第五十六話

[第五十六話]


 商談も無事終わり、時刻は十八時。俺はフクキチと雑談していた。


「次のパーティプレイで他の街に行きたいと思うんだが、フクキチは王都以外の街に行ったことはあるか?」


「まだないね。だけど、行ってみたいと思ってるよ。販路を拡大させたいしね」


 良かった。彼は乗り気のようだ。


 単に品物を安く買って高く売るという商取引だけでなく、行商もやりたいということだろうか。


「じゃあ、いつにするかは明日話し合うということで」


「そうだね、今日はありがとう」


 俺とフクキチはもう一度握手をして、揃って工房を出るのであった。


 はあ、借金どうしよ。



 ※※※



 さて、教えてもらった魔法を試す前に、もう少し調薬用の素材を集めたいな。


 現在、工房に預けているアイテムは、


 ナオレ草×231、アヤカシ葦×196、イッタンモメン×165、ネムレ草×132、ヨクナレ草×4、ココデアサリ×32、ココデハマグリ×12、ココデマツ×50だ。


 前回の採取から、ポーション用に百本のヨクナレ草とココデ海岸の砂を引いた形だな。


 特に確認は取っていないが、フクキチがマツをもっと欲しがるだろうから、アサリとハマグリと合わせてもっと取りに行こう。


 そう決めた俺は東の大通りに出て、東門を目指す。


 商談で得た十万タメルも工房のアイテムボックスに預けられたから、気軽に死に戻れる。もっとも、ただで死ぬつもりはないが。


 東門に着くと、やっぱり騎士団長のミューンさんがいた。


「よっ、久しぶりだね!なんか雰囲気変わったかい!?」


 直感的に[フォクシーヌの加護]がなくなったことを気づいているのか、それとも”知識の悪魔”との契約のことか。


 どちらにせよ、白を切った方がよさそうだ。


「そうですか?特に髪型とか服装とかは変えていないんですけど」


「いや、そういう外見的なものじゃなくて、内面的ななにかが……」


「チェックありがとうございました。急いでいるのでこれで失礼します!」


 なにか嫌な予感がする。もしかして全部ばれているのか?


 とりあえず、急いでここを後にしよう。


 半ば強引に話を締めた俺は、ココデ海岸を目指すのであった。


「私の目はごまかせないよ、……トール」



 ※※※



 ガルアリンデ平原は全速力で走って突っ切り、道中の魔物を無視してココデ海岸に到着した。


 前回来たときに、戦わずしてここを攻略する方法は分かっている。


 なので、今回は魔物と戦ってみたいと思う。


「しゃあああああっ!」


「出たな」


 いざ砂浜に足を踏み入れると、近くにいたヤシヤドカリが両の鋏を持ち上げ威嚇する。


 俺は応戦すべく、杖を構える。


「来い」


 以前と違い、姿を捉えきっているにもかからわず、ヤドカリの動きは俊敏だった。


 六本の足を器用に動かし、一瞬で距離を詰めてくる。


「なかなか速いな。……だが、『アクア・ボール』」


 生み出した水球を、ヤドカリの顔面に叩き込む。


「しゃあああぁぁぁ」


 なんと、それだけでヤドカリを倒してしまった。


 しまった。レベルが上がりすぎたか。威力の低い水魔法でも十分に削りきれてしまう火力が出てしまっている。


 レベルが離れすぎているため、おそらく経験値が入っていないだろう。だが、素材が欲しいため付近のヤドカリを倒していく。


〇アイテム:ヤドカリヤシの木材 

 ココデ海岸に生息するヤシヤドカリの背中に生えているヤシの木材。柔軟性と硬さを兼ね備えている優れた一品。


〇アイテム:ヤドカリヤシの実

 ココデ海岸に生息するヤシヤドカリの背中に生えているヤシの実。中を割るとココデナッツミルクとココデナッツジュースが得られる。


〇アイテム:ヤドカリヤシの葉

 ココデ海岸に生息するヤシヤドカリの背中に生えているヤシの葉。少し厚く、独特のいいにおいがする。


〇アイテム:ヤシヤドカリの殻

 ココデ海岸に生息するヤシヤドカリの殻。硬く頑丈。


〇アイテム:ヤシヤドカリの脚 効果:疲労回復:微

 ココデ海岸に生息するヤシヤドカリの脚。そんなにおいしくない。


〇アイテム:ヤシヤドカリの鋏

 ココデ海岸に生息するヤシヤドカリの鋏。鋭さと硬さが両立した美しいフォルム。


 ヤシヤドカリという魔物一種類を倒すだけで、六種類もの素材が手に入った。しかも、脚は効果がついているため調薬に使えそうだ。


 だが、ココデ海岸に生息する魔物はヤドカリだけではない。


シュッッッ!!


 この前戦ったフォクシーヌの尾の一撃かと見まごうほどの速さで、天然の銛が迫る。


「『アクア・ウォール』!」


 とっさに水の防壁を張り、速度を低減させている間に余裕をもって避ける。


 この銛を発射した魔物こそが、ココデイモガイだ。


 現実に生息するイモガイは、付属する歯舌と呼ばれる器官を銛のように発射することで、獲物に突き刺し、そこから毒を注入して殺すという生態を持っている。


 [AnotherWorld]も現実を参考にしているから、きっとこの銛も当たっちゃだめだ。


「『アクア・アロー』」


 硬い巻貝部分をアローで攻撃してみたが、やはり一撃で粉々になってしまった。


 もはや、ここで戦闘に困ることはないな。ココデだけに。


〇アイテム:ココデイモガイの割れた殻

 ココデ海岸に生息するココデイモガイの割れた殻。割れているため、持ち味の硬さと美しさが損なわれている。


〇アイテム:ココデイモガイの歯舌

 ココデ海岸に生息するココデイモガイの銛のような歯舌。鋭く、一度刺さったら抜けないような返しがついている。毒液を注入する小さな穴が中央に空いている。


〇アイテム:ココデイモガイの毒液 効果:神経毒:大

 ココデ海岸に生息するココデイモガイの毒液。取り扱いに注意。少しでも触れると文字通り心臓が止まる。


 これだよ、これ!


 ココデイモガイの毒液!調薬に使えそうな便利な素材!


 状態異常『神経毒』は、神経に作用して体を麻痺させる毒のことだ。結果として起こることは似ているが、状態異常『麻痺』とは区別されている。


 あと、気になるのはココデイモガイの『割れた』殻だな。


 もしや、倒し方によっても得られるアイテムに差が出るのか?


 そう思った俺は、もう一度イモガイを倒してみる。今度は殻を傷つけないように、顔面らしき柔らかい部分を狙ってアローで倒した。


〇アイテム:ココデイモガイの殻

 ココデ海岸に生息するココデイモガイの殻。十分に硬く、美しい幾何学模様が波打っている。全ての物理属性に対して強い。


 なるほど、やっぱりそうだな。この分じゃ、ヤドカリもそうだな。


 高く売れそうだし、なるべく頭部を狙って倒すか。


 そう納得した俺は、どんどんヤドカリとイモガイを倒して素材を集めていくのだった。

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