第2話 異変

 飛鳥桜子は2011年(平成6年)ごろ、闇金融業を営んでいた女性、高宮夏子(58歳)と知り合い家族ぐるみで付き合うようになった。バーベキューやったり、お茶菓子食べながらテレビ見たり。

 夏子は利子は通常より高い利率で事件の10年以上前から知人に金を貸しており、借金額が膨らんで借り手に返済の見通しが立たなくなったり返済期限が守られなかったりした場合は、ハルキら若者グループが取り立てを代行していた。

 回収に成功した場合、夏子はハルキらに対し一定の手数料を支払っていたが、手数料に満足しなかった桜子らは複数の借り手から回収した数万円 - 十数万円の金を着服しており、そのことを知られて2021年12月上旬には夏子と口論になっていた。

「あんた、いい根性してるね!?」

 桜子は夏子がどことなく、『金田一少年の事件簿』の『雪夜叉殺人事件』で加納りえ役を演じた、東てる美に似てる気がしてなからなかった。

「そっちがふんだくりすぎなのよ!」


桜子は当初は夏子より強い立場で借金の取り立ても手伝っていたが、夏子から30万円を借金して以降は一転して見下される立場となっており、事件前は組長の夫の誠也に収入がなく、生活費に加え暴力団関係者への借金返済・上納金のため多額の現金を必要としていた。

 誠也はどことなく亡くなった今井雅之に似ていた。


 また当時は建設会社を経営していたが、その会社も自転車操業状態で収入はほとんどなく、2022年1月時点で高宮靖、夏子夫婦の借金は約6600万円以上になり。靖が小遣い銭欲しさに窃盗未遂を起こしたこともあった。また、宇梶剛士に似た靖は「奥さん石田ゆり子に似て綺麗だな?やらせてよ」と桜子を犯そうとしてきた。


 また2022年1月下旬に桜子は高宮宅の改装工事を請け負ったが、夏子は「貸金やその利息と相殺するから」と工事代金を桜子に支払おうとせず、夏子の態度に憤懣を募らせていた桜子は2022年2月ごろには「いつかうち殺さなでけん」などと口癖のように言っていた。またライヤ、ハルキ兄弟は夏子を「厚化粧でクレオパトラみたい」という意味から陰で「パトラ」と蔑称で呼んでいた。

 

 桜子には悩みがあった。息子の海斗だ。彼を事件に巻き込むわけにはいかなかった。

 祠に向かって念仏を唱えると馬の仮面をかぶった仙人が現れた。

「儂は馬頭めずと申す。何かようか?」

「私はこれから過ちを侵さないといけない。息子を守ってもらいたい」

「最近、欲求が溜まってな?このままだと、人をやっちまうかも知れない。そのまえにやらせてくれ」

 馬頭は桜子の色白い股にぶっといモノを挿入して射精した。

「丈夫な馬人間を生んでくれよ」

 桜子の蜜の味に満足したのか、馬頭は海斗を守ることを引き受けた。


 3月6日夕方、誠也の建設会社の作業員が運転していた車が利根川川沿い堤防道路にて対向車と接触事故を起こし、助手席に乗っていた桜子が車から身を乗り出して相手に抗議していたところ、車が傾いて桜子が川に転落した。この時は弟のハルキらが駆け付けて桜子を助け、救急車で病院に搬送したが、事故直後に誠也が車を移動させようとしたところ運転操作を誤って川に車を転落させ、翌日にはハルキら家族が重機などを使って車を引き揚げていた。

 ライヤとハルキの両親は2人を残して姿をくらました。誠也と桜子は2人を息子同然に大切に育てた。


 桜子は夏子の「資本金1億円の金融会社を設立する」という話を誠也、海斗に伝えたほか、桜子の「夏子を殺したい」という発言を聞いた誠也も夏子に同調し、夏子に対し敵意を強めるようになっていった。また新居の購入費用を求めていた誠也は工事代金が支払われていないことを知ると「夏子はカタギのくせに俺たちヤクザをバカにしている。殺してでも金を奪おう」と考えて夏子を車で付け狙った。


 3月9日、誠也は夏子から家の借金の実情を打ち明けられると「夏子を殺して金を奪おう」と提案し、桜子も生活難・借金苦から脱することに加えて夏子への憤懣を解消することを目的に夫、誠也の意見に賛成し、夏子殺害計画を練り始めた。

