第十八話:魔族と死闘したけど、無事でいられるか分からない

 第十八話:魔族と死闘したけど、無事でいられるか分からない


「ぅらああああアアッ!!」


 丸太のような腕からもたらされる、重い一撃。


「ふっ」


 夜の闇の中、おぼろげに見えるそれを半身になって回避する。


 全力疾走した僕は、演習場の中ほどでヴェクネロと相していた。


「ぉおらッ!!おらアッ!…おらあアアッ!!」


 デンプシーロールって言うんだっけ。


 真っ赤な上半身を捻じらせ、右、左、右、左と数々のパンチが繰り出される。


「はっ!…っ!……せえ!」


 斜め上、左右から降り注ぐ拳の雨を、ときには体を捻り、ときにはしゃがんでひたすら避け続ける。


 武器による攻撃にせよ魔法にせよ、ヴェクネロは僕たちの攻撃を避けるつもりはない。


 なぜなら、僕たちの武器の使い方や魔法の練度が低いせいで、たとえクリーンヒットしてもダメージにならないから。


 それは分かりきっているから、僕から反撃するつもりはない。

  

 マグナムならともかく、ショートスピアでは致命の一撃を加えることができないから。


「おらおらアアアッ!!いつまでしのげるかなぁァァ!?」


 見え見えの挑発には乗らない。


 今のところ、オーバースペックのマグナムによる一撃でしかヴェクネロの皮膚を貫けていない。


 そして、ヴェクネロは二度の被弾を経てマグナムの攻撃手順を学習した。


 こうなってしまうと、僕に打つ手はない。


 アレに期待するしかないんだ。


「……」


「なんだあっ!?あのデカブツのための時間稼ぎしようってか!?」


 そう言われ、僕はちらとヴェクネロの肩越しから『シルバーコメット』を覗く。


 どうせばれているのだから、無駄口を叩かせて一秒でも稼ぐ!


「さあ、どうだか」


「やる気ねえんなら…」


 魔族はぽつりと呟く。


 まずい、何かくる!


 反応しきれないと悟り、僕はとっさにショートスピアを横に構えて防御の姿勢を取る。


 その、次の瞬間。


「……死ねやゴミがあああああっ!!!」


「っ!、ぅぐうううううっっ!」


 槍の柄が中ほどから折れ、僕の顔以上の大きさもある拳が胸に叩きつけられた。


 沈みこんでいく拳に、肺の空気が全て押し出される。


「…、っぁはああああっ!」


 一拍遅れて、ものすごい衝撃が体全体に伝わる。


 僕は加えられたエネルギーに従って、後ろへと吹っ飛ぶ。


「っえあぁっ!…ぐぅっ!…がっ!」


 体が何度か地面をバウンドする。


 そして勢いを殺し切るため、全身を土に擦らせながら停止した。


「……っ」


 体中が痛い。


 肋骨がバキバキに折れてるだろうし、変な角度に曲がった左腕の感覚はない。


 けど、なんとか生きてる。


[チャージ25%]


「…せ、えのっ!…っいたあっ!」


 うつ伏せのまま、両手を地面につけて腰を浮かせる。


 けれど、もうもうと舞った砂煙で視界が悪く、目の焦点が定まらない。


 どうやら、脳震とうに陥っているようだ。


「……はあっ、はあっ、はあっ」


 あまりの痛みに意識を手放しそうになる。


 けど、ここで負けるわけにはいかない。


 ヴェクネロは下半身が貧弱にもかかわらず、高速移動ができる。


 さっき、瞬時に井藤さんを掴んだときに使ったものだ。


 手傷を負った状態で使えるか分からないけど、もし使えるのなら『シルバーコメット』の攻撃も回避されてしまう。


 よって、まだ僕の出番は終わっていない。


「これで、ちょこまか動かれずに済むなあああアァァッ!」


 頭の上で声!


 動こうにも反応できない!


