第42話 口論
リンクが帰って来た。すぐにルイーゼに報告に行くために、リンクが服を着替え終わったときに、アンリが呼びに来た。
鏡で身だしなみをチェックしていたリンクは、鏡に映っているアンリに話しかけた。
「何をニヤついている? 何かいいことでもあったのか?」
「アルバート王のことは聞いている?」
「ああ、クラウスが股の間に剣を振り下ろしたら、漏らしちゃった件だろう? ベンツから聞いた。傑作だが、不十分だ」
「でしょう? だから、パパに本当に股を切って来てってお願いしたわ」
「お前、勝手なことを!」
リンクは振り返って、鏡ではない実物のアンリの方を見た。
「でも、そうでもしないと、姉さまはこれで手打ちにしちゃうわよ。アルバートは殺せるときに殺しておかないと」
「それはそうだが、ルイーゼさんにはどう説明する?」
「パパには私から頼まれたって言うようにお願いしたけど、あの様子ではそうは話さないわね。どうせパパだから、残念な言い訳をすると思うわ。でも、姉さまはきっとパパを許すわ」
リンクはじっとアンリを見ていたが、やれやれといった感じで息を吐いた。
「そうか。どうせもう止められないんだろう。アルバートを殺すことには俺も賛成だ。それについてはもう何も言うまい。ただ、クラウスにはあまり危ないことをさせたくない」
アンリはリンクを睨んだ。睨まれると魔法の整形の効果が薄まり、アンリはルイーゼそっくりになる。
「まさか、パパと姉さまをくっつけようとしてないわよね?」
ルイーゼに睨まれているような気分になり、リンクはタジタジとなった。
「そんな気はない。自然に任せる」
アンリは怒気を強めた。
「確かに姉さまはパパを愛したけど、パパは姉さまを守れなかったのよ。パパは姉さまを幸せに出来なかったの!」
アンリの勢いに押されながらも、リンクはどうしてもクラウスを弁護したくなった。クラウスの苦悩は相当だったはずなのだ。
「クラウスはルイーゼさんを連れ出そうとしたが、流産の危険があって断念したんだ。それに、物凄い警備だったんだぞ。二人はほとんど監禁状態だった。あの状況下ではどうにも出来まい」
アンリは一瞬怯んだが、どうしてもクラウスを許すことができなかった。
「そうかもしれないけど、一度でも姉さまを不幸にした男に、もう一度姉さまを任せられないわよ」
「お前、ルイーゼさんには大甘のくせに、クラウスには激辛だな」
リンクは呆れ顔だ。
「パパは思っていた以上に好青年だったけど、私はパパのことを恋しがってばかりいる姉さまの顔を見て育ったのよ。許せないわよ」
「クラウスには酷な話だ。俺はクラウスはいい奴だと思う。最後までルイーゼさんを守ろうとした」
「リンク、あなた、姉さまの気持ちを勝手に解釈して、姉さまの本心を踏み躙ったら、私が許さないわよっ」
「なんでそんな怖い顔をする。俺がルイーゼさんの気持ちを踏み躙る訳がないだろう」
アンリは本当に不思議だった。リンクはどうして姉さまの気持ちがわからないのだろうか。欠陥でもあるのかと思ってしまう。
「まあ、いいわ。これから分かるから」
「何を言っている。いかん、ルイーゼさんをお待たせしてしまっている。急ぐぞ」
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