23話 2人目がいた!

HRも終わり、ついにその時間がやって来た。

教室で体操着に着替えながら恵斗はため息をついた。


「ついに儀式の時間がやってきた……」


そうポソリと呟いた僕の言葉が聞こえたのか、苦笑いでクラスメイトの男子が話しかけてきた。


「儀式ってそんな、大袈裟な…」


僕に話しかけてきたのは、同じクラスの紺野宗介こんのそうすけ

彼も帰宅部だ。


「運動が苦手なやつには儀式なんだよ……」


僕はため息をつきながら宗介に返した。


「まあそうだけどさ……」


同じタイミングで着替え終わった僕と宗介は、重い足をひきずるように体育館に向かった。 


この時間が何もなく、穏便に終わる事を願おう。





「はいはい!男子と女子に分かれて!」


体育教師がパンパンと手をたたきながら声を出す。

女の先生なのにめちゃくちゃ迫力がある。

怒られない事を願い、目立たないように過ごそうと恵斗は決意して静かに歩いていた。


「1組も2組の男子も集まったわね。バレー部員を中心にチーム決めをするわよ!まず1組からあいうえお順ね。はい、上村!」


恵斗はバレー部員ではないが、なぜか1番最初に名前が呼ばれてしまった。

おかげで目立ちまくりだ。


もう無事に終われば何でもいい。

座っていた恵斗は立ち上がった。


次々に名前が呼ばれて、生徒がどんどんコートに入ってくる。

遠くの方で、悠吾が手を振っているのが見えた。

どうやら悠吾は次の試合に出るらしい。


よかった。

授業とは言え、悠吾とは戦いたくない。


恵斗は悠吾に手を振り返した。


「みんな準備は出来たわね!最初の試合は2組のサーブからよ!」


先生はそう言って笛を構えた。

まあいいか。

適当にやろう、などと考えていた時。


『恵斗!!いたわ!!』


突然ベルナデットの声が頭の中で響いた。


「えっ…ベルナデット?」


いたって何だよ。


恵斗は思わず服に隠れているネックレスの先の小瓶を見た。

少しだけど、青白く光っている。

思わず辺りを見回した。


すると皆試合に集中する中、向かい側のコートから1人だけ恵斗をまっすぐ見ている人物がいる事に気がついた。

もちろん、バッチリ彼とは目が合った。

黒髪で背の小さい、バレーボールを手にした生徒。

朝見た時は眼鏡をかけていたが、今はコンタクトに変えのか何もかけていない。

だから、最初は気づかなかった。


「あいつ…!」


あれは今朝、悠吾が言っていた2組のバレー部員だ。


『うちにはバレー部がいっぱいいるし、蓮もいるからな!』


恵斗は朝の2組の男子生徒たちの言葉を思い出した。


名前は…確か本宮蓮。


恵斗はなぜか、彼からまた視線が離せない。

そして蓮も同じように、恵斗を見続けている。


『恵斗…あの子よ!』


「えっ……何が?」


ベルナデットさんのその後の言葉を聞いた恵斗は、声が出なくなった。


『あの子、欠片を持っているわ』


「………!」


恵斗は未だにまっすぐ蓮を見続けている。

蓮も同じく恵斗を見ていた。

身体が動かない。


その時、体育教師が試合開始の笛の音を鳴らしたのが聞こえた。


恵斗は正面を見た。

最初のサーブを打つのは、蓮だった。

助走を着けた蓮はその場でジャンプをする


蓮は多分、身長は160もない。

のにも関わらず、すごく高く飛んだように見えた。


蓮はそのまま右手でボールをこっち側に向けて打つ。

その時に、うっすらとそれが見えたのだ。


恵斗は目を見開く。


「……………!」


蓮も首飾りを着けている。

首飾りの先には恵斗と同じ小瓶がついていて、中で欠片が青白く光っていた。




見つけた。

隣のクラスの本宮蓮。


彼がもう1人の、デザン大陸からこの世界に飛ばされた人間だ。

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