第七話:グループを作れと言われても、はじめましての人が多すぎて分からない

第七話:グループを作れと言われても、はじめましての人が多すぎて分からない


「………というわけになります。分かりましたか?」


 サルゼアさんがパッと顔を上げ、僕たちの方を向く。


 見られた瞬間、僕はピンと背筋を張り、とりあえず首を縦に振る。


 別館の一階にある談話室に集められた僕たちは今、彼の授業を受けているところだ。


「よろしい」


 生徒の受けが良かったのか、先生役の魔法使いは満足げな表情をして顔を背けた。


 ふう。


 僕はつり上がった肩を落とし、小さくため息をつく。


 談話室はそれほど広くない。


 学校の教室より狭く、椅子を三十二人分並べるだけでいっぱいいっぱいだ。


「それでは、次に………と言いたいところですが、時間のようですね。今日はここまでにしましょう」


 サルゼアさんは几帳面で、なおかつ話し上手な人だ。


 朝食後から数時間かけて、ゼアーストの一般常識や教養、魔力や魔法といった概念などを細かく、丁寧に教えてくれた。


 でも、僕たちが質問をする余地がなかった。


 正確には、矢継ぎ早に説明されるので、途中で疑問が生まれても次の説明に押し流されるというか、新しく疑問が生まれるというか、そんな感じで時間が過ぎてしまう。


 シルミラ様との問答で話し込んでしまったため、今回僕はあまり口を挟まないように決めていたんだけど、流石にこれほど質問のチャンスがないとは思わなかった。


 ある意味、僕が危惧していた暗記型の指導ともいえる。


 別に不満はないけど、数多の疑問が頭の中に置き去りのままで、なんだかもやもやとした気分だ。


「では、明日も朝食後、談話室に集まってください。椅子は各自、邪魔にならないような場所に置いてくださいね」


 あれだけ話したのに、ちっとも疲れた様子がない。


 サルゼアさんは歯切れよく言うと、さっさと部屋から出て行ってしまった。


 とはいえ僕は、彼が不愛想で冷たい人間だとは思わない。


 これが、異世界人に対する普通の接し方だからね。


 彼にとっては、顔つきも考え方も違う人が三十人以上、自分の生活圏内に湧いて出たようなものだ。


 そんなの誰だって警戒するし、すぐにその人たちに対して心を開こうと思えないよ。


 それに、その人たちと顔を突き合わせて、自分にとってはごく当たり前のことを噛み砕いて教えなくちゃいけないんだから、結構苦痛だよね。


「よし、皆、お疲れ。談話室をきれいにしてから、昼食にしようか」


「中央にいる人はテーブルを持ってきて、最初みたいな二人席になるように戻そう。端っこの人は、背もたれをくっつけて壁際に置いてほしい」


「男子は、テーブルを優先してお願いできるかしら。それと、余裕のある女子は男子の分の椅子も手伝ってもらえる?」


 早速、東先生、野木島くん、井藤さんの三人が指揮を執る。


 堅苦しい授業から解放され、多少のざわめきはあるものの他の皆は従ってくれている。


 いいね。


 小さなことだけど、全員が冷静に判断できている。


 案外、『神託』という非現実的な体験を通して、ここは常識の通じない異世界だという認識が浸透したのかもしれない。 


 僕はひじ掛けのところを持って椅子を持ち上げながら、そんなことを思っていた。


「皆、ありがとう。これで、他の人も気持ちよく使えるだろう」


 いや、それはどうだろう。


 あっという間に、安全に歩ける道ができるくらいには整理できた。


 けど、やっぱり椅子が多すぎるので、きれいな部屋かというとそうでもない。


 これはもうしょうがない。


 どうせ明日も使うから、これ以上整頓しても意味がないよ。


「昼食を終えたら、そのまま正門前に集合だ。部屋に用事がある人は、今のうちに行っておいてくれ」


「髪の長い人はまとめておいた方がいいわ。体を動かすらしいから」


 学級委員の二人がさらっと要点をまとめた。


 彼らの息はぴったりだ。


 一人なら見落としがちなところも、抜け目なくカバーし合っている。


「よっし、昼飯行こうぜ」

 

