35.我が身を餌に情報を得る
「君の言う破綻が何を指してるかにもよるけど、多分違うな。ただ、謎を解く鍵は持ってるかもしれない」
自分では弄っていないけど、あれこれ変更した人を知っている。そう聞こえた。
「なら、教えて頂戴」
「ご褒美を約束してくれるなら」
何でも答える。機嫌のいいシルへ考えるフリを見せた。大人しく待つ彼の後ろで、幻影の尻尾が全力で左右に揺れる。
「裸で抱き合って眠ってあげるわ」
この辺は羞恥心が薄いのよね。この世界に来てから、ごく普通に着替えやお風呂に人がいるの。本当に一人なのはトイレくらいかも。ぼっとんなので、最初はびっくりしたけど。その排泄物を片付ける人がいるんだから、本当の意味で貴族に羞恥心はないわ。
前世の記憶からしたら信じられない状況だもの。着替えやお風呂は侍女が付き添い、排泄物まで第三者に始末してもらうのよ? ちょっと足が見えたくらいで「きゃっ」なんて騒ぐ貴族令嬢の気がしれない。もっと恥ずかしいこと、普段からしてるのにね。
「……本当に?」
「ええ。あなたが希望する日は一緒に寝てあげる。でも体調次第で断る日もあるけど」
「もちろんだ! 最高だよ、レティ!!」
生理の日とか、熱がある日は別に寝たいのよね。それ以外なら構わない。あれでしょ、抱き枕が後ろから私をホールドするだけの話だもの。
「夫婦になる許可も、いつかもらえるよう頑張る」
「ええ……頑張って頂戴」
すっかり忘れた。私、シルの妻だった。確かに、いつかは跡取りを産まなきゃいけないわ。その頃までには覚悟も気持ちも固まるはずよ。
「何でも聞いてくれ」
にこにこと催促され、端的に本命部分を口にした。
「シナリオを変えた人に心当たりがあるの?」
「ああ。俺が知っている物語は、小説だ。ゲームは履修してない。その前提で聞いてくれ」
前置きしたシルが、この世界は小説『黒薔薇をあなたに捧ぐ』に関係していると気づいたのは早かった。まず、自分と第二王子エルネストの名前が気になったらしい。聞き覚えがある、程度の引っ掛かりをたぐって調べたのは、宰相の息子と引き合わされた時だ。
母親の友人であった侯爵夫人が、己の息子ウスターシュを紹介した。青い髪色と名前が決め手だった。王弟の長男を調べれば、バスチアンで銀髪と判明する。この時点で間違いなく小説の中だと確信したらしい。
「友人のウスターシュが、婚約者を作った。小説の中では他国に嫁いだと表現され、名前くらいしか出てこなかったアドリーヌ王女殿下だったんだ。小説と違う、そう思って彼に尋ねたら……他国へ嫁いだ王女が不幸になると知っていた」
ゲームでは、アドリーヌ王女は兄エルネストに懐いていた。ヒロインに嫉妬し、私レオンティーヌと一緒にヒロインを虐める。婚約破棄の断罪がきっかけで、王女は離れた砂漠の国王へ嫁がされた。砂漠の王はすでに50人近い側妃がおり、若い王女を一度抱いたきり……放り出して見向きもされずに命を落とす。
ざまぁの展開のひとつね。どっちのエンドだったか忘れたけど。なるほど、この展開を知っていたなら、ウスターシュはゲーム履修者だわ。
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