第3話 大森可南子
五分程進むとようやく光の当たる場所へと抜け出した紅が手を目の前にかざしながら徐々に明るさに慣れて来ると目の前には白を基調としたモダンな建物がそびえ立っていた。屋敷と言うと木造の古びれた印象を持つが、まるで別荘と言っても過言では無く、日の光を充分に室内に受けられる程の窓が幾つもあり、その存在は圧巻だった。
「紅様でございますね」
建物を見上げていた紅は、問いかけに対してハッと視線を戻すとそこにはメイド服を着た女性が立っていた。
「貴女が私をここに呼んだのですか?」
紅はジャケットの内ポケットから届いた手紙を取り出して女性に差し出すと、その女性は手紙を確認して首を傾げながら再度訪ねて来た。
「いえ、私の所にも手紙が届き、今日の正午ごろここで待つ様に書かれていたのですが?」
そう言いながら彼女は自分に宛てられた手紙を取り出して紅に手渡した。彼女の名前は大森可南子と言い、この松井家でハウスヘルパーとして働いている。小柄で先程も目線を元に戻すだけでは視線が合わず、紅の肩ぐらいの背丈だった。中でも特徴的だったのは、規律やルールに厳しそうに見えるぐらい髪をピッタリと右側から流して固めている。
「謎と言われましても答えかねますが、こちらへお越しください」
この答え方から紅は大森が何かを知っていると直感した。普通に考えれば門前払いされそうな状況にも関わらず、私が侵入した事に驚きもせず、冷静に私を庭へと案内した。
「一つ聞きたいのですが、貴女が受け取った手紙は
信用に足る物なのですか?」
「こちらをご覧ください」
大森は足を止めて振り返り、紅に渡した手紙を手に取り文末を指差した。
「松井の家では私への連絡事項の末尾に必ずmの文字を書き入れます。これはここに住むのは松井だけでは無いからです」
そこまで聞くと紅には幾つかの疑念が湧いた。
「では、この手紙は松井家のどなたかが書いた事で間違い無いのですね」
「それは分かりかねます。この事はこの家に住む全員が知っている事ですので」
大森は無機質に首を横に振った。しかし、それは紅に興味が無いからでは無く、彼女にも解き明かしたい何かがある故の真剣な眼差しなのだと紅は理解した。
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