painful dirt
諸根いつみ
解放の日
自分は特別な存在だと思ったことはあるかい? それが嘘だとわかった時はいつだった? もしくは、本当だと確信した時は?
解放の日。
スエットの襟首をつかまれ、頭は床につくかつかないかの空中でブラブラし、埃の絡まった髪がフローリングの床を掃いた。頬には痛みの熱が広がり、視界をこじ開けるのは無機質な光。体に力が入らない。
「大丈夫か!?」
顔に唾が降りかかる感触がした。体を揺さぶられ、頭がガンガンと床に打ちつけられる。
「しっかりしろ。死ぬな」
再び目を閉じた金子に残されたのは、下半身を覆うぬるぬると生温かい感触だけ。
次に目を開けた時に見えたのは、見知らぬ白い部屋だった。点滴のチューブが腕につながっていた。
数日後に外に出た時に見えたのは、たくさんの人々と光だった。
病院の人が、金子に着せた大きめのパーカー越しに金子の背を撫で、車に乗せた。金子の目は見ひらかれ、体は震えていた。
そして二度と、家に帰ることはなかった。それからの日々の中、金子はすでに理解していた自分の特殊さが思っていた以上なのだということを痛いほど感じると同時に、自分が特別ではないのだということも理解した。
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