第8話 王国の処女姫2


 勘のいいカヤタニは現状を察し、なぜ自分達が異世界に召喚されたのか、おおよそ見当が付いてきた。


「あ~、大体の事情は分かってきました。笑顔を失ったお姫様に、お笑い芸人の私らができる事といったら、一つしか思い浮かびませんわ……」


 魔法使いアビシャグは、手に持つ杖で床石を小突くと、カヤタニとダケヤマに小さく微笑みかけた。そして深呼吸すると、二人に告げたのだ。


「日本から来たスカンピンと称する道化師ジェスター達よ。ここまで来てもらったのは他でもない。笑顔を忘れてしまわれた、憐れなゼノビア王女を見事に笑わせて、再び元気な姫様に戻して欲しいのだ!」


 しばしの沈黙の後、ダケヤマが顎を撫でながら言った。


「やっぱりそうか。よし、分かった! お安い御用だぜ! 俺達の力で姫を大爆笑させてやる!」


 それを聞いたカヤタニも、熱い口調で語るのだ。


「私らは、お笑い芸人で、人を笑わせる事を仕事にしている者なんです。つまり笑いのプロで、専門家なんですよ! 任せといて下さい!」


 やけに自信満々の二人に対し、円卓の騎士団を始めとする王国の方々との間には、妙な温度差があった。団長と称する無頼庵ブライアンは、渋い顔のまま。右眉を挙げると鼻で笑うような素振りを見せた。


「ほう、流石ですな。異世界より来られたお二人は、よほどの芸達者であるのだろう。しかし、……本当に大丈夫なのですかな?」


 カヤタニの方は、冷淡な視線に貫かれ、一瞬ヒヤリとした。それは無理もない。

 まだ無名で、お笑い芸人としては半人前。売れてもいないし、プロデビューする前の駆け出しコンビには、実力も何も備わっていないのだ。


 怯んだ彼女に追い討ちをかけるように、青騎士ルンバ・ラルが詰め寄った。


「私もあなた方が、本当に姫を笑わせる事ができるのか、甚だ疑問に思っておる。日本から来られた道化師の実力を、決して侮っている訳ではないのだが、どう思うかね? トムヤム君殿」


 デカい騎士は小馬鹿にしたような、いやらしい笑みを投げかけた。


「いや、スカンピンとやらは向こうで一流の仕事をこなされてきているはず。であるからこそ、魔女の召喚術に引っ掛かってきたのだろう? ここは大船に乗ったつもりで、安心して見守ろうではないか」


 周囲からのプレッシャーに、カヤタニはだんだん己の自信を失い始めていた。冷や汗を拭いながら後ろのダケヤマの様子を伺うと、相変わらず彼は涼しい顔をしたままニコニコしていた。こういう時にアホは頼もしいというか、羨ましいとさえ思えてきたのだ。


 


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