第二十三話

[第二十三話]


 翌日、四月七日日曜日。朝の八時。


 少し早めにログインした俺は、レベリングのためにアヤカシ湿原に来ていた。


 ここもガルアリンデ平原と同じく、昼夜で出現する魔物の種類が変わる。


 俺が認識している限りでは、朝、昼の時間はこちらの四種類の魔物が出現する。


 まずはチョウチンガエル。


 前回説明した通りの生態を持つ、軽自動車くらいの大きさまで肥大化したカエルの魔物だ。


 肉食で、意外と攻撃的。プレイヤーにもかまわず舌を伸ばしてくる大食漢だ。


 次にロクロッキリン。


 長い首と四本の脚がグニャグニャと曲がるキリンの魔物だ。大きさは普通のキリンより一回り大きいくらいで、変幻自在でトリッキーな脚、首の振り回し攻撃をしてくる。主な主食はアヤカシ葦。


 なんでさほど暑くもないところにキリンが生息しているのかについては、深く考えないでおく。 


 続いて、フライドラゴン。


 トンボとワイバーンをかけ合わせたかのような見た目をした小型の竜の魔物の成体だ。流石に火の玉などは吐かないが、複眼でこちらの位置を捉えて猛スピードで突進してくる。


 肉食で、チョウチンガエルが大好物。ロクロッキリンは肉が美味しくないのか、あまり襲わないらしい。


 中々に強いらしいが、昼間にしか出現せず、個体数も後述の理由により少ない。


 今度は妖怪要素がないのでは、と思ったが、トンボは湿地に住む生き物としてはぴったりなので、こちらもスルーしておく。


 最後に、フライドラゴンのヤゴだ。フライドラゴンの幼体バージョンだな。


 こちらは水生で、主に水の中にいる虫を食べる。見た目に竜の要素がほとんどなく、一般的なヤゴの少し大きなバージョンと思ってくれればいい。


 死骸は調薬にも使われるが、倒しても横からチョウチンガエルに食べられてしまうため、五体満足で手に入れるのは難しいとか。


 とまあ、アヤカシ湿原に生息する魔物はこんな感じだな。


 ついでに湿原の生態系をまとめてみると、以下のようになる。


 肉食のフライドラゴンが一番上のティア。


 次にチョウチンガエル。


 そして、一番下がヤゴ。


 食物連鎖の範囲外にロクロッキリン。


 強さ的にはフライドラゴンが他の魔物を圧倒するが、その幼体であるヤゴは大多数がカエルに食べられてしまうので、どの魔物も絶妙な個体数が維持されているというわけだ。


 だが俺はここで、悪いことを思いついた。


 プレイヤーが魔物を倒して得られる経験値は、強い魔物であればあるほど高い。


 なのでレベリングをするなら、生態系の上位の魔物を狩る方が断然効率が良いはずだ。


 なら、チョウチンガエルを絶滅に追い込むくらいに狩りつくせば、彼らが捕食しまくっているヤゴが大量発生して、フライドラゴンの数が増加するのでは。


 チョウチンガエルをたくさん倒せば俺のレベルも相当上がるだろうから、前みたいなスタンピードが起こる前にフライドラゴンの排除も可能なはず。 


 ごめんなさい、師匠。


 ですが、今回は『水魔法を使って』の悪事ではありません。


 どうかご容赦を。



 ※※※



 そうと決まれば、早速カエル狩りだ。


 俺はのんきに湿原を歩きつつ、あちこちの小さな池に『アクア・ボール』を放り込み、びっくりして水面に出てきたカエルを狩っていく。


「『アクア・ソード』!」


「ゲコォッ!?」


 俺に向かってまっすぐ飛び出してきた舌を、杖に纏わせた水の刃でちょん切る。


「『アクア・ボール』!」


「ゲコゲコォッ!!」


 続けて、舌を痛めて開けっ放しになったカエルの口に水球を叩き込む。


「ゲコォォ……」


 どうやら口周りが弱点のようで、さほど相性がよくないであろう水属性魔法でも二撃で倒すことができた。


 初見は苦労したが、冷静に立ち回れば難しい相手ではない。


 あとはこれを繰り返すだけだな。


 索敵のボール。痛恨のソード。トドメのボール。


 流れ作業のようにこれらの魔法を唱えながら、チョウチンガエルの駆除とレベリングを進めていった。


 十体ほど倒すと魔力もそこそこ減ってきたので、あれを使ってみる。


〇アイテム:魔力回復ポーション 効果:魔力回復:小

 魔力を回復するポーション。ほのかに苦く、渋い。飲みすぎに注意。


 覚えているだろうか。初めてログインしたときにインベントリに入っていた魔力回復ポーションだ。


 俺自身も、ずっと放置していたので半ば忘れていた。


 戦闘が終わった後インベントリから実体化し、経口摂取する。ゲームなので味は感じない。


 薬品系の消費アイテムは、接種の仕方により効能が変化する。塗り薬の場合は患部に塗るだとか、シリンジに入った注射薬なら皮膚に突き刺して注入するなどだ。


 液体のポーションの場合は、口から飲むことも患部に振りかけることもできる。薬の種類やプレイヤーの状態にもよるが、効能は一緒らしい。


 一段落したところでステータスを見ると、魔力が107/107と全回復していた。


 しまった。大体60くらい回復したが、魔力が上限値に到達したため、ポーション一個でどれくらいの数値が回復するのか分からない。


 もっと魔力を減らしてから使えばよかった。説明欄に書いてないから把握しておきたかったんだが。


 若干の後悔をし、俺はカエル狩りを再開するのだった。



 ※※※



☆サイド:シズク


「…なにか、嫌な予感がする」


 王都の北部、ランディール荒野のさらに北にあるフィールド、ランディール鉱山。


 そこの採掘用通路でアイアンゴーレム狩りに精を出していた私は、なぜか急に、虫の知らせのような身震いを感じたのだった。


 思い当たる節は、残念だけどいくつかあるのが困ったところ。



 ※※※



☆サイド:トール


 ふー、大体こんなもんか。


 この機会にちょうどいいということで、初期配布の魔力回復ポーションを十本使い切った。


 倒したチョウチンガエルは百匹ほどだろうか。


 レベルは10上がり、14になった。いつの間にか体力は120、魔力は128に上がっていた。


 帰ろう。もうすぐお昼の時間だ。


 今日もバイトがあるからな。早めにご飯を食べて準備を整えるとしよう。


 帰り際に通った池の一つ一つに、ドロップアイテムであるチョウチンガエルの脚を次々と投げ込みながら、俺はそんなことを思うのだった。


 いっぱい食べて大きくなれよ、ヤゴ。

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