第2話「それはほんの些細な気まぐれ」



エルマを傷つけたのは国王と王太子と伯爵令嬢と城の使用人と司教とパーティ会場にいた貴族と石を投げてきた民衆と……いっぱいいるな。


でもただ呪いをかけるだけじゃつまらないな。


そういえば悪徳商人が「幸せの絶頂から突き落とされたとき人はとても良い顔をする」と言っていたな。


僕も真似してみようかな。 


王太子とその婚約者が平和な日常を満喫していたらある日突然呪いがかかって不幸のどん底に突き落とされる……面白いね。


執行猶予期間は王太子と伯爵令嬢が結婚するまでの一年間。


奴らの結婚式の翌日僕は神を辞めると発表し国を守っていた結界を消滅させ、エルマを虐めていた人たちにリウマチと痛風になる呪いをかける。 


ついでに王太子と伯爵令嬢の罪も映像と音声付きで暴露してやろう。


僕の配下の妖精たちは噂話を集めて来るのが大好きだからね。


それに一年あれば善良な人たちを他国に逃がせる。


そういえば神様なんて面倒くさいことなんで始めたんだっけ?


三百年前、僕があの国を通りかかったとき。


そこには痩せた田畑が広がり、貧しい身なりの村人がモンスターの脅威に怯えながら田畑を耕していた。


素朴で優しい彼らに触れ、助けたいと思った。


だから僕はモンスターの侵入を防ぐ結界を張り、枯れた大地に雨を降らせ、配下の妖精たちを使い土地を豊かにする魔法をかけた。


最初のうちは皆、僕の与えた加護に感謝していた。


だけど最近はそれが当たり前になってきたのか、誰も僕に感謝しなくなった。


僕への感謝の意を示す祭りの規模は縮小され、それに伴い供物も減った。


国は豊かになり他国からの移民も増えたけど、豊かになればなるほど人々の心は荒んでいく。


荒んでいく人たちを見ているのが辛くて、何度神を止めようと思ったか分からない。


それでも極稀に、貧しい家に生まれながら、優しく清らかな心をもった少女に出会うことがあった。


そんな人たちが僕に神の仕事を続けさせてくれたんだ。


清らかな心の少女が幸せに暮らせるように、僕は彼女に光魔法を授けた。


少女の周りにいた人たちは彼女の持つ光魔法の恩恵を受けたくて、少女に親切にしていた。


少女も快く光魔法で周囲の人たちの怪我を治療していた。


だけどしばらくして少女を聖女と崇め利用しようとする輩が出てきた。それから少しずつおかしくなっていった。


初代聖女は生涯独身で、神殿からほとんど出ることができなかった。


二代目の聖女は、聖女として初めて王族に嫁いだ。


だけどそれは白い結婚で……暇を持て余した彼女は城を抜け出し精力的に貧しい人の治療にあたっていた。


先代聖女も正妃だったけどやっぱり白い結婚だった。


彼女は王妃の仕事に追われ、それでもなんとか時間を捻出しては貧しい人に無償で治療を施し……過労死した。


彼女たちは聖女になって幸せだったのか?


僕は彼女たちに余計な力を与えてしまったんだろうか?


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