「子煩悩の父」
俺はアラン・アイデール。イレネ王国の辺境に住むしがない元冒険者で、息子が可愛くて仕方ない子煩悩だ。
今は今夜のご飯になりそうな獲物を森で探している。
俺の息子は4か月前から剣術と魔術の両方を習い始めた。
魔術の方は妻のエレナによると「天才!」らしいのだが、剣術の方もなかなか才能がある。
つい先日初めて剣を握らせてみたのだが、体の使い方や型を教えると少しぎこちなかったものの、剣を初めて握ったとは思えない動きだった。
日々の鍛錬のおかげでからだもしっかりしてきているし、学習能力も高い。
将来は良い剣士になるだろう。
これはエレナとギルを魔術師にするか剣士にするかで喧嘩をしそうだ。
しかしそんなギルを俺はたまに本当に3歳の子供なのか疑うときがある。
いや、自分の子供なのだから本当に3歳なのだが、なんというか言動が時々おっさんくさかったり、どこからそんな難しい言葉を覚えたのかと聞きたくなることを言うのだ。
考え方もしっかりしているようだし、なにか芯を持って生きているように感じる。
ようするにめちゃくちゃ賢いのだ。俺の子供とは思えないくらいに。
俺がギルくらいの時は何をしていたかを思い出しても、近所の人たちにいたずらをしていた記憶しかない。
まぁ親としては子供が聡いのは嬉しい。しかもギルはめったにわがままを言わないので手がかからないのだ。
しかし楽な反面、少し寂しさはある。
「父さん~」
とか言って甘えてきたりしてほしい。
これは親なら当然の考えだろう。
ただ、ギルは子供っぽさが無いが、俺も父親として上手くやれているかは自信がない。
俺自身父親というものがいたことがないから、正直どう接するのが正解か分からないのだ。
最初の方は威厳ある父親を目指そうと思っていたが、エレナに伸ばし始めた髭を似合わないと笑われてからは諦めて、なるべく近い距離間で接しようとしている。
同じ目線でものを考えてくれる父親、なかなか良い親じゃないか?
我ながら感心だ。
そして一緒に魔物狩りにでも行き、俺のかっこいいところを見せて
「父さんすげー!」
と尊敬に満ちたギルの視線を勝ち取るのだ。
ギルも将来剣士になろうと決めて、見事な父さんっ子に……完璧だ。
まてよ?そうなったら将来肩を並べて魔物と戦ったりとかしちゃうのだろうか?
俺のピンチをギルが間一髪で助けてくれたりとかあるのか?
なんてすばらしい未来だろうか。是非そうなってほしい。
その時ふと、奥の茂みから音がした。
じっと見ていると何かが出てくる。出てきた何かはフゴフゴと鼻を鳴らしながら当たりを見回している。
音がした茂みの中から出てきた生物は
こいつは見たものすべてに襲い掛かってくるくらい気性が荒い。
そのため、子供が森に入って荒猪に襲われることも多い。
しかしこいつの肉はうまい。今夜の夜ご飯はこいつで決まりだな。
俺は荒猪がこちらに気が付かないように気配を消し、茂みに隠れた。
「ハァッ!!」
のそのそとこちらに近づいてきたところを茂みから飛び出し、首を切断。
「今夜の夜ごはん確保っと」
一人で満足げに呟く。
剣に付いた血を振り払うと、倒れている荒猪の亡骸を担ぐ。大物が取れたので上機嫌だ。
俺はこの荒猪を見て喜ぶ家族の姿を思い浮かべながら、そのまま帰宅するのだった。
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