48.第二王子派、終了のお知らせ
カジミールが新しい情報を持ち込んだ。もうシモン侯爵家の跡取りじゃないのよと伝えたのに、お父様から情報提供の中止命令が出ていないんですって。まあ、情報料の請求がシモン侯爵家へ行くのは構わないけどね。
クリステルとお茶会をした日の襲撃は、思わぬ尾ひれが付いていた。破落戸風の襲撃犯は、なんとある伯爵家の元騎士だったのよ。それも騎士を離職したのが襲撃の前日……騎士は一種の爵位と同じように扱われるため、就職や離職はきちんと記録される。公的な記録は保管されているから、発覚してから遡ることが不可能だった。
仕組みは簡単だけど。襲撃事件の前日に離職し、翌日に再就職すればいいの。僅か一日だけ、伯爵家所属でなければいい。その間に起きた事件は関知しない、という形ばかりの離職よ。そこまでしてルーベル公爵家の門前で襲ったのが、よりによってシモン侯爵家出身の私……。
調査は思わぬ方向まで広がった。バロー伯爵家の寄り親に等しい関係先が、正妃様の実家であるジリベール侯爵家だったの。ここまで突き止めたのは、シルによる拷問だった。運び出された襲撃犯が、元騎士なら主家に対する忠誠心で口を噤む。けれどね……私、見ちゃったのよ。
運び出された襲撃犯は、「元」の肩書きが付いた袋詰めの肉や骨だった。完全にバラバラにされていたことから、想像出来てしまう。三人のうち一人を目の前で解体する。残された二人のうち片方がゲロる。間違いなく保身と狂気の間で自供したはず。話を聞きだした後、残りの二人も容赦なく解体された。
ええ、ここに慈悲なんて言葉は存在しない。温情? なにそれ、食べられるの? って感じよ。小説の中で、ヒロインに言い寄った街の男達をシルヴァンが細切れにする表記があった。強制力だかシナリオが働けば、同じシーンが再現される可能性があるってこと。今回がそれね。
シルが丁寧に解体したマグロ……じゃなかった、元騎士の破落戸風襲撃犯は豚の餌になるらしいわ。しばらくは朝食にベーコンや豚ソテーが出たら残しましょう。共食いは絶対に嫌だもの。
ずた袋を見て、すぐに「あれは人だったパーツが入ってるわ」と気づいたのは、実家でもよく見たから。どの貴族家にも10枚単位でストックする物なの?
カジミールが帽子やバッグの小物を納品がてら話した内容によれば、正妃様のご実家が影響力を行使するいくつかの貴族家が没落していた。横領がバレたり、平民の少女への暴行が明るみに出たり、跡取りが失踪した家もあるの。
ルーベル公爵家にしては手際がいいから、シモン侯爵家が動いたかも。ほとんどの貴族家の弱みを握っていて、いつでも行使できるよう証拠固めも完璧だった。お父様が動いたなら、第一王子支持に傾いたってことね。別に嫁いだ娘が襲われた理由じゃなく、その方が国を維持するのに都合がいいと考えた。
シモン侯爵家が守るのは王族ではない。国そのものよ。この国のシステムが保たれるなら、国王の首なんて誰にでも挿げ替える。今回は第一王子支持に回ったから、第二王子の支持母体を崩壊させただけ。偶然にも襲撃されたのが私やロザリーなので、まるで復讐したみたいになった。
情報を纏めて溜め息を吐く。今になればシルと結婚してよかったかも。こういう天秤にかけて選ぶ作業って苦手なのよ。シモン侯爵家の跡取りから解放されたお礼に、未来の弟妹が何か要求したらひとつくらい応じてあげてもいいわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます