼︎」


 リオンハールが駆けつけようとするも、黄金の光の二本目がリオンハールを襲う。


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