「お腹空いたね。頭使ったし」


 自由時間となり、早速話し始める僕と高坂くん。


 渡会くんと長谷屋くんは、スペースの都合上、少し離れたところにいる。


「なーなー、何が出てくるかな!?やっぱり昼はカレーだよな!」


「ご飯がないんだから、カレーはないだろう。俺はそれほど腹が膨れないような、サンドイッチみたいなものだといいな」


 と思っていたら、二人がやってきた。


 どうやら、お昼のメニューについての論議を交わしているようだ。


「僕もそれが良いな。すぐに運動するから、いっぱい食べたくない」


「えー!カレーいいじゃん。すぐ腹が減るから、めっちゃ食いたいんだけど!」


 渡会くんがこんなことを言う気持ちも分かる。


 彼は気づいてないかもしれないけど、これも一種のホームシックだ。


 日本のカレーが食べたいと、無意識に思ってしまっている。


「俺は美味かったら何でもいいな。薄味にもだいぶ慣れてきたわ」


 一方、高坂くんのような人もいる。


 いち早く新しい環境に適応でき、新しいもの、馴染みのないものであっても、あっさりと受け入れられる人だ。


「さ、空いてきたみたいだし、行こうか」


 僕は、人がまばらになった談話室の出入り口を向いて言った。


 まあ結局、その人次第だよね。 


 ものの捉え方、感じ方には個人差があるものだから。


「うし、午後も頑張るか。ひょっとしたら、俺の類い稀なる才能が開花したりして……」


「せめて、俺の好きなものであってくれよ……!」


「だから貫太、日本食が出るとは限らないだろう」


 三人ともいつもの調子だ。


 ま、僕だけ二組だったから、いつもの調子なんて分からないけど。

 

 とはいえ、そんなに悲観的にならなくてもいいのかもしれない。


 見た感じ、勇者の皆はこの世界に順応しつつある。


 つまり僕のこの不安も、単なる取り越し苦労に終わる可能性が高いってことだ。


 なるべくなら、そうであってほしいな。


 そう思いつつ、僕は談話室のドアを押し開けた。



 ※※※



 一時間後。


 昨日の夕食と今朝の朝食のように、食堂で昼食を食べた僕たちは、本館の正面入口前に集合した。


 僕たちは適当に整列した状態で、前にはティアーナ様、両脇には二人ずつ、計四人の男女が立っている。


「皆、集まっただろうか。……それでは、午後の訓練を始める」


 そういえば、サルゼアさんに教えてもらったことについて説明していなかったね。


 一つずつ紹介していこう。


 まず、彼は自己紹介ついでに、ゼアースト人の命名のルールについて話してくれた。


 いわく、どんな身分の者であっても、この世界で生まれた人にはファーストネームとラストネームが与えられる。

 

 王族や位の高い貴族の場合は、シルミラ・ホワイトローズとか、ティアーナ・レオズソウルみたいな感じだね。


 また、城下町の一般的な家庭の領民についても、同様の法則で○○・○○という名前になるらしい。


 まあ、城下町に行ったことがないので、僕はまだピンときていない。


 そんなに大事なことでもないし、頭の片隅にとどめておくだけでいいよね。


「訓練にあたり、こちらにいる四人の冒険者に指導を頼んだ」


 そう言いながら、ティアーナ様が一歩後ずさった。


 それと同時に、紹介された四人の冒険者たちが一歩前に出た。


「早速、一人ずつ自己紹介してくれるか?」


 次に、ゼアースト人の職業について。


 この世界には、商人や農家、職人などの、僕たちでもイメージしやすい職業から、冒険者や魔法使いなどの、異世界特有の職業まで、実に幅広い職業が存在する。


 でも、色々な異世界ものの作品に触れてきた僕にとっては、割と受け入れやすかった。


 ちなみに、冒険者と魔法使いをざっくりと説明すると、冒険者は魔物を狩って生計を立てる人で、魔法使いは魔法を他人に教えたり、魔道具を製造することを生業にしている人のことをいう。


 サルゼアさんも魔法使いだ。


 王族の嫡子や騎士、使用人たちに魔法を教えたり、豊富な魔力を活かして城の各設備を運用している。


 あ、『魔力を活かして城の各設備を運用』っていうのは、様々な魔道具に魔力を充填させて、王族や僕たちの暮らしを便利にしてくれているって意味ね。


 ああ、今度は、魔道具の説明をしなきゃいけないか。


 魔道具は、魔力を込めることで特定の効果を発動する道具のこと。


 具体的な例を挙げると、大浴場の浴槽もその一つだ。


 お風呂を利用する前に、魔法使いが浴槽に魔力を込めることで、魔道具が起動。

 

