第三十二話
[第三十二話]
読書部の活動も終わり、帰宅して時刻は十七時半。
中途半端な時間だな。あと少しでお腹の空く時間帯だし、[AnotherWorld]を遊びたい気持ちもある。
よし。ちょっと早いけど、晩ご飯にしよう。
俺は夕食の準備に取りかかる。
今日の晩ご飯は鶏のから揚げ。たまにはこってりしたのもいいだろう。
シャキシャキのキャベツを刻んで、ミニトマトとともに唐揚げのお皿に乗せる。
出来合いの総菜だが、美味しいのでオーケーだ。揚げ物を自分で作るとなると手間だからな、と言い訳しておく。
それじゃあ、あっつあつのご飯とみそ汁と一緒に、いただきます。
※※※
ごちそうさまでした。
ゆっくりと夕飯を完食し、洗い物は後にするとして、時刻は十八時半。
そろそろログインしますか、[AnotherWorld]に。
寝室に戻ってきた俺はチェリーギアをセットし、ゲームのアイコンをクリックする。
ログイン完了。
トールは前回死に戻りしたときに湧いた地点である、王都の中央広場にポップする。
今日は、余った素材で調薬をしよう。
皆で鉱山に狩りをしに行くことになっている明日、大量に使うだろうからな。
ナオレ草×60、ネムレ草×12、ヨクナレ草×27。それと、自分の血。
これらの素材を使って、検証も兼ねて調薬だ。
幸い、広場に面した位置にあるホテルハミングバードはすぐそこ。
手早くチェックインを済ませ、一階の部屋にこもる。
ちなみに所持金は500タメル減って、11713タメルになった。
「よし、やるぞ」
腕まくりをした俺は『野外調薬キッド』をインベントリから取り出し、さっそく作業を開始する。
まずは以前のやり方に倣って、体力回復ポーションを補充しておくか。
草の消費期限とかないよな、と思いつつ、ナオレ草を一枚使って十本分作ってみる。
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:小
体力を回復するポーション。普通のポーションよりも甘い。
効果はまるっきり以前と同じものだな。
アイテムの劣化もなさそうだし、再現性が確認できてよかった。
次に、残りの十本の試験管に、ヨクナレ草を使った上位の体力回復ポーションを作ってみよう。
最初はナオレ草と同じ作り方で。
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:小
体力を回復するポーション。苦い。
ありゃ、ナオレ草を原料としたものよりも劣るものができてしまった。どうしてだろう。
まさか、ヨクナレ草とナオレ草で加工の方法が違うのか?
そう思った俺は、手順を一つ一つ変えてやってみる。
手始めに、成分が濃すぎたのかと思い、水の量を倍にして試作した。
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:小
体力を回復するポーション。苦い。
あれ、効果が変わらないな。
水の量は関係ないのだろうか。
それじゃあ、今度は草をそのまま入れて作ってみる。
結果は…?
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:微
体力を回復するポーション。苦い。
うーん、効果が弱まってしまった。
やっぱり、なにもしないよりかはすり潰した方がいいんだな。
そうしたら次は、他の高低は変えずに擂り鉢と擂り粉木で細かくすり潰してみる。
ペースト状になったせいで茶こしで葉を取り除くのが難しくなってしまったが、なんとかできた。
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:中
体力を回復するポーション。苦みが強い。
やった、回復効果の高いポーションを作れたぞ。
でも、『苦い』から『苦味が強い』へ苦みが強くなってしまった。
自分で飲む分には味は感じないのでこれでいいのだが、販売する際には甘い方が高く売れる。
よって、全部飲み干して作り直しだ。
試験管の空きがないからな。
そろそろ試験管の本数を増やしてもいいかもしれない。インベントリには余裕があるし、薬を売るなら数がいる。
まあ、それはさておき…。
細かくすり潰すことで薬効成分が抽出されやすくなったということは、粗くすり潰したとしても、蒸らす時間を増やせば同じことじゃないか?
そういった考えで作られたのが、こちら。
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:小
体力を回復するポーション。苦みが強い。
ダメだ。やっぱり細かくすり潰さないといけないらしい。
体力回復の効果を増やすためにはすり潰す工程が必要だが、それをするとでき上がったポーションが苦くなってしまう。
一体、どうすれば苦み成分を除けるのだろうか。
そうだ。
ここで俺は、あることを思いついた。
別に、一回の煮沸でポーションを作ろうとしなくてもいいじゃない。
一回目の抽出で苦み成分を出し切ってから、お湯を取り替えてもう一度抽出すればよいのでは?
これだ!
でき上がったものを見て、俺はようやく一息つくことができた。
以下にその手順を記しておく。
まず、鍋に『アクア・クリエイト』。液面は全量の四分の一くらい。
次に、あまり高すぎない温度をかけて、水を温める。その間に、ヨクナレ草を細かくすり潰す。
いい感じの温度になったら、ヨクナレ草を全量投入する。
加熱を止めて、蒸らす。
充分に冷えたら、茶こしを通してフラスコに抽出液を注ぎ入れる。
そして、フラスコに入ったのは予想通り…。
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:中
体力を回復するポーション。苦みが強い。
という効果のポーションだった。
次に苦味を取り除くため、空になった鍋を洗った後、二回目の抽出を行う。
全量の四分の一ほどの水を先ほどと同じように加熱した後、草の残骸が入った茶こしを浸す。
その後、加熱を止めるのではなく、加熱の温度を下げながらじっくり蒸らす。
新しい試みだが、二回目の抽出で薬効成分が少ないので、やった方がいいだろう。
最終的には火を止め、室温まで冷えたら、漏斗で試験管一本一本に薬液を注ぎ入れる。
こうしてでき上がったポーションが、次のものだ。
〇アイテム:体力回復ポーション 効果:体力回復:中
体力を回復するポーション。ほんのり甘い。
『苦みが強い』から、『ほんのり甘い』になった!
調薬の業界(?)において、これは大きな進歩である。
少し手間がかかるが、十分な効果と販売価値のあるポーションを作ることができるぞ。
このままネムレ草を使った睡眠薬を作りたいところだが、時刻は十九時半を経過していた。
試験管の空きがないし、もう一つやりたいことがある。調薬はここまでにしよう。
俺は『野外調薬キッド』をしまい、液体でびちゃびちゃに汚れたホテルの部屋を後にするのだった。
頻繁に室内を汚して、本当にごめんなさい。
(アイテムの量はナオレ草×59、ヨクナレ草×21に減って、他は変わらない)
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