子供のころの友人の話

 子供のころ、私には背の高い友人がいた。

 彼は同じクラスだったが、普段は別の学級で学んでいた。最初はただのクラスメイトだったが、他の友人に連れられて彼の家に行くことになった。彼はゲームが好きで、ずっとファミコンをしていた。対戦型のゲームをすることもあれば、私たちは別のことをして遊んでいることもあった。

 彼には苦手なことが多かった。クラスメイト達は優しく、彼が靴を履き替えるときまで手伝った。しかし彼についている教員は、「できることは自分でやらせてあげて」と言った。彼は体力はあった。運動もできるし、当然靴だって履ける。それでも私たちは、何ができて何ができないのかがわからず、何なら手伝ってほしいのか、彼について学ばなければわからなかったのだ。

 彼は数字を覚えるのが得意だった。クラスメイトの誕生日をすぐに覚え、会うたびに確認した。一度うちに来た時に、母親の誕生日も聞いた。カレンダーをじっと見つめていた。



 そんな彼が、全く話さなくなったことがある。担当の先生が変わったのだ。基本的にその学級の先生は優しくて、明るい先生がなると思っていた。しかしその新しい先生は暗くて、ぶっきらぼうで、ドイツから持ち帰ったベンツに乗っていた。私たちとは別の学級で何が起こっているのか。それはわからないが、明らかに何かがおかしかった。

 その直後、先生は教頭試験を受けた。そういうことだったのだ。

 クラス替えは二年ごとだったが、その先生は一年で友人の担当をやめた。また別の先生が担当になって、友人の口数は少し戻ってきた。けれども子供の成長にとって、その一年がとても大きいだろうことは想像ができた。

 その先生は、私たちが卒業した数年後教頭になったらしい。



 私は彼を友人と思っていたが、彼が私をどう思っているのかはわからなかった。そういうことを、口にしないのである。

 中学では、同じ部活になった。フィールルドワーク部と言って、野山を歩くものである。彼の学級の先生も参加することになったが、彼にいろいろな役割を担わせようとした。部で、「学び」を求めていたように思う。彼が、しおりの表紙に絵を描いたのを覚えている。ただ、彼が一番楽しそうなのは歩いているときだった。体力があり、あまり疲れた顔を見せなかった。

 あの一年間の前には、戻っていないと感じた。それでも、少しずつ明るく、よく話すようになっていたように感じた。そして、私についてきてくれることが多かった。部の中では、一番付き合いが長かった。山に行った帰り、最寄りの駅で解散する。そのあと家までは、一緒に帰った。

 私のことを友人と思ってくれているのではないか、そう感じた。



 中学校を卒業してからは会っていない。就職で苦労しているという噂は聞いた。今はどこにいるだろうか。元気にしているだろうか。どれぐらいおしゃべりしているだろうか。

 ふとした時に出会ったら、また誕生日を確認してくれるような気がする。

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