第11話 経験

腹一杯食って落ち着いてきた。

「美味しかったです。ご飯。」

それはなにより。

今は午後2時。暇だ。…買ったラノベでも読むか。

ひとみは…テレビに首ったけ。

それじゃ、ゆっくりと。


半ばまで読んだころには、暗くなってきた。暗いところでテレビを見ては目によろしくない。

電気をつける。学校がないとこんなにゆったりした生活になるのか。ご飯はいっぱい食ったし、続きを読むか。


…面白かった。やっぱり剣と魔法はロマンだ。炎出したり、炎切ったり。

「こういうこと、やってみたいですか。」

うわ。

「…本が見えないぞ。」

「よかってですね。こういうこと、できるようになりますよ。」

「俺が?」

「私たちは『星の子』と戦うことになるでしょう。中には能力で攻撃してくるものもいるでしょう。そうなったら…」

「俺が戦わなきゃいけないと…」

「もちろん私も一緒です。」

「さすがにそれは。ちっこいし。」

すぱぁぁん…

「あの変人から助けてやったのは誰でしたっけ…?」

「ごめんなさいありがとうございましたひとみ様のお陰です。」

「よろしい。」


でも俺が、

「魔法と剣を…かぁ。」

「いつかあるかもね、という話ですから。なければ一番です。」

「そうだよな。明日は、何時に出るんだ?」

「5時出発です。早めに寝た方がいいでしょう。」

「そうだな。」

さっきつけたばっかのように感じる電気を消す。



「起きてください。」

「んあ…。いま何時?」

「4時半です。」

「早くない?」

「時間にはゆとりがあった方がいいです。」

布団を剥ぎ取られる。寒い。なんでコイツは平然といられるんだ。

「さぁいきますよ。」

「わかりました…」

ストイックだな、スポーツ選手みたいだ。


5時。

全然時間あるじゃんか。

「この後、テレビ、でるんですかね。私たち。」

「ああ、でるかもなぁ。」

「そうですか…」

ん?緊張してるのか?

「そんな近くまでカメラ寄ったりしないよ。粒くらいにしか見えないって。」

「そうですよね。ちょっと緊張しました。」

「…なんか買うか。寒いし。」

「暖かいのがいいです。」


あったけぇ。

買って、話して、時間を潰す。時間は7時半。

そろそろか。

「そろそろです。」

「そろそろだな。」



7時50分。

「あそこにいます。」

向かいをひっそり指差す。

確かに、ちょっと挙動不審な感じもしなくもない。

「私たちは彼のスレスレをすれ違います。そして、」

「能力を使わせる。」

ピッ

信号が変わる。

「いきましょう。」



ドンドン近づく。みればみるほど、ただのサラリーマン。

ただ、片手に財布を持ってる。そこだけが不自然だ。

後、10m。

  5m。

すれ違った。

振り返って確かめる。

「変わらずただのおっさんだったな。」

「いえ、手をみてください。」

「あ、俺の財布だ。…俺の財布が!」

「いま持ってる財布を確認してください。」

「え?…あ!あいつがもってた財布!」

「とりあえず、渡りきっちゃいましょうか。」

「う、うん。」

保険証とか、あんのになぁ…。



「能力がわかりました。」

「まあ、何となくは俺もわかるよ。」

物を入れ換える能力だな。

「財布のなかに紙が入ってた。返してほしかったら、金持ってこいだって。」

「いつですか?」

「今日の午後8時。サラリーマンだなぁ。」

「では、その時間までに確かめておきましょう。」

「能力を?」

「はい。」

「なんで?金準備する方が先じゃないのか?」

「やられっぱなしは、嫌でしょう?」

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