第五十三話
[第五十三話]
『[フォクシーヌの加護]が消滅しました』
「はあ、はあ、はあ…」
やっと、彼女を、フォクシーヌを倒したぞ。
俺はその場にどっかと座り込む。
ステータスを確認すると、キャラクターレベル、職業レベルがともに10上がって60、57となっていた。体力、魔力は247、306だ。
「しかし…、[AnotherWorld]を始めて二週間も経っていないのに、もうこんなにレベルが上がるものなのか」
俺はメニュー画面をぼんやりと見ながら、独り言ちる。
まあ、仕方がないかな。強敵と何回戦わされたんだか。
体力、魔力はレベルアップで回復したが、まだ心臓がバクバクする。精神が回復するまで、しばらく考え込むとしよう。
※※※
さて、これからどうしようか。
”知識の悪魔”から魔法を教えてもらうのは確定だ。それと、食物連鎖の頂点がいなくなって変わってしまうであろうアヤカシ湿原を平定するのも、彼女を倒してしまった俺の役目だ。
あと、いい加減他の町に行くのもいいだろう。王都しか街がないみたいな感じで今まで遊んできたが、実は他にもある。そうした街に行って新しい人たちやフィールドに出会うのもいいだろう。
それと、お金稼ぎだな。調薬の腕も上がったし、フクキチに頼んでガッポガッポだ。あんだけ苦労させられたのに、なんだかんだで未だに0タメルだからな。
そういえば、徹夜で作らされたポーション1000本は結局売れたのだろうか。分け前をくれるのはいつになるだろうか。
さらに思いつくこととしては、ライズ、フクキチ、ローズとのパーティプレイだな。
三人は他の街に訪れたことがあるだろうか。もしなかったら、一緒に目指してみるのも面白そうだ。
ああ、そうだ。そういえば、五月に桜杏高校サーバー限定のイベントがあるといっていたな。まだもう少し先だが、そちらも楽しみだ。
「ふう」
今後のやること、イベントに関してはこんな感じか。
俺は心の中でメモを刻み込みつつ、立ち上がって尻についた汚れを払うのだった。
※※※
「やったな、トール。ここからでもやつが死んだのが気配でわかったぞ」
「そういうの分かるのか、お前ら魔物は」
「どいつもこいつもできることじゃない。長年生きてきた私だからこそできるのだ」
相変わらず傲慢な話し方だなと思いつつ、”知識の悪魔”と会話する。
俺は王都の工房へと戻ってきていた。時刻は二十二時半。
そろそろ寝ようかな。
「今日のところは失礼させて頂くよ。魔法の件については明日、ちゃんと聞くから逃げるなよ」
「逃げるわけなかろう。逃げ先がないのだからな。……癪に障るが、待っておいてやる」
少しはかわいい口を利けないのか、この一つ目触手は。
「はあ…」
俺はため息を吐きつつ、[AnotherWorld]をログアウトした。
※※※
日付は翌日へと移り、四月十六日水曜日。今日は通常授業と読書部の活動がある。がんばっていこう。
といっても、いつも通り登校して朝のホームルームを受け、授業を受けるだけだ。
流石にそろそろ難しくなってきた授業をしっかり四時間分頭に流し込み、ようやっと昼休みになった。
「みなさん、お疲れ様ですわ」
「お疲れ……。しかし、結構課題出ちゃったなあ、物理の授業」
「まあ仕方ないよ。普通の授業も大事だからね」
「数学も出てたな。まあ、最初らへんの範囲だし余裕だろ」
俺たちはのほほんと会話をする。
すると…。
「ところでさ、透。工房にいたあの化け物が”知識の悪魔”かい?なぜか勘違いされて殺されたんだけど」
なぜかちょっと追及するような面持ちで、ひそひそ声の彰が訊いてくる。
あー、説明するのが大変だな。
「鉢合わせしちゃったか。あいつ、『知識』の悪魔とか名乗っておきながら、人の話全然聞かないからな」
フクキチが”知識の悪魔”と出会ってしまったのなら、彰にどう言いつくろっても無駄だ。そう言う魔物と知り合ったことを素直に話そう。
俺と彰は二人で肩を寄せ合い、内緒話をしていると…。
「なにこそこそ話してるんだ?知識がどうとか」
唐突に昇が割って入ってきた。
耳ざといな。今まで静と話していたはずだが。
「どういうことですの、透、彰?”知識の悪魔”について、私たちに話していないことがあるんですの!?」
おっと、さらに地獄耳の静にまで聞かれたか。もう諦めた方がいい。
仕方がないので俺と彰は観念して、工房と知識の悪魔の存在のことを二人に話す。
「どんな生産活動でもできる工房!?すごいですわ!」
「あんまり大声で言わないでくれよ、レアな物件だったんだからさ」
「そんなに珍しいのか、その工房って?」
「うん。普通は工房と言ったら鍛冶しかできないとか、服飾しかできないとか、そういった機能が制限されているものなんだ。色々できちゃうと、売り物の物件としての流動性が落ちちゃうから。でも、うちが持ってる工房は全ての生産活動ができる。その分、値段は張ったんだけどね」
「どのくらいしたんだ?」
「それはね……、ごにょごにょ」
商売事情にすっかり興味津々な俺たち三人に向かって、彰が詰め寄って声を潜める。
「ご、ごひゃくまんタメル!?…ですわ!?」
が、無駄な行為だった。
食堂に大きな静の声が響く。
俺も声にこそ出さなかったが、目を剥いて心の中で「五百万タメル!?」と叫ぶのだった。
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