 魔力を源に水が生み出され、さらに温めてお湯が作られる。


 これはサルゼアさんに言われてから気付いた。


 当たり前のようにお風呂に浸かっていたけど、裏でそんなことをしていたとは。


 僕たちの生活を支えてくれる人たちに対して、感謝の気持ちを忘れないようにしないとね。


「ありがとうございます、ティアーナ様。……まず、俺から。リザン・アンバーアイズだ」


 初めに、ティアーナ様のすぐ左にいる若い男性が名乗り出た。


 鮮やかなオレンジ色の髪をしたイケメンだ。


 けれど、今は機嫌が悪そうに、眉間にしわを寄せている。


 そして、両の目は琥珀色に輝いている。


 琥珀は英語でアンバーというから、この目がラストネームの由来かな?


 黒いマントに覆われていて分かりづらいけど、灰色の革鎧のようなものを着ている。


 背が高く、スラッとした体躯。


 目測だと、百八十センチほどだろうか。


 さらに、腰の両側には一本ずつ、剣らしきものが収められた鞘が差さっている。


 リザンさんはいわゆる、剣士、なのかな。


「主に魔法と、二振りの剣で戦う」


 その次には、魔力と魔法について教わった。


 まず言われたのが、魔力は魔法を発動するために必要なエネルギーでもあり、気体のような物質でもあるとか。


 物質的な側面もあるから、魔法を放つ際に体外に出る魔力は、空のような青色に光って見える。


 そして、空気中には魔力が充満しているため、空の青色は魔力の色だ、とサルゼアさんは続けた。


 地球では、確か空気が日光を反射する関係で空が青色に見える、みたいな感じの理論が主流だけど、ゼアーストでは違うようだ。


 それを聞いて僕は面白い、と思った。


 神様が言っていた、世界の理が世界ごとに異なるっていうのは、こういうことなんだろう。


 さて、長くなっちゃったね。


 次は魔法について。


 魔法は、大きく分けて二種類に分類される。


 汎用魔法と特殊魔法の二つ。


 汎用魔法は、さらに細かく火、水、風、土、光、闇の六属性に分けられる。


 燃え上がる炎や目も眩む閃光など、日ごろ僕たちが目にする現象を再現する魔法だ。


 汎用とあるように、これらの魔法はきちんと理解すれば誰でも使える。


 さっき言った、魔法使いが教える魔法というのは、ほとんどがこれだ。


 一方特殊魔法は、ほぼその人しか扱えないような魔法のことをいう。

 

 正確には、その人のイメージでなければ魔法を形作ることができず、実質、使える人がその人だけの魔法らしい。


 『神託』で教えてもらった、僕たちの魔法は特殊魔法にあたる。


 サルゼアさんによると、地球人の感性は独特かつ複雑であり、ゼアースト人には理解できない仕組みをもつ魔法を使えるケースが多い、とのことだった。


 ただ特殊魔法は、僕たち勇者だけが使える魔法ではない、ということに注意しなければならない。 


 王家、一族秘伝の特殊魔法や、その人独自のイメージにより生み出された魔法など、ゼアーストで生まれ、育った人でも使える場合がある。


「次は私だな。私は、キャロリーナ・ディープシー。気軽にキャルと呼んでほしい」


 続いて、リザンさんの左、色の薄いピンクのショートカットの女性が話し始めた。


 彼女は魔法使いのようだ。右手に大きな杖を握り締めている。


 あ、指揮者のタクトみたいな細いものじゃなくて、先端が地面に着くくらいの太くて長い杖ね。


 魔法を使うときは、杖に限らず、魔力の通りやすい物を通じて魔法を放つ方がいい。詳しい理由は、今は省くね。


 そして、魔力の伝導率が高い素材で作られた杖を使った方が、より良い。


 だから、魔法を使う機会が多い魔法使いは、彼女のように杖を持つことが多い。


 なぜか、サルゼアさんは持ってなかったけど。


 反対に近接戦闘をする人は、魔力の伝導率は落ちるけど、剣や槌、槍など、近接戦に有利な得物を持つのが一般的だ。


「見ての通り、この杖で魔法を使う。一般的には後衛にあたる魔法使いだ」


 キャルさんはつばの広いとんがり帽子、いわゆる魔女の帽子を被っており、黒色のローブで身を包んでいる。


 髪は長いそうだけど、ほとんどがローブに隠れていて分からない。


 口調はサバサバとしている。


 でも、外国のモデルのようなかわいい系の顔だ。


 ラストネームは、ディープシー。普通に訳すと深い海だけど、何か込められた意味があるのかな。


 目は水色。アクアマリンのような透き通った水色をしている。


 背は高いが、リザンさんほどではない。百七十センチいかないくらい?


