第四章 高校生の思い出

第10話 遊園地

「のう、ダイチ。今度カケルやマホさんたちと共に、遊園地とやらに出かけるじゃろ? 本当に、わらわもついて行って良いのか……?」

「当たり前だろ。お前も行きたがってたじゃないか」

 自宅の俺の部屋にて。ナズナは、神妙な顔つきで相談をしに来ていた。


 俺、翔、真帆の三人は大学入試に成功し、合格祝いとして遊園地に行こうという話になっているのだ。

 ついでに、二人と仲が良いナズナも誘って。


「じゃ、じゃが、あやつらは恋人になったとそなたが言っていたではないか! そこをわらわが邪魔するわけには――」

「それなら俺だって行くわけにいかないだろ。アイツらが俺たちを誘ったのは、アイツらの希望だ。無下にする方が良くないんじゃないか?」

 俺の返答に、ナズナは口を尖らせながら黙り込んでしまう。


 一体何を臆する必要があるのやら。


「それとも、何か行きたくない理由でもあるのか?」

「そんなわけがなかろう! わらわもカケルやマホさんと会えるのは嬉しいし、遊園地で遊んでみたいと思っておる!」

「なら行こうぜ。行くまでの道中は一緒に行動して、その後はアイツらだけで行動できるように取り計らえばいいだけだろ?」

 実際のところ、翔たちから誘われた時は断ろうと思った。


 だが、ナズナも連れてきて欲しいと言われてしまえば断る方が難しい。

 コイツがこの世界で暮らせる時間は大分短くなってきているので、思い出作りになりそうなものがあれば、どうしてもやってあげたくなるのだ。


「ダイチがそう言うのなら……。分かった、行こう」

 いまいち乗り気には思えない返答。だが、ナズナの表情は明るく輝いているように思える。


「変なこと考えてないで、何を食うとか、何に乗るとか考えようぜ。時間は有限だからな!」

「……そうじゃな。楽しまなければ損か!」

 俺たちは向かう先の遊園地のパンフレットを見ながら、予定を決めていく。


 そうこうしている内に皆で出かける当日となり、俺とナズナ、翔と真帆は県外の遊園地へと向かうのだった。



「お、おお……! 見たこともない大きな乗り物があちこちに……! これら全てに、本当に乗れるのか!?」

「そうだよ。もしかして、ナズナちゃんは遊園地に来るのは初めて?」

 遊園地入り口にて。木々の影から見える巨大アトラクションを、ナズナは好奇心に満ちた瞳で見つめている。


 動き回りながらそれを行うので、道行く人々に衝突しないか少し心配だ。


「うむ、初めてじゃぞ! わらわたちは、博物館だとか美術館に連れて行かれることが多かったからの!」

「そうなんだ。私は何度か行ったことがあるけど、ここに来るのは初めて。一緒に楽しもうね!」

 女子二人で楽しそうに話している様子を微笑ましく思いながら、別の場所でパンフレットを睨むように読んでいる翔に近寄る。


「よう。良さそうなデートスポットは見つかったか?」

「うーん……。やっぱり真帆ちゃんと観覧車に乗って、クレープを食べ――って、今日はそういうのは無しって言ったじゃないか! 今日はみんなの大学合格祝いで来たんだよ!?」

 翔は分かりやすく慌てだし、大声をぶつけられてしまう。


 その声に気付いた真帆が、俺たちを遠巻きに見ながらクスクスと笑っているようだ。


「へいへい。んじゃ、俺たちも楽しめるようなコースづくりを頼むぜ」

「ほんとに分かってんの……? まあ、いいけどさ」

 言いながら、翔はパンフレットに指をあてる。


 俺は、その指の動く先を見ながら説明を聞くことにした。


「まずはナズナちゃんの要望通り、ジェットコースターに行こうと思う。その後に大地のお化け屋敷で、メリーゴーラウンドとかコーヒーカップを巡りながらお昼って感じかな」

「人気が高いやつから回ると。遊びそびれが出るよりかはいいんじゃないか?」

 俺たちも楽しむべきではあるが、特にナズナは遊園地に来ること自体が初めて。


 希望していたアトラクションに乗れず、悲嘆に暮れたまま帰宅するのではあまりにも可哀想だ。


「君は本当に優しいお兄ちゃんだよね。僕の兄さんなんて、あれやれこれやれって、あごで使ってくるんだから……」

「優しいとか気持ち悪いこと言わないでくれよ。俺の家はちょっと特殊だから、翔の方が一般的だと思うぞ」

 愚痴への返答に、翔は目を丸くしていた。


 ナズナの事情は説明していないので、特殊という言葉に好奇心を抱いたのかもしれない。


「そろそろ目的のジェットコースターに行こうぜ。お二人さんも、待ちかねているようだし」

「あ、そうだね。真帆ちゃん、ナズナちゃん。出発しようか」

 俺たちは、ジェットコースターがある遊園地の一番奥に向けて歩き出す。


 アトラクションにたどり着き、列に並び、俺たちが搭乗する番が来るまで、喋りながら待ち続けるのだった。

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