「お前も…」


「…ぐっ!」 


 赤い腕が砂煙の中から伸びてきて、僕の頭を掴む。


 ヴェクネロの手のひらは大きく、前頭部ががっちりと握られてしまった。


 こいつ、ランゼリカ様や井藤さん、そして高坂くんにしたように、僕にも何かするつもりだ。


「…あのゴミどものようにしてやるよおおオオォォッ!!!」


 この、死にかけの人間を掴んだ後、魔力と思われる青い光とともに意識を奪う攻撃。


 この攻撃の正体は何か。そう考えたとき、僕の頭によぎるものがあった。


 まず前提として、この魔族には嗜虐的な一面がある。


 できる限り相手の苦しむ顔が見たい。ヴェクネロがそういう思考に至るのは想像に難くない。


 加えてもう一つ。魔力を感じ取り、意のままに操れるという能力。


 自分の魔力を十全に扱えるのなら、他者の魔力はどうだろうか?


 これらのピースから求めた結論。


 それは、この掴み攻撃が相手の魔力をからからになるまで吸い取り、己のものにする攻撃だということだ。


「やっと…」 


 こめかみに割れるような痛みを覚えながら、声を絞り出す。


 多分、亡骸よりは生きている生物から吸収した方がやりやすいのだろう。


 だからランゼリカ様も井藤さんも、生きたまま餌食となった。


 けど、それが仇となったね。

 

「…当たるよっ!!」


 魔力を吸収される寸前。


 自分を鼓舞する意味も込めて大声で叫ぶと、僕は右手に隠していたスピアの上半分を振りかぶり、ヴェクネロの右腕、肘の関節辺りに思いきり突き刺した。


「ッ!だが、そんな攻撃…」


 ヴェクネロは一瞬怯むも、すぐに余裕を取り戻す。


 僕が力を込めて振り下ろした槍の穂先は赤い剛毛の中を分け入り、分厚い腕の肉を穿った。


 構造上、どんなに鍛え上げた生き物も関節は弱い。


 が、言ってしまえば弱いだけ。


 元来の肉体の頑丈さに優れるヴェクネロを行動不能にするまでには至らない。


 でもね、魔法の力を使えば…!


「『エア・ポンプ』っ!」


 パアンッ!!


 小気味のいい音がし、ヴェクネロの右腕が破裂した。


「ンガアアアアアアアッッ!!!」


 槍を突き刺した後の、肉体の中で爆ぜる一撃。


 突如やってきた激痛に魔族が咆哮すると同時に、頭を締め付ける圧力も緩くなった。


 僕は急いで手首の残骸を取り外す。

 

「なんだあァッ!!何が起こったアアアアァァァッッ!!!」


 強烈な血の匂いに、鼻が曲がりそうだ。


 僕が使った魔法は、空の注射器で注射するイメージで、槍の先端から空気の塊を生じさせるもの。


 言ってしまえばただそれだけなんだけど、それを腕の中で発動させたとなれば、絶大な威力を発揮してくれる。


 要は、これ以上膨らませられない風船に無理やり空気を入れた感じ。


 内側からの圧力に耐えきれなくなった風船が破裂するしかないように、血肉で満タンの腕も内側から弾け飛ぶしかない。


 成功するか分からなかったけど、今わの際にベットするにしては分が良い賭けだろう。


「ざまあみろ…」


 ありったけの恨みを込めて、最後に悪態をつく。


 しかし、僕はどうやらここまでのようだ。


 魔力切れなのに無理やり魔法を行使した僕は、体内の魔力が枯渇して意識を失った。


[チャージ50%]



 ※※※



 サイド:京月癒那


 あの赤い魔族、ヴェクネロが使った『マギフォース・バースト』により、グループ一村は瓦解してしまった。 


 そして、他に打つ手がなくなった十海くんは、一人で戦いに駆け出した。 


 でも、十海くんならきっと大丈夫!私は、私にできることをするだけ。


「…っつ!」


 意気込んだ私は立ち上がると、右足首がズキズキと痛みを訴えた。


 吹き飛ばされた拍子に足をねん挫したみたい。


 けど、ヘタれてはいられない。


 もう少しで、正門側に鎮座する『シルバーコメット』が奥義を発動できる。


 私が今すべきこと。


 それは奥義に巻き込まれないよう、直ちにグループメンバーを避難させることだ。


「二人は…」


 後ろにいるはずと思い、私は背後を振り返る。


「…いた!」


 百メートルほど奥。


 ひび割れたレンガ造りの王城正面の壁に寄りかかるようにして倒れていた。


 刹羅と奏手だ。


「…はあっ、はあっ!」


 散々巻き上げられて柔らかくなった土や、城の一部だった瓦礫に転ばないように、けれども急いで二人の下へ走る。


 死んでなんかないよね、お願い!


