第10話「あれは捕食者の目だった」微ざまぁ





一年前、パーティで見たエルマのトカゲのような目が気になっていた。あれは被食者ではなく捕食者の目だった。


あのときから俺は……いや俺たちは竜神ルーペアトの手のひらの上で転がされていたというのか?


神が人を騙すなんて……!


「宰相、続きを読め」


「承知いたしました。

『衛兵にパーティ会場から連れ出されたあと僕は罪人の乗る荷車に乗せられた。

 王都の住人は平民に至るまで、先代の聖女の罪状をすでに知っていたようだった。

【光魔法を失った偽物の聖女】

【公金を横領していたクズが! 俺たちの納めた税金を返せ!】

【新たに光魔法を授かった伯爵令嬢を虐めていたんだってな! このろくでなし!】

 などなど……民衆に散々酷い言葉を言われて石を投げられたよ。

 一人が僕に向かって石を投げると周りにいた民衆も石を投げ出した。

 たくさん石と罵声のプレゼントをもらったよ。

 でも一つ気にかかることがあるんだ。

 エルマの罪はパーティで暴かれたばかりなのに……まあ冤罪なんだけど。

 なぜ民衆がエルマにかけられた罪状をこんなに詳しく知っていたのかな?

 まるで誰かにそう言うように仕組まれていたみたいだったよ』」


エルマを売った隣国の商人には嗜虐しぎゃく趣味があり、

「元聖女様の心が完全に折れた状態で私の前に連れてきてください」

と言ってきたのだ。


だから俺は罪人用の木の柵のついた荷車にエルマを乗せるように指示した。


予めエルマを乗せた荷車が通るルートを決めておいて、人通りの多い道に仕込んだ男たちにエルマの悪口を言わせ石を投げさせた。


民衆にエルマが悪人だと印象付けるために。


俺が仕込んだ人間はそう多くない。


一人が罪人に向かって石を投げれば他の奴らもそれにつられて石を投げると思ったんだ。


自分より弱い者を虐めてストレス解消するために。


「まだ続きがあるので読み上げます。

『そして荷車が行き着いた先は北の森。

 そこで僕を出迎えたのは、はげ上がってお腹が出た中年の男だったよ。

 隣国の商人だと名乗るその男は、【王太子に大金を払って元聖女を売って貰った】と言っていたな。

そいつは【高い地位にいた者がその地位を失い平民のわしにすがってくる姿を見るのが好きなのだ。幸せの絶頂から突き落とされたとき人はとても良い顔をするからね】と言ってゲフゲフ笑う糞野郎だったね。

 それから【ここで味見をするか】と気持ち悪いこと言ってきたから、彼の大事な物を消滅させリウマチと痛風になる呪いをかけといた。

 沿道で石を投げてきた男たちと荷車を運んだ衛兵も同じ呪いをかけておいたよ。

 僕のかけた呪いは光魔法でも消せないからね。

 彼女を虐げてきた人間全員に同じ呪いをかけてやっても良かったんだけど、商人が言っていた【幸せの絶頂から突き落とす】という言葉に感銘を受けてね。

 王太子が結婚するまで猶予をあげることにしたんだ。

 エルマを虐げたことに心当たりがある者は気をつけたほうがいい。

 今日からじわりじわりとあちこちが痛み出すよ。

 王太子と王太子妃に僕の言葉は届いているかな?

 幸せの絶頂から突き落とされた気分はどうだい?

 自分たちが犯した罪が白日の下に晒されて今どんな気持ち?』」


「宰相の読み上げた言葉が全ての家の窓ガラスや鏡に映し出されたのだ。

 文字の読めない者のためにご丁寧に音声付きでな」


俺の体はカタカタと震えていた。


俺もこれからリウマチと痛風にかかるのか?


もしかしたら大事なものの消滅も……!



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