 誠也、桜子夫婦は2人で「夏子に嘘の土地購入話を持ちかけ現金2600万円を用意させた上で殺し、遺体は利根川に捨てる」など具体的な犯行計画を練ったほか、桜子はライヤに「夏子を殺して金を奪い、折半しよう」と持ち掛け、ライヤを犯行に誘い入れた。これを聞いたライヤは「自分が殺すので奪った金の6割が欲しい」と申し出たが、桜子は「自分が殺す」と譲らなかった。


桜子は馬頭から海斗を別世界に送ったと聞かされた。


 3月19日、桜子が「夏子が土地購入代金として2,680万円を用意した」と確認したため、誠也は「翌20日に夏子の殺害を決行する」と指示し、ライヤも了承した。桜子は20日夕方に夏子を車で誘い出し、五霞町内の公園駐車場まで連れ出すと、車内で話をしながらカッターナイフで夏子を殺害する機会を窺ったが躊躇し、この時は殺害を実行できなかった。その一方で桜子は同日22時ごろ、車で近くまで来たライヤに「金は家にある」と伝えた。


 一方で業を煮やした誠也は桜子がいた駐車場へ向かい、持ってきたアイスピックを桜子に示した上で「俺が殺してやる」と言ったが、これに対し桜子は「自分で殺す」と言い殺害予定場所の童夢公園に向かったもののそこでも殺害を躊躇した。

 園内施設は児童遊具や健康遊具、芝生広場などが所在している。公園所在地は西側で権現堂川(行幸湖)に接しており、対岸には権現堂公園が所在している。また、権現堂川(行幸湖)沿いには遊歩道が整備されており、茨城県のヘルスロードに指定されている。童夢公園内をはじめ、周辺には桜の木が多く植生し、近隣には埼玉県幸手市の権現堂堤が所在しているため、春にはこれら周辺の場所と併せ桜名所の一部となる。

 

 その際、桜子は離れて駐車していたライヤから包丁を示され「俺が刺し殺す」と申し出られた際にも再び「自分で殺す」と言ったが踏ん切りがつかなかった。


 21日朝、桜子と別れたライヤは自宅アパートに帰り、自宅にいたハルキに「仕事をしているから子分(ハルキの力士時代の先輩)の見舞いをして待て」と言い、ハルキとハルキのガールフレンドを病院まで乗用車で送り届けた。


 ハルキらは21日の大半を病院で過ごしていたが、同日夜になって兄、ライヤが乗用車でハルキを病院まで迎えに行った。


 ライヤは夏子を殺害しようとしている誠也・桜子を出し抜き、ハルキとともに夏子宅で留守番をしていた次男、和央わお(15歳)を殺し、夏子の現金を手に入れることを考えた。そのため実行力のあるハルキに対し500万円の分け前を提示するなどして「夏子の家に2,000万円ある。夏子の次男和央が1人で家にいるから和央を殺して奪おう」と持ち掛けた。

「アイツとは格ゲーやったり、そこそこ仲がいい」と、ハルキは最初は渋った。

「だからこそいいんじゃんか?仲が悪かったら殺しにくい。コロナでこれから世の中大変だ。年金だって老後はもらえないかも知れない」

「やるしかないのか」

 ハルキがその提案に賛同したため殺害の謀議が成立した。


 その上でライヤとハルキ兄弟はともに夏子宅へ向かい、家人殺害の実行を決意した。21日22時40分ごろ、ライヤは桜子宅に入ると2階室内にいた和央を見つけ、和央の首をタオルで絞めたが、この時点では和央は死亡せず失神しただけだった。


 兄弟はこの時点では殺害に失敗していたことに気づかぬまま、桜子宅の室内から指輪など約398万円相当が入った金庫1個を見つけて盗み出し、乗用車に積み込んだほか、ライヤが失神した和央を「おまえはもう死んでいる」と、乗用車のトランクに押し込んだ。その後、ハルキが乗用車を運転して五霞町内を走行していたが、まだ生きていた和央が途中で息を吹き返して車内で暴れ出した。