「大丈夫!?刹羅、刹羅!?」


 筋肉質でありながらも華奢な体を軽くゆすっても、反応がない。


「奏手、奏手!?返事して!?」


 奏手もだ。


「……」


 死。


 生の向こう側にあるその存在を受け入れ、私は覚悟を決めた。


 まずは刹羅の口元に耳を当てながら、胸の上下を確かめる。


 意識不明の人の呼吸を確認する一般的な方法だ。


「…よかった、息はある」


 生きているなら大丈夫。


 私の特殊魔法『いつもの献身』を使えば、持ち直せそうだ。


「…奏手も生きてる」


 続いて、奏手の容態もチェック。


 虫の息だけど、彼女も死んでいない。


「『いつもの献身』」


 時間がない。二人同時に手当てする。


 最初にイメージするのは、骨折の治療。


 患部を固定して癒すため、小ぶりの消毒薬二つと添え木を四つ、それとありったけの包帯を生み出す。


「…っ、うん、平気」


 魔力を一気に使って少しふらっときたけど、まだまだ余裕。


 十海くんによると、ゼロから物を生み出す魔法は魔力の消費が激しいらしい。


 普通の汎用魔法も現象を生み出すから同じだと思うんだけど、そこは物と現象で安定さと確実性が違うから、と言っていた。


「集中っ!」


 また十海くんのことを考えてしまった。


 手元が狂うといけないので、自分に喝を入れる。


 まず、へこませると中身が出るタイプの容器のふたを開け、消毒液を奏手の体全体にかける。


 量が少なめだけど、私が生み出した薬の効果は普通のそれよりも高いからなるべく節約する。


「消毒はこれでよし。次は…」


 次に、あらぬ方向に曲がっている二人の両腕に添え木を当てる。


 位置を矯正するために力を込めて曲げたけど、痛いのは我慢してね。

 

 私は一通りの応急手当ができる。


 サッカー部の弟と野球部の兄がいて、二人がしょっちゅうけがをするから、やり方を身に着けたのだ。


「よし。後は、包帯だね」


 最後に、二人を包帯でぐるぐる巻きにしていく。


 これじゃあ、ミイラと見分けがつかない。


 でもしょうがない。擦過傷がない部分が見当たらないくらい、二人の体は傷ついているのだから。


 いくら私でも、ここまでひどいけがの手当てをしたことはない。


 刹羅は縛鎖を絡みつけていた右腕はましな方だけど、左腕がめちゃくちゃだ。


 とっさに『マギフォース・バースト』の衝撃をかばったんだね。胴体と両足は擦り傷がひどいものの、腕よりは軽傷で済んでいる。


 一方、奏手は瀕死だ。こちらも防御の姿勢をとったからか、両腕の傷が深い。


 特に、ナイフを持って前に突き出していた右腕はひどい。多分、骨が何か所に渡り折れてしまっている。


 でも、不安はない。私と『いつもの献身』なら大丈夫。


 私が治れと願って魔法を使ったんだから、絶対に治る。


 大切なのは、強固なイメージだ。


「これでよし」


 処置が終わった私は、急いで十海くんが戦っている場所に視線をやる。


「……死ねやゴミがあああああっ!!!」


「っぅぐうううううっっ!……っぁはああああっ!」


 そしたらちょうど、彼の胸に拳がめり込んでいく瞬間だった。


「十海くん…!」


 私の方に向かって転がってくる十海くん。


 思わず踏み出してしまう私の足。


 目は釘付けになり、心臓は心拍数を上げる。


 けど、ダメだ。


 今は他の皆の安全の確保と、傷の手当てをしなきゃ。


「もう少しだから、待っててね…!」


 必ず十海くんも救う。


 だから待ってて。


 私は両手を刹羅と奏手の脇に挟み、二人の体を引きずりながら王城の中へ歩いていった。



 ※※※



「ざまあみろ…」


[チャージ50%]


