第五十七話
[第五十七話]
ヤドカリとイモガイはあらかた倒したので、次は潮干狩りと行こう。
忘れずに持ってきたスコップで、砂を掘る。
砂を掘る。砂を掘る。掘る。掘る。
無心で砂を掘ること、十分間。大量の砂とともに、ココデアサリ×112、ココデハマグリ×49を手に入れた。
それじゃあ、次に森林伐採と行きますか。
ハチェットに持ち替え、近くの松林に向かう。
かこーん、かこーん、かこーん。木をこる音がどこか心地良い。
ここら辺は前回と変わらないので、ばっさりカット。
※※※
大量の素材とともに、王都に帰ってきた。時刻は十九時。
東門に向かうと、ミューンさんが変わらず立っていた。
げっ、てっきり夜になったから交代したと思ったのに。
「トール!私の目はごまかせないよ!あんた………」
『キャンユーフライ』の件、『メカトニカ』とゴーストの件、そしてフォクシーヌの件。悪いことの心当たりが多すぎる。
どうか、どうかお許しください。
「……以前よりもだいぶ強くなったね!もしかして、奥義でも覚えた!?」
がくっ。
俺は大げさに転んでみせる。
びっくりしたな。なにかしらの悪事がばれてたんじゃなかったのか。
「覚えてません。レベルが上がったんです。だいぶ強い狩場で鍛えてきたので」
「なーんだ、そうだったんかい!お姉さんに強い奥義を隠しているのかと思ったよ!」
お姉さんって歳か?って思ったが、瞬時に殺気が飛んできたので考えるのをやめる。
「変なこと考えてないかい」
さらに、ミューンさんの冷えた声が飛んできた。
か、考えてませんよ。
「い、いえなにも。急いでいるのでこれで失礼します!」
俺は適当なことを言って、そそくさとその場を後にしたのだった。
この人相手には逃げてばっかりだな。
※※※
工房に戻って、素材を全てアイテムボックスに入れる。
これで、アイテムの安全は保証されたな。
「もう戻ってきたのか。なにかいい本はあったのか」
「こんな短時間で見つかるわけないだろ。もう少し待っててくれ」
”知識の悪魔”があからさまに冷やかしてきたので、適当にあしらっておく。
「さて」
一仕事終えた俺は、すっきりした気持ちで工房の中を見回す。
いい感じに日も暮れてきたし、一度ログアウトして晩ご飯にするか。
俺はそう決意すると、本を読み続けている悪魔を置いてさっさとログアウトするのだった。
※※※
今日の晩ご飯はきんぴら大根だ。
細く切った大根と人参、油揚げを醤油、砂糖、塩で味つけしたたれに和えて、水分が飛ぶまで弱火で煮る。
大根が茶色に染まるくらいに火が通ったら、出来上がり。
火を止めて、ごはん、お味噌汁をよそう。冷たい牛乳を注いでから、大量のきんぴら大根を深めの皿に盛り付ける。
きちんと手を洗い直してから両手を合わせて……。
いただきます。
※※※
やはりご飯は美味しいと思いつつ、時刻は二十一時。
ちょっと眠くなってきたし、調薬を一時間ぐらいやって寝ようかな。
そう決めた俺は、アイテムボックスから素材アイテムと試験管を取り出す。
試験管は、見事1000本もの体力回復薬を販売した記念にと、闇のガラス工房(商会の許可なしにガラス細工をして利益を得ている団体)から100本贈呈されたらしい。
だから、俺が現在使える本数は元々持っているのも合わせて120本だ。早速調薬を始めるとしよう。
まずは、ネムレ草を使った睡眠薬の調合だな。体力回復薬を作ったときと同じように作ってみる。
〇アイテム:睡眠薬 効果:睡眠:微
眠気を誘う薬。効果が薄く、ちょっと眠いくらいの効き目。酸っぱい。
微妙なものが出来上がってしまった。また製法が違うのか。
じゃあ、今度は思い切って常温の水で抽出をしてみる。
〇アイテム:睡眠薬 効果:睡眠:微
眠気を誘う薬。効果が薄く、ちょっと眠いくらいの効き目。酸っぱい。
なにも変わらなかった。ネムレ草の場合、抽出する水の温度は関係ない?
うーん。そしたら、すりつぶさずに抽出してみるとか?
〇アイテム:睡眠薬 効果:睡眠:微
眠気を誘う薬。効果が薄く、ちょっと眠いくらいの効き目。酸っぱい。
ダメだ。全く効き目がよくならない。
こんな感じで四苦八苦していると、意外なところから助け舟が来た。
「ネムレ草だけだとせいぜいその程度にしかならんぞ。ましてや、本職でもないトールの腕ならなおさらだ」
おい、今なんつった。
「一言多いのは結構だが、ネタ晴らしするのはやめろ。楽しみが減るだろ」
「ふん、下らんプライドがあるんだな」
「そうだ」
ネタバレを食らってしまったので、睡眠薬の調薬はやめだ。記憶が消えた頃合いにもう一回チャレンジしたい。
飲んで空けようにも眠くなってしまうので、三十本分は脇に置いておく。
それじゃあ次は、ココデアサリを使った睡眠回復薬の調合だ。
葉っぱと違って生き物だから、少しやり方を考えないとな。
あ、砂抜きのための海水がなかった。
『アクア・クリエイト』では純水が作れるだけで、砂抜きに必要な海水は持ってこれない。
「哀れだな、トールよ」
「……」
”知識の悪魔”に言われてカチンときた俺は、無言でログアウトしてふて寝するのだった。
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