 車内では尾崎豊の『銃声の証明』が流れている。


 ハルキは「通報しないよう脅して帰せばいい」と殺害を躊躇するような発言をしたが、ライヤが「和央は絶対に通報するから殺せ」と発言し、和央にとどめを刺すこととなった。


 兄弟は21日23時45分ごろ、利根川に架かる橋で乗用車を停車すると、橋の上でトランクを開けて和央の首にロープを掛け、2人がかりで再び和央の首を絞め、和央の体にコンクリートブロック3個を結び付けた上で和央を利根川に投げ込み殺害した。 

「今更だけどさ、和央ってどことなく、えなりかずきに似てるよね?」と、ライヤ。

「わた鬼ってワンパターンだよね?いつも、親戚が集まれないとか」と、ハルキ。

 

 その一方で母、桜子は誠也から「自宅アパートに夏子を連れて行き監視しておけ」と指示され、夏子を自車に乗せた上で組事務所のある自宅アパートまで連行したが殺害に踏み切れずにいた。誠也・桜子夫妻は犯行当日の21日ごろの深夜、ひどく落ち込んだ様子で玄関に座り込んでいるのを知人女性に目撃されていた。


 桜子がライヤに電話で相談したところ、ライヤは「殺しきれないなら俺が殺してやる」と申し出た。その一方で22日13時ごろ、夏子の長男、元太郎(18歳)から元太郎の友人らに対し「弟がいない」と連絡があったため、元太郎とその友人らは政界に関わりのある少年、斬(17歳)を含めた6人で和央の行方を捜索したが、発見できなかったため翌23日2時ごろ解散した。元太郎・斬とも仲間と解散してから約2時間後の4時ごろに行方不明になって友人たちとの連絡が途絶えたほか、それに前後して夏子も知人らとの連絡が途絶え行方不明になった。


 殺害方法の思案がつかなかった桜子が14時ごろ、再びライヤに「もうどうしようもない。お母さんを助けて」と電話で助けを求めてきたため、ライヤは「ハルキに夏子の殺害を実行させよう」と考え、乗用車内で「おふくろが夏子を殺せと言っている」などと協力を求めた上で「飲食物に睡眠導入剤を混ぜ眠らせた上で殺害する」と決めた。

「アンタは生まれ変わったらケルベロスになれるね?」

「日本人だからそりゃあ無理だよ。閻魔大王ならあるかもな?」


 桜子は同日15時ごろになってライヤから電話で「殺すなら眠らせた方がいい。食べ物か飲み物に睡眠薬を入れてきてやろうか」と伝えられたため、夏子から好物を聞いた上で「お茶と弁当を届けてほしい」と頼み、ライヤは睡眠導入剤12錠をすり潰してタルタルソースに混ぜた上で弁当のおかずに掛け、弁当を元通り包装した上で弁当をアパートに持って行き、桜子に手渡した。桜子の勧めでその弁当を食べた夏子は間もなく寝入ったため、桜子は誠也を呼び、ライヤ・ハルキも加えて4人で殺害・遺棄方法などを相談した。この時、夏子の長男元太郎に桜子・夏子が2人で一緒に行動していたことを知られていたため、誠也は「元太郎も口封じのために殺し、桜子の軽乗用車に2人の遺体を乗せ利根川に沈めよう」と主張し、4人の殺害共謀が成立した。


 桜子たち4人は23日0時ごろ、意識が朦朧としていた夏子をワゴン車に乗せ童夢公園まで連行し、30分後の0時30分ごろに公園に駐車したワゴン車内で、ハルキが夏子の首をワイヤー錠で絞め、夏子を殺害した。ライヤはこの時、殺害行為を実行していたハルキにたばこを手渡したりワゴン車の窓に指で「人殺し」と書いて冷やかしたりしており、ハルキもライヤから受け取ったたばこを吸い、笑いながら夏子の首を絞め続けていた。

「人をコケにした報いだぜ?ババァ!」


 桜子は助手席でハルキが夏子の首を絞め始めるのを見たてからいったん車外に出たが、夏子が死亡したことを確認した誠也から「もういい、死んだ」と聞かされても「夏子が息を吹き返すのではないか?」と心配したためハルキに「夏子の首を絞め続けて」と指示した。夏子を殺害後、ワゴン車内では夏子の遺体が見えないようビニールシートを被せたが、ハルキは夏子の遺体の上に座ったり寝そべったりしていた。

 桜子は最初はライヤの方が恐ろしいと思っていたが、クレイジー度はこっちの方が上かもと思った。

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