 一村の魔法で、ヴェクネロとかいう魔族の右腕がもがれた。


 俺、長谷屋翔大はその一部始終を、自分の部屋のように見慣れたコックピットの中から見ていた。


 といっても、直接ではない。


 前方の大画面のディスプレイに表示する形で、外の様子が分かるのだ。


「クソがアアアァァァッ!!!」


 魔族が一際大きく咆哮する。


 装甲に隔てられているというのに、こちらにもビリビリと音圧が伝わってくる。


 城で何人もの人間を相手していただろうに、まだこれほどの余力があるとは。


 間違いない。


 あいつをここで殺さなければ、ホワイトローズ王国は滅亡する。


「……」 


 レバーを握る手に汗が滲む。


 しかし、起死回生の一手はまだ準備できていない。


 『シルバーコメット』の必殺技、『シルバーコメット』を発動するには五分の時間がいる。


 ちょうど今、二分三十秒が経過したところだ。


 ちなみに、前の『シルバーコメット』が俺の搭乗している機体の名前で、後ろの『シルバーコメット』が機体の『シルバーコメット』の必殺技。


 文字の並びだと一言一句同じだが、アクセントが違うんだ。


「ありがとう、一村」


 俺を信じて、俺のために時間を稼いでくれて。


 目をつぶり、命を張った仲間を思う。


 今俺の目の前には、地球で大人気だったアニメ、『ギャラクメカ・ヒーローズ』の初代機『シルバーコメット』を操るコントロールパネルがある。


 大小、色や手触りが様々なボタンやレバー、ディスプレイやスイッチがあるが、それらは全て12.7メートルのこの機体を操作するのに必要な設備だ。


 なにせ、アニメの製作陣も極限までリアリティを追及しているんだからな。


 どのレバーが何をオン・オフするのか、どのつまみでどのパラメータを調整できるかを突き詰めて作られている。


 そう、『ギャラクメカ・ヒーローズ』は単なる創作などではない。


 ロマンに憧れる俺たちを魅了して止まない、世界の一つなのだ。


「……!」


 少しの思考の末、俺は目を開けた。


 断言しよう、俺はロボットアニメオタクだ。


 幼い頃から鋼鉄の機体に触れ、数々の作品を愛してきた。


 だから俺の特殊魔法が、一番大好きな作品『ギャラクメカ・ヒーローズ』の機体を生み出すというものだったのも、ある意味必然と言える。


「…っ!」


 突然、めまいがした。


 与太話をして集中力が切れてきたか。


 俺の特殊魔法では、まず機体の『シルバーコメット』を生み出すのには莫大な魔力が必要で、さらに動かすのにも魔力を要する。


 さらに必殺技の『シルバーコメット』を撃つには、魔力の枯渇ギリギリまで魔力を注ぎこまなければならない。


 そうなると当然、機体の他の機能を働かせることはできない。


 本来は背部のジェットエンジンで空を飛んだり、人間を模した手足を活かした肉弾戦(?)を披露することもできるが、今はそんな余裕はない。


 だが、まあいい。


 原作でも、全く動かずにエネルギーをチャージする『シルバーコメット』を仲間たちが必死に守るという展開があった。その再現だ。

 

 現実の殺し合いにアニメのような起承転結やドラマ性は必要ないが、逆にこの制約がなければ、俺はこの魔法を扱うことができなかった。


 夢にまで見た『シルバーコメット』の具現化。


 それを可能にしたのは、俺が今まで膨らませてきた機体たちへのイメージなのだから。


「ハアッ…、ハアッ、ハアアアッ…!」


 そうこうしている間に、痛みを乗り越えたヴェクネロがこちらに振り向く。


 半ばから破裂した右腕から赤黒い血がとめどなく流れているが、むき出しの殺気は衰えていない。


 次の標的は、俺と『シルバーコメット』か。


「……」


 しかし、俺に不安や恐怖はない。


「待たせたなアァァァッッ!!!」


 激昂を轟かせる手負いの魔族。


「生憎だが…」


 俺たちは、チーム一村。孤独なお前と違う。


 八人で、一つのチームだ。


「俺の出番はまだだ」


[チャージ75%]


