第五十八話

[第五十八話]


 夜が明けて、四月十七日木曜日。


 登校の時間がやってきたので、さっさと授業の準備をして部屋を出る。


 いつもの歩調で軽やかに歩き、エレベータホールでエレベータを待っていると、後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。


「透、透!乗せてくれえ」


「昇。朝早いな」


「まあな!」


 ちょうどよくやってきたエレベータに乗り込み、昇と話し合う。


「そういえば彰と話したんだが、近々パーティで他の街に行かないか?俺は正直レベルが上がりすぎて、王都周辺じゃ物足りなくなってきてな」


「まじかよ!効率良い狩場でも見つけたか?俺なんてまだ30レベルなのに」


「結構高いじゃないか」


「そういう透はなんレベルなんだよ!?」


「キャラレベルが60で、職業レベルが57だ」


「おい、どの口が『結構高いじゃないか』とか言ってるんだ!」


 そう言いながら、昇がふざけて羽交い絞めにしてくる。


 俺はその腕を器用にさっと躱す。暑苦しいだろ。


「俺の場合は例外と思ってくれていいぞ。レベリングの美味いところを回してたし、ボスみたいなのも倒したからな。……着いたぞ」


「くそー!必ず見返してやるからな!」


「きっとすぐに追いつくさ、昇ならな」


「余裕ぶりやがって」


「皮肉じゃなくて本当に……!?」


 昇とやいのやいのやっていると、寮の建物の影で冴姫さんがペンを必死に走らせているのが見えた。


 これ以上、あの人にエサを与えてはならない。


 俺は、言い返そうとした口を閉じてそそくさと先を急ぐのだった。



 ※※※



 そんなこんなで午前中の授業も終わり、お昼休み。俺、昇、彰、静の四人は、食堂でテーブルを囲んで昼食を摂っていた。


「結局、昇は他の街に行くことに賛成なのか?」


 俺は朝に中断してしまった話を再開する。


「ああ!もちろん賛成だ!……透には色々聞きたいことがあるけどな」


「なんですの、聞きたいことって?」


 まずい、静が食いついてしまった。彰も興味ありといった顔をしている。


「こいつ、もうキャラレベルが60なんだぜ!早すぎるだろ!!」


「ええ!?」


「ええっ!ですわ」


 昇があっけなく言いふらすと、やはり二人が驚きの声を上げる。


「僕なんて必死こいて商売してまだ30レベルなのに、いったいどんな裏技を使ったんだい!?」


「そうですわ!私も従魔のボーナスもらって42レベルですわ。透のことだから、効率のいい狩場を独り占めしているに決まってますわ!」


 二人ともひどい言いようである。


 まあ、確かにその通りなんだが。


「じゃあ、俺からも言わせてもらうけどな、三人はソロで鉱山の魔物の群れと戦えるか?俺はあそこでレベリングしてた」


「……」


「……」


「……ですわ」


 正論パンチを食らって、三人が押し黙る。


「……透、あそこをソロで行けるのか?」


「……本当かい、透?」


「……あそこってパーティ前提でなくって、透?」


 急に静かな声になった三人が、口々に言う。


 確かに、鉱山のフィールドは大量に魔物が出る仕様上、パーティで攻略することが推奨されているが、そんな白けた目をしてのけぞらなくてもいいだろう。


「意外と慣れれば楽しいぞ、カナリアスケルトンの経験値も美味いしな」


 複数人で倒すことを前提としているため、あそこの魔物の経験値は美味しい。


 と、俺が訊かれたことに正直に答えると、三人は揃って……。


「「「…化け物」」ですわ」


 と言って引くのだった。



 ※※※



 なんだ、三人とも人を化け物呼ばわりして。


 放課後、俺は昼のことを思い出して少しすねていた。


 結局、パーティプレイは土曜の夜にやることになった。目的地は王都の南、『アラニア』という大きな街だ。


 今から楽しみだな。仲間がいる前提だと難しいが、もう少し戦闘の練習を積んでおいた方がいいかもしれない。


 そんなことを考えつつ下校の道を歩いていると、後ろからかけてくる声があった。


 今日はよく背後から話しかけられるな。


「透くん、だよね」


「要さん。奇遇だな」


 今日も相変わらず(かわいい)要さんが、俺の後ろにちょこんと立っていた。


「よかった。違う人だったら恥ずかしかった!」


 彼女はそう言って、にぱーと笑う。(かわいい)


「俺も、他の人に間違えられなくてよかったよ」


 俺は冗談めかして、軽めのフォローを入れておく。


 言ってはなんだが、要さんはちょっとだけおっちょこちょいな節がある。


「突然なんだけど、お昼に話していたのって透くんのお友達?盗み聞きしててごめんね」


 なんて勝手ながら思っていると、急に彼女が切り込んできた。


 昼の話でなにかあるのだろうか。


 まさか、昇がなにか粗相をしたか?静が変なことを言ったか?正直あの二人に関しては心当たりが多すぎる。


 とはいえ、まずは話を聞いてみようか。違っていたら恥ずかしいし。


「いや、全然いいよ。丸聞こえのところで話してたんだし。……そうだよ。三人とも俺の友達だけど、どうかした?」


「あのね、これも聞こえちゃったことなんだけど、透くんたちがアラニアに行くって知って。私も皆さんについていきたいな、って思って……」


 遠慮がちに口を突いて出てきた要さんの予想外の提案に、俺はちょっとびっくりしたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る