15話 首飾り

羽白はため息をついた。


「…その後、気がついたらこの世界に来ていたんだ。剣を自分に向けられたショックか、あの光が原因なのか、恵斗は今でも記憶をなくしたままだ。髪も俺と同じ色だったんだけど、こっちに来た時はもう黒くなってた」


羽白は再び夜の空を見上げた。


「俺は、ずっと後悔してた…恵斗しか連れて来れなかった事を」


村の若者たちに捕まった恵斗の双子の妹の未斗は、一緒に連れて来る事が出来なかった。

やつらは村に連れて帰ると言っていた。

もし今も生きているなら、きっと村にいるはずだ。


「俺は…あの子を…未斗を助けないといけない。茅と彗さん、そして恵斗のためにも」


未斗だけではない。

颯の所在も確認したかった。

しかしどうやって元の世界に戻ればいいか、今はわからない。

何か方法はないかと夜な夜な公園で考えていたが、全く方法は思いつかなかった。


「羽白……」


安曇は、羽白の手に自分の手を重ねた。


「安曇、」

 

「ごめんなさい、私……、何て言ったらいいのか、」


何も言葉が浮かばない。

どんな思いでここまで来たのか。

雷が落ちたあの日、きっと羽白はその日の夢を見たのかも知れない。

だからあんなに錯乱していたのだろうか。

安曇は目に涙を浮かべた。


「安曇が謝る事じゃない…聞いてくれただけでも嬉しい」


ありがとう、と羽白は安曇の手を握り返した。


「こんな時間までごめん…、家に帰ろう」


「……うん、」


2人は立ち上がり、手を繋いだまま帰路についた。



施設に帰った後は、それぞれの部屋に戻った。

軽くシャワーを浴びた後に安曇は少し眠ろうと思い、布団に入ったが全く眠れなかった。

壁にかかった時計を見ると、まもなく深夜2時になろうとしている。


『羽白、』


きっと羽白も起きている。

そう思った安曇は大きい音を立てないように、静かに部屋を出て羽白の元に向かった。




「安曇…!どうしたんだ?」


安曇の言う通り、羽白は起きていた。

扉を開けた羽白は驚いたような顔をしている。


「急にごめんなさい…どうしても、さっきの話の事が気になって…」


「…、入って」


羽白は安曇を部屋に迎え入れた後、静かに部屋の扉を閉めた。




「俺も眠れなくて…空を見てたんだ」


羽白が顔を向けた先にある窓からは、外の夜空の様子がよく見えた。


「…安曇が初めて来てくれた夜も、これくらいの時間だったな」


「あ…」


安曇は羽白が夢にうなされて叫んでいた夜を思い出した。




『止めろ!俺に触るな!』


悪い夢を見て錯乱していた羽白を安曇が抱きしめ、そのまま羽白は一晩安曇の胸の中で泣き明かしたのだ。


『…茅…っ』




「……、今思い出しても恥ずかしい…いい大人があんな…」


羽白もその時の事を思い出したらしく、顔を赤くしている。


「…恥ずかしくなんかないわ。茅さんを想って流した涙だもの」


安曇はまっすぐ羽白を見て言った。

羽白も安曇を見返し、2人は見つめ合う。

羽白はゆっくりと安曇に近づき、体を引き寄せて優しく抱きしめた。

安曇はすっぽりと羽白の腕の中に収まっている。


「……、羽白、」


安曇が腕を羽白の背中に回そうとした時。

机の上に置いてある小さな箱が光っているように見えた。


「羽白、…何か光ってる、」


「……え?」


羽白も机の方を見る。

箱を開けると、中には小さい小瓶がついた首飾りが入っていた。

小瓶の中には水色のガラスの破片のようなものが入っている。

光はこの破片から放たれていた。


「……これは?」


「……この首飾りを恵斗が持っていたんだ…けど、何で光っているんだ…?」


羽白が首飾りを手に取ろうとした時。

突然首飾りから声が聞こえて来た。


『誰か…私の声が聞こえますか?』

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