「『マイ・コーディネート』!!」


「なああアアッ!?」


 瞬間、蝶野が叫ぶ。


 それと同時に、ゆっくりとこちらに歩み寄っていた赤い魔族が、真っ白になった。


 いや、真っ白な服を着せられた。 


「ねえ、赤ゴリラ?」


 俺はディスプレイを操作して後ろを観察する。

  

 数十メートル後方に、棍を掲げた蝶野が立っていた。


「おまえは、宇宙服って知ってる?」


 彼女の特殊魔法は『マイ・コーディネート』。


 一瞬にして指定した相手にイメージした服を着せるというものだ。


 一見すると大したことはなさそうだが、服を着るという概念がない魔族に対しては、この上なく有効な妨害手段となる。


 それも、地球人の俺たちでさえ着たことのない宇宙服だ。


 重さや材質など詳しく知らないが、いきなり着せられたとなったら誰だって困惑するし、相当な不快感を抱くことだろう。


 特にこの、短期で瀕死の魔族なら。


「っざっけんじゃあねええエエエッッッ!!!」


 バンッと大きな音を立て、ヴェクネロは自身の頭を覆うヘルメットのガラスを叩き割る。


「こんなゴミみたいなもん、すぐにぐちゃぐちゃにしてやる!!」


 そして露わになった首元を掴み、全身の生地を引きちぎる。


 左腕しかないのに、器用なものだ。


「残念、オーダーメイドなのに気に入らなかった?」


 この場にそぐわない軽薄な口ぶりで、蝶野が残念そうに言う。


 彼女によると、腕の太いヴェクネロ用の特注らしい。


 そういえば前に、着せる相手のサイズを正確にイメージしなければ魔法が成功しないと言っていたか。


 服は、着る相手のことを思って着られないといけない。


 言うなればこれが、特殊魔法を扱う上での蝶野の信念だな。


「ざけやがってえええエエェェッッ!!お前は必ず殺すっ!!」


 赤い肌を取り戻したヴェクネロが再び叫ぶ。


 さらに機体の胸部、俺がいるコックピットがある位置に左手をかざした。


 この魔族は、『シルバーコメット』を見たことがないはずだし、内部の構造も知っているわけがない。


 勘で、俺がいる位置を狙っているのか?


「…」


 徐々に、魔族の赤い手のひらに青い光が収束していく。


 あれは、魔力?


「死ねえええエエエッ!!」


 チャージは終わっていない。あと三十秒はかかる。


 だが、焦る必要は全くない。


 俺は仲間を信じているのだから。   


「死ぬのはおまえの方よ、赤ゴリラ」


 カランッ、コロコロコロ。


 蝶野がそう言い放つのと時を同じくして、ヴェクネロの足元に筒状の小さく黒い物体が転がる。


「じゃあ、閃光手榴弾って知ってるか?」


 貫太の声が響き、白い光が放たれる。


 ディスプレイを切り替えればいいのに、俺は反射的に目をつぶる。


「があああアアッッッ!!目がああアアアッッッ!!!」


「…っ!」


 貫太が力を振り絞って投げた閃光手榴弾は、魔族の赤も魔力の青も掻き消し、全てを白く染め上げた。


 強烈な音と光。


 至近距離で食らったヴェクネロは一たまりもないだろう。


 俺も防御した目は無事そうだが、激しい耳鳴りに聴覚が損傷を負った。


 ただ、右手の感触は生きている。


「何をしたゴミどもがあアッ、殺してやるうウッ!!」


 そしてたった今、これでちょうど…。


[チャージ100%.『シルバーコメット』発動可能]

 

 …『シルバーコメット』の、チャージが完了した!


「『マギフォース・…』!!」


「『シルバー、コメェェッッットぉぉぉぉっ!!!』」

 

 俺は原作通りに『コメット』の部分をねっとりと発音しながら必殺技を宣言し、原作愛好家から最も愛されているだろうレバーを思いっきり引いた。

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