14話 青い光

燃えさかる茅の家の裏に広がる森。

その中にある納屋に子どもが2人いた。

2人の子どもは身体をくっつけて座っている。

男の子と女の子だ。

女の子の方は、羽白を見て震えている。

知らない大人だからやはり怖いのだろう。


「だいじょうぶだよ未斗みと。俺がついてる」


女の子に、もう1人の子ども--恵斗が声をかけた。

恵斗の言葉を聞いたもう1人の子どもは、静かに頷いた。


恵斗は羽白を見て質問する。


「お兄さんも悪いひとなの?」


羽白は首を振りながら答えた。


「違うよ。君たちのお母さんに頼まれて、2人を助けに来たんだ」


お母さんと言う言葉を聞いた2人は表情が明るくなった。


「かかさまに?」


「ああ。君たち名前は?」


「俺は恵斗。こっちは妹の未斗。双子なんだ」


「恵斗と未斗…、そうか…」


茅譲りなのだろう。

2人とも深い青色の髪だった。


「ねえ、お兄さんはかかさまのともだち?」


恵斗が羽白に聞いたその時だった。


「本当にいるとは…羽白様!」


後ろの方から声がする。

しまった。

村の若者何人かがこちらに走って向かってくるのが見えた。

羽白は2人の前に立って庇う。


「何故このような真似をされたのです!」


「茅様同様、あの世に行っていただくしか他はありません!」


そう言った村の者は、腰元の刀に手をかけた。


「…いいか、2人に近づいたら許さない」


羽白は相手を睨み返す。

その様子を見た1人の男が羽白に向き合った。


「その傷で何が出来ると?」


男の言う通り、羽白は右腕と背中に矢で受けた傷を負っていた。とても太刀打ちなど出来ない。


「1人で足掻いたところで無駄です。長にはその子どもたちの事は既に伝えてあります」


1人の男が周りに首を振って合図を送る。

合図を送られた男は次の瞬間、羽白を殴り飛ばした。


「ぐっ!!」


突然殴られた羽白は、そのまま地面に倒れ込んでしまった。


「お兄さん!!!」


倒れたのを見た恵斗と未斗が叫ぶ。


「2人とも、早く納屋の中にっ、うっ!」


羽白が言い終わらない内に、男たちは羽白に更に暴行を加え始めた。


『くそ…っ』


どうする事も出来ずに羽白は目を瞑り耐えていた。


「うわあああん!恵斗ぉ!」


その時聞こえてきた泣き声に、羽白は顔を動かした。

見えたのは、2人が男達に捕まっている様子だった。


「はなせよ!!未斗!!」


恵斗が未斗に向かって手を伸ばしているのが見えた。


「やめろ!2人に手を出すな!」


羽白は叫んだ。


「羽白様を黙らせろ!」


「おい、子どもたちはどうする」


別の男が、羽白を殴るように指示をした男に聞いた。

1番偉いらしいその男は答えた。


「女の子は連れて帰る。男の子の方は殺せとの長からの命令だ」


「!」


その言葉を聞いた羽白は目を見開いた。


やはり血も涙もない。

茅の子どもなんだぞ…父上は何を考えているんだ!!

こんなに小さな子たちに何て事を…!


羽白は力を振り絞って男たちの暴行から抜け出し、恵斗を左腕に抱える。

羽白に抱えられた恵斗が叫んだ。


「お兄さん!?」


恵斗が羽白の腕の中で足をばたつかせている。

2人とも助けたかったが、右手が使いものにならない。


「羽白様…何のつもりですか?」


周りに指示を出していた男が静かに口を開いた。


「お前らの思い通りにはさせない!」


その言葉を聞いた男は、薄ら笑いを浮かべながらため息をついた。


「その身体で何か出来るとは思えませんが…まあいいでしょう。2人まとめてあの世に送って差し上げます」


男の言葉を理解したのか。

恵斗は羽白の横で顔をこわばらせている。

男は持っていた剣を2人に向ける。


「恵斗!!」


男の1人に抱えられた未斗が、目に涙を浮かべて恵斗に手を伸ばしながら叫んだ。


「未斗!!」


恵斗も手を伸ばしている。


まずい!このままではこの子も俺も殺される!


羽白は恵斗を抱えながら何歩か後ずさったが、後ろは岩壁しかなく、それ以上は進む事が出来なかった。


「ここでおしまいです、羽白様」


男は大きく剣を振りかぶる。


「うわ、うわあああああああ!!」


恵斗が羽白の腕の中で目を瞑って叫んだ。


このままだと剣で斬られてしまう。

俺はどうなってもいい…この子、恵斗だけは!


羽白が目を瞑り強くそう思った時、2人の身体を突然青い光が包んだ。


「な、なんだこの光は!」


羽白がうっすらと目を開けた先では、あまりの眩しさに男たちが目を瞑るか目元を押さえていた。

目の前にいる、先程剣を振り上げていた男もだ。

持っていた剣は地面に落ちていた。


「これは…、……!」


羽白はハッ、と恵斗を見下ろした。

恵斗は羽白の腕の中で目を瞑っている。

光はその恵斗、いや、恵斗が両手で握りしめている何かから放たれていた。


「恵斗…、?」


一体何を握りしめているんだ…?

羽白がそう考えていた次の瞬間、羽白と恵斗は光ごと跡形もなくその場から消え去ってしまった。


「何だ今のは……!消えたぞ!」


突然2人が消えてしまい、男たちは戸惑う。


「どう言う事だ……、探せ!2人を探すんだ!!必ず見つけ出せ!!」


未斗は、男の腕の中で未だに泣き続けていた。


「恵斗!恵斗……うわああああん!」

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