04.自分の日記を読み耽る夜
ようやく家族の団欒……と呼んでいいのかしら。質問責めから逃れて自室でベッドに飛び込む。侍女ロザリーは慣れた様子で、私の服を剥ぎ始めた。
この世界の貴族女性は、背中に細かな隠しボタンがあるドレスを纏う。一人で脱ぎ着が出来ない服は、財力の象徴だった。一番楽な格好はワンピースや室内着だけど、どちらも隠しボタンがないので助かる。
今日は外出用のドレスだったので、後ろのボタンをすべて外したロザリーが、ドレスのスカートを捲り始めた。いやん、涼しいわ。
「起きて脱いでください、お嬢様」
「脱がせてよ、疲れちゃったわ」
文句を言いながら、ロザリーの指示に従い、右へ左へ転がる。稀に少し足を浮かせたりしながら、下着姿になった。ここから先が大変なのよ。
一般の淑女と違い、私の下着には暗器が隠されているから。自分で外して放り出す。慣れた手付きで拾い、ロザリーは暗器をケースにしまった。この家の侍女は、自分も暗器を扱うせいか。手際が良くて安心できる。
「もうお休みになりますか?」
「あ、お風呂入るわ。それと……普通の紅茶をお願い」
お母様愛用の黒いお茶じゃないわよ。念押しして、風呂へ向かった。自室に風呂があるのは、伯爵家以上の家格と財力が必要よ。沸かしたお湯を汲んで運ぶ侍従を、専門に雇うんだもの。
用意されたお湯に香油を垂らし、私は身を沈めた。体を温もりが包むと、とろんと瞼が落ちてくる。このまま眠ったら幸せでしょうね。溺れて一生目が覚めないでしょうけど。
髪を洗う侍女の手に任せ、お風呂を堪能した。これまで何とも思ってなかったけれど、前世の記憶が蘇った今は贅沢だなと思う。蛇口をひねればお湯が出る世界に比べたら、人力で運ぶお湯なんて高級すぎるわ。
多少温度が合わなくても、我慢できちゃうもの。今日は温めよね。でも疲れてるから落ち着くし気持ちがいい。自分の手で足や腕を揉みほぐしながら、深呼吸した。
「お嬢様、紅茶の準備が整いました。他にご用はございますか」
「いいえ」
答えながら風呂を出る。裸で人前に立つなんて恥ずかしい、と感じる時期はとうに過ぎた。貴族って羞恥心薄いのよ。侍女や侍従は家具も同然で、見られたうちに入らない。外の人に見られたら、ちゃんと恥じらうんだけどね。半分演技だと思うわ。
髪を乾かしながらお茶を飲み、ロザリー達に下がるよう命じた。これを忘れると、部屋の中でずっと控えてたりするの。ブラック企業真っ青の勤務状況もあり得るんだから。
一人になった部屋で、ライティングデスクへ向かい、日記を開く。そこで好奇心が湧いて、過去の自分の日記を捲った。
昨日の訓練内容が詳細に記されている。さらに遡ると、新しく手に入れた短剣の鋭さについて書いてあった。興味を引かれて、日記を最後から逆に読み続ける。
「やだ! 窓の外が明るいじゃない!」
眠い目を擦りながら読み耽ってしまい、慌ててベッドに入るも……小説内容のメモを忘れたことに気づく。迷った末、日記帳をベッドに持ち込み、乱れた字で綴った。最後はよく覚えてないけど、満足感を覚えながら日記を閉じた。
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