第10話 日常

何事も起こることなく迎える朝。

…さて。

「これからどうしたらいいんだろう。」

まだ夢だといわれても信じられる。

…そもそも、だ。

能力持ってる人なんて普通いない。いたら大変な騒ぎになっているだろうし。

「ちょっと。テレビ、つけてください。」

お。

「しゃべれるようになったのか。」

これで、コミュニケーション問題は解決した…。

「…考えていること、わかる?」

「いいえ。その機能は切ってあります。」

良かった。社会的な死は免れた。

「いつでも、ONにできますよ。変なこと、考えないようにしてください。」

…善処します。

「というか、早く。テレビ、テレビです。」

「はいはい。テレビなんかみて、なんかあんのか?」

「情報は大事です。」

朝8時。やっているのは、ニュースくらいか。いつもと変わらず、何気ない日常が流れている。

ただ、確かに…いや、気にしすぎているだけなのかもしれないが、国際ニュースは少なく感じる。今も刻一刻と、世界は変わっているのだろうか。

「あ。」

「どうした。知り合いでもいたか。」

「いましたよ。」

「いたって?」

「能力者がいました。」

ひとみは機械じみた言葉遣いを使うことが多いと思っていたが、そんな人間じみたジョークも言えたのか。そんな簡単にいるわけがないんだ。

「…ほら。こいつ。」

テレビを指さす。

「…ただのサラリーマンじゃないか。」

「見てて。」

「…ん?」

よーく見てみる。

「これは・・・」

「ええ。そうです。」

「ああ、あれだな。」

「そうです。あれです。」

「ただの、サラリーマンだ。」

すぱぁぁぁん…

「は?はたきますよ?」

ぜひとも、はたく前に言ってほしいものだ…。

場面が切り替わり、お天気コーナーへ。今日は晴れるらしい。



「さっきの人、すれ違った人から、何か物をとってました。おそらくですが財布、でしょうか…。」

「え、嘘。」

まったくそんな動きはなかったぞ。というか…

「見てわかるもんなのか。」

俺からしてみれば、マジでただのサラリーマンだった。

「私は一応、地球様の部下に当たります。つまり地球の一部と言ってもいいでしょう。ある程度そういったことを感知することは造作もありません。」

…ひとみだけでなんとかなるんじゃないか?この問題。

「とにかく、この人の能力をもらいます。」

「どうやって。もうテレビはそいつ映してないぞ。」

「別に今日というわけではありません。明日、同じ時間にこの場に行きましょう。」

なるほど。

「もし俺に能力を使えば、そのままゲットできるわけか。」

「そうです。案外、簡単でしょう?」

「ああ。なんかもっと拳と拳の勝負なのかと。」

けがとかは心配なさそうだ。

「なので今日はいつもどうり、学校へ行ってください。早くしないと、遅刻しますよ?」

そうじゃん。今は…20分。ギリギリ間に合うか?

「っていうか、ひとみは?俺いない間、何してんの?」

「家事全般を。相棒はそういった分野が苦手なようなので。」

確かに。この散らかりきった部屋が物語ってる。

「それじゃ、よろしくお願いします。」

家を出る。

引き出しを開けられないことを願って。



今日はいつも以上に学生が少ない。というか、いない。道には、他校の生徒ばかりのみ。もしやと思い、スマホを見てみる。メールが届いていた。

どうやら、1クラスの大半の人間が行方不明になったとして、学年閉鎖になったそうだ。

そらそうだ。そんなことがあったら、普通そうするだろう。

…ただ、他の人たちは知らないのだろう。彼らが、嘘のような実験の被害者であることを。

そう考えるとなんだか、自分が今制服を着て、いつもどうりに過ごしている自分に、不快感を感じてしまう。なぜ、自分は生き残ったのか、疑問さえ感じてしまう。

「…なんか、買って帰ろ。」

うまいもんが食いたくなった。



「お帰りなさい。早かったですね。」

「今日休みだった。しばらく休みになるって。課題は出るらしいけど。」

「手に持っているのは、お土産ですか?」

「ああ。早いけど、昼飯だ。」

今はいったん、忘れよう。うまい飯がまずくなっちゃあいけない。

それと…

『お帰りなさい』が、うれしかった。







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