12話 姉の家

「茅さんは…どうなったの?助かったのよね…?」


羽白は安曇の言葉に対して、首を横に振る。


「……!そんな、」


安曇は声を失った。


「…父上の命令で動いていた村人たちが、兄上より先に茅の家を見つけてしまったんだ」


羽白は茅の家がどの辺りにあるか、颯から事前に聞いていた。

なので迷わずに向かえたのはいいが、到着した時に目に飛び込んで来たのは、湖のほとりで燃え盛る一軒の家屋だった。

この家屋が、颯から聞いた茅の家である。


「…!…茅、」


神は本当にいるのだろうか。

いるとしたら、なぜ。

なぜこんな事が許されるんだ?


羽白は目の前で轟々と燃え上がる茅の家を見つめている。

家の前には松明を持った村人が数名立っていた。


「そんな、茅様の家が…、」


羽白の後ろで共に動いていた若者の1人が呟いた。

茅は元々村人たちからは慕われていた。

今でも憎からず思っている村人が残っていたようだ。


「……、俺は中に入る。皆は安全な場所に、」


そこまで言った羽白の言葉は、森の奥から走って来た若者に遮られた。


「羽白様!颯様が…」


羽白の元に駆け寄った若者は口早に話し始めた。   


「兄上がどうした?」


「こちらに向かっている最中に共に行動していた者たちが仲間割れをしたそうで…かなり斬り合いになっているようです」


「何だと…、兄上に怪我は!?」


「この者の話では、矢傷を追われていると」


森の中を走って来たのだろう。颯の詳細を知らせるために怪我をした若者は息を切らして倒れ込んでいた。


「すぐに彼を手当てをしてやってくれ」


そう言った羽白は身一つで燃え盛る炎の中に飛び込んで行った。


「あっ、羽白様!!」


「若!!」


後ろから羽白を止める声がいくつか聞こえて来たが、止まる事はなかった。


『兄上…、茅…、どうか無事でいてくれ…!』




茅はただ、愛する人…彗と小さな子どもたちと静かにここで暮らしていただけだ。


人を愛すると言う事は、そんなに悪い事なのか?

村の掟が何だと言うんだ。

神が何もしないと言うなら、自分が茅たちを助けないとならない。

たとえ、この命に換えても。




家の中に入った羽白が見たものは、若者たち数人と揉み合いになる茅の恋人である彗。

そして奥の方で羽交い締めにされている茅の姿だった。


「茅!!彗さん!!」


羽白は無我夢中になり、茅のところへ向かう。

その様子を見て、自分を止めようとする者がいたら殴り飛ばした。


「羽白…!」


羽白が向かってくる姿をみた茅は、驚きの声を上げる。

もう少しだ、もう少しで助けられる。

そう思っていた羽白の背中と右手に衝撃が走った。

止めようとする村人を跳ね除けて茅の元へ向かう羽白を見た者が、羽白を後ろから矢で貫いたのだ。


「なっ…、」


「血迷われましたか羽白様…茅様まで!長の家系ともあろう方々がこのような…、断じて許せませぬ!」


「……っ、くそ…っ、」


背中と併せて右手を矢で射られた羽白は、苦しみの声を上げて床に崩れ落ちる。


「羽白!!羽白!!!」


気が遠くなる中、茅が自分を呼ぶ声が聞こえる。


「茅……っ」


羽白の視界は完全に暗くなり、何も聞こえなくなった。

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