第2話 長期休暇

 仁志はおもむろにロッキングチェアに座り込み、左側にある台の引き出しを開け、几帳面に敷き詰められたパーラメントを取り出しタバコを吸い始めた。大きく息を吸い込み、マッチでつけた独特の香りを楽しむかの様に目を閉じ、ゆっくりと煙を吐き出した。目の前にあるガラスが真っ白になり、新緑が蜃気楼に包まれる様に全てを吐き出した。

「そうだ。あれは三年前の事だったか?私は確かに暴いてはならない物を暴き、一つの家を崩壊へと導いてしまった。後悔は無い、しかしあの事件にはまだ一つ解けていない謎があった」

 仁志は過去を振り返り、ゆっくりと語り始めた。白い煙が徐々に薄くなり、目の前に緑が再び浮かんできた。


「何だ。ここは?だだっ広くて草が生い茂っていやがる」

 目の前の草を掻き分けて歩く仁志はこの家に招待された事を早速後悔していた。東京から車で二時間程走らせてやって来たのは松井財閥会長松井仁の娘である松井玲美の結納に呼ばれた為だった。そうは言っても松井家とは誰一人面識は無かった。事務所に届いた一通の手紙によって呼ばれてやって来た。

差出人は不明で、解いてほしい事件があると書かれており、正面からは入れてもらえないから、正午頃に裏口から入ってほしいと明らかに怪しく、謎めいた手紙だった。今、仁志が行っている行動はれっきとした不法侵入である。それでも事件と言われ、自身が謎めいていると感じてしまったら動かずにはいられなかった。手紙に記された裏口とはとても裏口とは言い難く、大邸宅の塀の裏側に壊れて崩れた場所があり、そこを身を縮こませて中に侵入した。つまり、仁志が通っている場所は普段人が歩く場所などでは無く草木が生い茂っているのも当たり前だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る