 長い手袋と脛まで覆うブーツで素肌が隠されている。顔は白めだけど、日に焼けるのが嫌なんだろうか。


「僕の番?え、僕ね。…僕は、ハロートワ・ガッツロック。ハローでもハロートワでも、どっちでもいいよ」


 三人目は、ティアーナ様のすぐ右の男性。


 ハロートワさんね。中々、耳馴染みのない名前だ。


 一方で、ガッツロックというラストネームは分かりやすい。ガッツで満ちた自信ありげな表情と、岩のような体をしているからね。


 前の二人よりも年上かな。失礼だけど、顔の張りや体つきが年長者のそれであるように見える。


 髪は焦げ茶色で、目は深い緑色だ。ずいぶんと彫りの深い顔立ちをしている。


 体格はずんぐりむっくりだけど、窮屈な感じはしない。全身の筋肉がほどよく発達した、アスリート体型と言えばいいかな。


 武器は槍というか、薙刀?槍のような太い棒の柄の先に、刀のような金属の刃がくっついた薙刀を背負っている。


「剣槍を振るって戦う接近戦が得意だよ。魔法もそれなりに使える」


 そうそう。


 授業で教わったことはまだある。


 次は魔族と人間について、だ。


 魔族とは、頭の良い魔物のこと。


 魔物は、たくさんの魔力を持った生き物の総称ね。


 ゼアーストに動物はいない。地球の動物に相当するのが、魔族や魔物と思ってもらっていい。


 これは、ゼアーストで動物が絶滅したわけじゃなくて、定義の問題だ。


 この世界の理では、魔法が絶対。全ての生き物は魔力を有している。


 だから、人以外の生き物は全て魔物に値するというだけ。これは植物や菌類といった、一見して生きていないように見える生物にも当てはまる。


 では、魔物と魔族の境目はなんなのかというと、人語を介するか否か、だ。

 

 魔族は必ずしも、人の形をした悪魔とかではなく、異形の体を持つことが多い。


 でも、魔物よりも知能が高く、人間と会話することが可能だとか。


 もっとも、滅多に人間と話そうとせず、口を開いても、人間に対する罵詈雑言しか出てこないみたいだけど。


「…最後。……ミリーラ・シャドウハイカー」


 最後の四人目、ハロートワさんの右にいる小柄な女性が静かに呟いた。


 ラストネームは、シャドウハイカー。影の探訪者や闇の探索者とか、そんな感じの意味かな?


 髪は暗い紫色で、瞳と同色。ショートカットで肩周りがすっきりしている。


 サイズピッタリの皮鎧を着ており、露出がほとんどない。鎧の表面は全体的に黒く、今にも闇に溶け込んでしまいそう。 


 また、とりわけ目を引くのは、右手に備え付けられたボウガンだ。


 黒めの茶色をした木製の銃身。今にもはち切れそうな細い弦。


 そして、中央にセットされた鋭い矢。 

  

