第7話 王国の処女姫
暗がりで侍従と共に王女の様子を眺めていた魔法使いアビシャグは、何の反応も示さないでいる若き姫に思わず表情を曇らせたのだ。
「やっぱり私が何とかしなきゃ……」
小さな胸に思いっきり空気を吸い込んで、吐き出す。
折角、訪れた馴れ合いのチャンスの中、アビシャグは大声を出して城内における緊張の糸を再び張り詰めさせた。
「話を元に戻そう。
ザワザワと騒然としていた空気が一瞬の内に静まり返ったかと思うと、水を打ったような静寂が訪れた。
「ん? さっきから何やねん。俺達はジェスターやのうて、お笑い芸人と言われてるモンやで」
まだ卓上にいるダケヤマの言葉には耳を貸さず、魔法少女は説明を続ける。
「人を笑わせる職にある者は、ディアブルーンでは道化師と呼ばれます。この世界ではとても貴少な存在なのです」
「ふむふむ、だから私達が、ここに呼び出されて連れてこられたの?」
カヤタニの言葉に、アビシャグは咳払いをして返す。
「玉座に今一度向かい、頭を垂れよ。そして我が王国の王女にあらせられるお方、ゼノビア姫のお言葉を待つのだ」
「…………」
ダケヤマとカヤタニは卓上から降りることも許されず、離れた場所から無口な王女様に向かって簡単な挨拶を済ませた。
「…………」
どこか遠くに焦点を合わせたまま静かに瞬きを続ける姫は、確かに人の話が聞こえているようだった。
時々ターコイズブルーの瞳を動かして口をパクパクさせてはいるが、その声は消え入るように小さい。
「一体どないしたんや、あの可愛らしいお姫様は?」
「こら! ダケヤマ! 王女様に対して失礼な口をきくな」
疑問に思ったダケヤマは、自分の妹のように王女の心配を始めた。カヤタニは、そんな彼にヒヤヒヤさせられっぱなしだ。
構わず魔法使いアビシャグは、スカンピンの二人に対して説明を続ける。
「ゼノビア姫は……、精神的に耐え難いショックをお受けになられて、見ての通り心を閉ざされてしまっている状態なのである。とてもおいたわしいことです」
カヤタニは当然のように疑問に思った。
「姫君の身に何が起こったの?」
「わが王国は今、ネクロマンサー率いる死の軍団から侵略を受けて疲弊し、大いなる苦境に立たされています。王女の父君にあらせられる現国王は、領民を魔物から守るため自ら最前線に出征されて、そのまま帰らぬ王となられたのです」
話を聞いたダケヤマは、唇を噛み締めて眉間に皺を寄せた。
「そんな出来事が……」
「そして母君にあらせられる王妃も、いてもたってもいられなかったのでしょう。周囲の反対を押し切って、王を探す旅に秘密裏に出かけられました。そして、同じ運命をたどられたのです」
魔法少女は涙ながらに王女を仰ぎ見て続けた。
「それ以来、国王と王妃を深く思われるあまりか、ゼノビア姫は心を氷のごとく凍てつかせてしまわれたのです。あれほど明朗快活であらせられた姫は、それ以来、誰にも笑顔を見せた事はありません。ああ、なんと心苦しき事なのでしょう!」
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