22話 隣のクラスと合同体育

日曜日の夕方。

休日だが、他校との試合が近いバレー部は部活があった。

部員全員で練習に集中している中、顧問の怒る声が体育館に響く。

声の方を見ると、顧問に叱られたらしく足早に立ち去った部外者の生徒がいた。





「さっきいた奴って1組の上村だっけ?」


部活が終わった夕方、バレー部員の2年生が何人かで帰路につきながら恵斗について話していた。


「確か帰宅部だよな?何で日曜に学校にいんだよ」


「さあ……」


「誰かに会いに来たとか?れん、あいつ知ってる?」


突然話を振られた蓮と呼ばれた少年は、怪訝そうな表情を浮かべる。


「さあ……話した事もねえよ」


と、適当に答えた。






恵斗は体育館から走り帰った後、安曇たちが作ったお菓子を口にしたのまでは覚えている。

気が付いた時には既に朝…次の日の月曜日を迎えていた。

ベルナデットに会わないどころか、夢すら見なかった。


ガチじゃん!ガチで会えないじゃん!!


同じ中学の同級生である、恵斗以外にデザン大陸から召喚された人物を見つけないとベルナデットに会えないと言うのは本当らしい。

同級生、と言う以外の情報は今のところ「バレー部かバスケ部の部員」と言う点だけである。

残念ながらどちらの部にも友人はいない。


どうしたらいいのか。他にヒントも欲しいのに。


その事をもんもんと頭で考えていた結果、気が付いたら大分時間が経っていた。

恵斗はそそくさと支度をする。


とにかく、早く学校に行こう。


どたどたと階段を降りた時、安曇先生が話しかけてきた。


「おはよう恵斗。もう行くの?朝ごはんは?」


あっ……まだ食べてない。


恵斗はリビングに向かい、席に着く。

学校には早く行きたかったが、安曇先生がせっかく作ってくれた朝ご飯を放ってはおけない。

出来る限り時短で食べる。

恵斗は目の前のそれを、今までにないくらい猛スピードで食べ始めた。


「恵斗にいちゃんきたなーい!」


「お犬さんみたーい」


恵斗がご飯をかきこむ姿を見た他の子どもたちはゲラゲラ笑いながらからかって来た。


「ふるはい(うるさい)よ!ごちそうさま!」



恵斗は口をもごもごさせながら残りの朝ご飯をたいらげ、玄関を出た。

2人目について、出来る限り色々調べないと。

朝ごはんで力をチャージした恵斗は、学校まで走って行く事にした。




「おはよう恵斗。大丈夫か?」


先日悠吾と追いかけっ子をした時もそうだったが、帰宅部の恵斗に持久力なんて言うものはない。

当然息を切らし、学校に着いた途端に校門の横で座り込んでしまった。

校門に立っていた生徒指導の先生が、体調が悪いのかと思ったらしく声をかけてきてくれた。


「おはようございます先生……大丈夫です、走り過ぎました」


「急に走ったりするからだ。運動したいなら、部活に入ったらどうだ?」


「………」


息がまだ整わない恵斗は、返事が出来ず心の中でお断りしますとつぶやいた。





そう言えば髪の色について何も言われなかったな…と考えながら教室に向かっていた時に悠吾の声が聞こえて来た。


「恵斗!!おはよう!!」


「おはよう悠吾」


悠吾は挨拶をした後に「あれ?」と不思議そうに


「恵斗お前、髪戻したのか?」


と言って来た。


「え!?」


悠吾の言葉に驚いた恵斗は男子トイレに向かった。



「…何でだ…?」


恵斗の髪は、朝見た時は確かに碧髪だった。しかし今トイレの鏡に写っている髪は元々の真っ黒な色に戻っていたのだ。


「まあ染めた方が安牌だよな!」


うんうん、と目の前の悠吾が頷いている。


一体俺の身体に何が起こっているんだ…?


恵斗は腑に落ちないままだったが、悠吾と一緒に教室に戻る事にした。


「そんな事より聞いたか恵斗。今日の1、2時間目の体育。1組と2組で合同だぜ!!」


恵斗のクラスである1組と、悠吾のクラスの2組の合同授業。


それもなんだが、1時間目から体育か。


恵斗は盛大にため息をついた。

その様子を見た悠吾は、アメリカ人のように大袈裟に首を振りながら僕の肩に腕をかけてきた。


「まあまあ恵斗!お前が運動音痴なのはよくわかる!試合って訳じゃないんだし、ゲームだよゲーム!」


一言余計だ。


「で、授業の内容は?」


「バレーボール」


今日は本当に憂鬱な1日になりそうだ。


「まあ気楽に行こうぜ気楽に……」


そう言っていた悠吾のセリフが、2組の男子数人に遮られた。


「そうはいかねえよ!うちのクラスにはバレー部がいっぱいいんだぜ!」


「蓮もいるしな!勝利はもらったな!」


蓮?

2組の人だろうか。

覚えのない名前に恵斗は首を傾げた。


男子たちは言いたい事だけ言ったあと、ゲラゲラ笑いながら2組の教室に入っていった。


何なんだ一体。


「はああ……ちいせえなあ。もう少し楽しもうっていう考えはないのかねえ」


悠吾はクラスメイトの発言に呆れているようだ。


「悠吾」


「ん?」


「蓮って誰だ?」


恵斗はさっき会話に出てきた「蓮」と言う人物について聞いてみた。


「ああ……。本宮蓮。うちのクラスのバレー部。チビだけどすげーサーブを打つんだってさ」


ほら、あいつ。と悠吾が2組の方に顔を向ける。

悠吾が視線を向けた先、2組の教室の中に彼はいた。


黒い髪に、眼鏡をかけた小さい男子。

窓際の机に座って本を読んでいる。

バレー部にしては確かに小さい印象だ。


「本当に小さいな」


「本人の前では絶対に言うなよ」


悠吾はそれ以上は言わなかったが、恵斗はその一言で何となく全てを察した。


そもそも言うと、最初にチビだって言ったのは悠吾、お前だからな。


その時だ。

蓮がこっちを向いた。


なぜだかわからない。

ただ彼がこっちを見た途端、恵斗は目を逸らせなくなった。

なんと言えばいいのだろう。

彼から悪意は感じない。

ただ、目に吸い込まれる?と言うか、彼からは何か不思議な雰囲気を感じた。


しばらく目を合わせたあと、蓮が本を閉じた。

席を立って、そのままこっちに向かって来るのが見えて恵斗は息を飲んだ。


「おい悠吾、こっちに来るぞ」


恵斗は悠吾の制服を掴んだ。


「お前何かしたんじゃねえの?」


「この短時間でか?!」


知らない間に睨んでいたのだろうか。そんなつもりは一切ない。

そんな事を言っている最中にも彼はこっちに近づいてくる。


「おいそろそろHRを始めるぞ!みんな教室に戻れ!」


「やべっ!じゃあ恵斗、あとでな!」


シュンっと言う効果音が非常にピッタリな早さで、悠吾は教室に入っていった。

蓮を見ると、彼も席に戻る様子が見える。


恵斗は胸を撫で下ろした。

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