第2話 いきなり異世界


 上下左右もおぼつかない、気持ち悪い浮遊感の後、ようやく五感が戻ってきた。

 池に投げ入れたボールが浮かび上がってくるように、ダケヤマとカヤタニは抱き合ったまま、再び仄暗い世界へと誘われたようである。

 

 何だか、やけに静か……、でも人の気配がする。

 恐怖で固く結ばれたはずの両目を、すぐに開けたのはカヤタニの方だった。


「おい、早う目を開けんかい」


「何や、カヤタニ……。 ここはどこや? 天国か地獄か?」


「だ、か、ら~、自分の目で確かめたらどうやねん」


 声の反響具合と空気の流れから、だだっ広い空間だとは分るが、妙にとしており、ここはステージ上でない事は明らかであった。


「……おおっふ!!」


 ダケヤマは情けない、声にならない悲鳴を上げざるをえなかった。


 自分達が薄暗い照明の中、奇妙なステージ上に立たされている事を思い知らされたからだ。

 いや、それはステージと呼ぶには、あまりに異形だった。

 天井がやけに高い石造りのホールの中央に、重く鎮座する大理石の丸いステージ。装飾が凝らされたは、そもそもステージと呼ぶにはあまりにも重厚で、権威を象徴するような存在だ。

 

「何やねん、このテーブルは?」


 彼が言うように、狭い円形の舞台と表現するよりは、丸いテーブル……。そう、いわゆる円卓だった。その証拠に、木製の椅子に座った強面の男達が、グルリと囲んで二人を見上げている。

 ……ハンパない威圧感だったのは言うまでもない。

 何せ座ったままの人達は、時代がかった騎士のようなコスプレをしており、突如現れたであろうダケヤマとカヤタニを無言で睨み続けていた。それも眉一つ動かさず冷徹に、この上なく渋い顔で。


「うわ! 何やこのオッサン達は!? スカートの中、覗いてるンちゃうか?!」


 彼女の方は、丈の短いステージ衣装のお尻を押さえながら、必死にパンチラを防ごうとした。そして男達の間に若い女性も混じっている事に気が付いたのだ。だが、どう見繕ってもスタジオを見学に訪れた観客には見えない。

 正に青天の霹靂である。カヤタニは背中合わせとなったダケヤマに言った。


「ねえ、これは一体どういう状況なん?」


「さあ、すごい手の込んだ悪ふざけやないの……?」


「新人のあたしらに対して、ここまで金かけてする事か?」


「そうやな、まるでハリウッド映画の中か、RPGの世界に飛び込んだみたいやなぁ……」


 ダケヤマの言う通り、ハリボテのセットとは言い難いリアルさと空気感が漂っていた。

 カヤタニ側からは、一段と高くなった場所に立派な玉座が確認できた。そこには女王と呼ぶには幼すぎる少女が座っていたのだ。

 絵に描いたような美しさで、年の頃は14、5歳ほどの中学生くらい。地味目であるが煌びやかな衣装に身を包み、その頂には、やや大きすぎるティアラが載せられていた。

 だが真一文字に結ばれた口元と、伏し目がちの瞳からは、活き活きとした少女らしさが微塵も感じられない。囲んでいる騎士風の男達以上に無表情で、まるでゲーセンの景品にある美少女フィギュアを思わせる。

 

 否が応でも目に映る荘厳な壁面には、この国の象徴と思われる翼のはえたドラゴンワイバーンと赤い十字のエンブレムが誇らしげに掲げられていた。



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