第6話 十五夜ハロウィンパーティ 1
サカキの予言した襲撃は満月の頃。あの後調べたら満月は5日後だった。ちなみに中秋の名月は先月だし、ハロウィンは今月末だがその辺はゲームイベントだから良しとしよう。
イベントストーリーをなぞるなら、エクストラの出現地点はアカメデイア周辺の廃寺のはずだ。これも周辺地図を調べたらそれっぽい地名があった。
基本的にタワーディフェンス型防衛ゲームなので、私達アクセプタントは発生したエクストラに対処するという形がほとんどだ。そもそもエクストラとは何か、何のためにアカメデイアを襲撃するのかという根幹はサ終ギリギリまで明かされなかったし、最後の誰得鬱展開の中で説明されたので当初の設定からは改変されているのではないか、という考察も多かった。
何にせよ今回は襲撃の日と発生場所がかなりはっきりしているのだ。何もせずにただ襲撃を待つより、こちらから先手を打つのもアリだろう。
ということで、サクラ提案で学園周辺パトロールを実施することになった。メンバーは出撃予定の4人。突然エクストラとの遭遇戦になったとしても、アクセプタントが4人いれば対処できるだろうというカズラの判断だ。
アカメデイアは山を背負うように建っていて、エクストラは周辺の森から現れる。今まで森の探索はしたことがない。山一つ分の森林をくまなく調べ、怪しいところを割り出すなんて作業はたった7人の少女にできることじゃない。学園から離れすぎないこと、事前にルートを決めて夕方までに帰ることを条件に、今回のパトロールは認めてもらえた。
次の休日。学校指定の通学リュックに周辺地図と水筒、お菓子を詰めて出発だ。目的地のお寺っぽい地名までは、地図上は破線がうねりながら引かれている。整備されているかはともかく、道はあるということだ。アカメデイアの正門からぐるりと塀を周り、裏手に出てそれっぽい道を探す。
「これ、かな?」
カズラが指差す方向に、道…というか木々の切れ目のようなものがある。校舎の配置からみた位置関係からすると、この獣道が地図に載っている破線のようだ。
「思ってたより危なそうだね。サクラ」
「うん、ありがと」
アヤメが差し出してくれた手を握り、獣道を進む。カズラが先頭、アヤメとサクラがその後ろを進み、最後尾はサカキだ。自然に戦闘配置と同じ並び順になるあたり、私達もエクストラとの戦いに慣れてきているということだろうか。
人の手が入っている気配はないが、下草はあまり伸びていない。誰かが定期的に歩いているのか、あるいは何かがここを通ってアカメデイアに向かっているのか。ひょっとしたら当たりかもしれない。
秋の山は涼しく、歩いていても汗をかかない。なだらかな上りになっている道をゆっくり進む。アヤメがエスコートしてくれるおかげで荒れた道も歩きやすく、ちょっとしたピクニック気分だ。
30分ほど進んだところでカズラが足を止めた。視線の先を見ると、規則的に積まれた四角い石が並んでいる。崩れてはいるが石段のようだ。やや急な斜面を上っていく先は、木立に遮られてよく見えない。
「…何かありそうだね」
うねる道を進んできたので正確な位置は分からないが、目的地に到着したようだ。空気が一段と冷えたような気がして、アヤメの手をぎゅっと握る。アヤメも不穏な空気を感じているようで、握り返してきた。
「このまま私が先頭。アヤメとサクラは周囲を警戒。カズラ先輩、一応戦闘準備をお願いします」
「はい」
「うむ。心得た」
サカキがグレーの目を薄く閉じ、何かを掴むように手を伸ばす。するとそこに一瞬で白地に銀の花弁が散る1mほどの槍が現れた。ぐるんと短槍を一振りすると、きらきらと舞い散る白銀の光と共に服装も制服から白ベースの戦装束に切り替わる。アニメ化されれば派手な変身バンクが付きそうなところだが、ゲームでは残念ながら服装が変わる描写があるのみだった。
アクセプタントの戦装束については、それぞれのキャラの個性に応じて和洋中華エスニック要素が組み合わさった、バラエティ豊かな構成になっている。サカキは上半身は両肩の出た中華風の上着で、下は狩衣のように前掛けのついた袴みたいな服だ。ちなみにサクラは桜の花びらのような淡いピンク色のローブにとんがり帽子で、可愛らしいがこんな山道だと帽子が枝に引っかかって歩きにくいこと間違いなしである。
戦装束を纏っていると身体能力が全体的に上がるがじんわり疲れるので、無駄に変身するのは避けている。今回は射程の長いサカキが即応態勢をとることで、突然の遭遇戦に備えている形だ。
土台の土が流れ、あちこちに傾いた石段を上る。カズラの青い瞳が油断なく光り、緊張感が高まっていくのを感じる。小鳥の囀りすら聞こえない静まりかえった山の中、私達の足音だけが響いていた。
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