 なまじ地球でも見かけるような武器なので、より威圧感というか、殺気を感じる代物に見える。


「……ボルトに魔法を込めて、撃つ。………それが私の戦い方」


 なるほど、ミリーラさんはボウガン主体の中衛職か。


 『魔法を込める』って言ってたけど、これには魔法の面白い性質が利用されている。


 矢やボルトを撃つ際、魔法を使うイメージとともに魔力を込めることで、着弾と同時に矢、ボルトを中心として魔法が発動する、魔法の遠隔発動が可能だという。


 つまり、飛んでいる間はただの矢やボルトだけど、何かに当たって静止した瞬間に魔法が炸裂する、異世界版のミサイルみたいなものだ。


 これの大きな利点は、魔力の効率が良いという点にある。


 通常魔法を撃った直後、魔力は術者の体内から飛び出して対象に向かっていく。


 しかし、現象に変換されるまでの間、魔力が常に発散し続けてしまうという欠点がある。


 簡単に言うと、空気中に晒される時間と距離が長いほど、魔法へと利用できる魔力が少なくなっていくってこと。


 なので、矢やボルトというカプセルの中に魔力を詰め、相手の至近距離まで運ぶことで、威力減衰の少ない魔法をぶつけられるというわけだ。


「以上、四名の冒険者に訓練を担当してもらう。勇者殿たちは八名ずつ四組のグループに分かれて、後ろの演習場で訓練を始めてくれ」


 ティアーナ様の凛とした声が響き渡る。


 ちょうど、授業で教わったことの説明も終わった。


 さて、そろそろ頑張りますか。


「ここからは、キョーコに任せる。私は所用があるので、これで失礼する」


「分かりました。ありがとうございました、ティアーナ様」


「なに、礼には及ばないさ」


 ティアーナ様は集団の先頭にいた東先生を呼び、二言三言会話すると、体を翻してスタスタと城の方に戻っていった。


 まあ、姫様の護衛をしているし、暇なわけないよね。


 むしろ、お目付け役の冒険者を紹介する時間まで割いてくれてありがたい、という気持ちでいっぱいだ。


「それじゃあ、皆!八人のグループを作ってくれ!……と言いたいところだが、いきなり八人組を作れというのも難しいか」


 僕たちの方を向いて、先生が声を張り上げた。


 後半は、なぜか僕を見て言ったような気がする。


 まさか、僕がぼっちだと言いたいの?


 ……まあ、事実その通りなんだけど。


「だからまずは、同室の四人で固まってくれ。一晩を共にした仲だ、波長が合うだろう」


 彼女は、一人一人の顔を見ながら話を続ける。 


 『一晩を共に』って言い方はアレだけど、良い案だ。


 そもそも、気心の知れた友達同士になるよう部屋割りを決めたから、まず上手くいくだろうね。 


 でも………。


「ところで皆さん戦い方が色々あるようですが、どのように生徒…じゃない、勇者たちを振り分けた方がいいですか?」


 ここまで威勢の良かった先生は、僕たちから目を逸らすように視線を横にずらし、リザンさんの顔を見ながら言った。


 そう、まずは教官を務める冒険者たちの意見を聞くのが第一だ。


 当たり前だけど、彼らは僕たちと初対面だ。


 一人一人がどれくらいの力を持っているのか、どのような性格をしているのか、どれくらいの魔力を持っているのか、どんな魔法を使えるかなどのことは、もちろん彼らは知らない。


 というか、僕たち自身も把握しきれていない。


 けれど、訓練はしてもらわなければならない。そうしないと、勇者を犬死にさせることになるから。


 それに、冒険者たちの中でも性格、戦い方、魔法などの個人差がある。


 僕を含め勇者の一人一人が、あの四人の中の誰に教えてもらうのか。


 それがとても重要で、場合によっては生死に関わる。


 まさに、今後の人生を左右すると言ってもいい。


「王選冒険者の俺が代表として意見させてもらう。俺たちは、こいつらの武器や魔法に対する適性など知らん。誰でも一通り教えられるから、お前が勝手に決めてくれ」


「わ、分かりました」


「敬語はいらん、別に俺は偉くない。リザンと呼べ。お前らもな」


 と、リザンは僕たちの方を向いて付け足した。


 ぱっと見、彼は東先生よりは確実に下、僕たちの少し上くらいの年齢だ。


 だから、堅苦しい接し方が嫌なのかな。それとも、敬われること自体が嫌なのか。

 

 多分、どっちもかな。


 いや、それはそれでいいんだけどさ……。


「待て、一つだけ要望がある」


「なんですか?……ええと、リザン」


 別館の部屋割りは、男子四人ずつ、女子四人ずつの計八部屋ある。


 八人で一グループということは、八つの四人組の中から二つを抽出してまとまりを作る必要がある。


「お前たちは確か、男と女の数が同じなんだろ」


「あ、ああ、そうだが…」


 しかし、個々人の魔法の適性や性格、運動神経などが分からない今の段階で、全グループの力量が平均になるように分けるにはどうしたらよいか。


 つまり、僕が言いたいのは………


「なら、男と女が同人数になるようにグループを作ってくれ。今すぐにな」


「分かった」


 僕、高坂くん、渡会くん、長谷屋くんの四人で、女子四人とグループを作らないといけない、ということだ。


 顔も知らない、話したこともない元一組の女子四人と知り合って、仲良しグループを結成しないといけない。


 古巣の二組ですらぼっちだった僕にとって、これがどれだけ大変なことか……。


 ……お分かり頂けるだろうか!?


「皆、聞いてたな!同部屋の四人どうしで、八人のグループを作ってくれ!」


 ああ。


 さっきは、疎遠な一組の皆とも一致団結して上手くやっていけるだろうと思ってたけど、撤回したい。


 一体どうやって、女の子に話しかければいいんだ?

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